2016-05

文:玉木英明

2016年5月号 同じ姓は夫婦の証? 日本の伝統と世界標準

結婚すると…

カルーセル:僕と結婚してください。

デラックス:いいわよ。そのかわり、結婚したら、私の姓を名乗ってね。

カルーセル:でも、君の姓は「デラックス」でしょ?ぼくの名前「麻紀」に合わないよ。

デラックス:あなたの姓「カルーセル」も、私の名前「マツコ」に合わないわ。

カルーセル:君の姓「デラックス」って変じゃない?

デラックス:失礼ね。あなたの姓「カルーセル」だって、50代以上の人しか分からないわ。

カルーセル:結婚したら、ふつうは男性の姓を名乗るのが自然だろ?      カルーセル麻紀?→昭和の部屋へ

デラックス:私は私の姓に自信と誇りを持っているわ。友人達は私のことを姓で呼ぶし、

職場での印鑑もサインも名刺すらも結婚して変えるなんて考えられないわ。

カルーセル:僕だって、姓が変われば僕じゃなくなってしまうような気がするよ。

デラックス:じゃ、私たち、二人とも今のままの姓を使いましょう。

カルーセル:夫婦別姓?子供が生まれたら、姓はどうするんだい?

デラックス:生まれたときに考えればいいじゃない。

「夫婦別姓」を認めない法律

カルーセル:民法750条では、「夫婦は夫または妻の氏を称する」と定められてて、

去年12月、最高裁判所がこの法律は正しいと判断したんだ。ということは、

結婚してどちらかの姓を名乗らなければ日本の法律に違反することになるんだよ。

デラックス:あなたが私の姓を名乗らないのなら、結婚なんかしないわ。

カルーセル:ちょっと待って。君は僕と結婚したくないの?

デラックス:私は一人娘だから、私があなたの姓を名乗ることになったら、私の家系は

途絶えてしまうと父も母も嘆いているのよ。

カルーセル:ぼくだって一人息子だ。だから、君の家の姓を名乗れば、年老いた僕の父母の

面倒を誰が見るのか心配だ。

男性の姓に合わせる?

カルーセル:今の日本は、夫側の姓に合わせるのが全体の97%だよ。だから、男の側の姓を

名乗っておくのがいいに決まってるよ。

デラックス:古い話をしてるわね。夫婦が同じ姓を名乗れと法律で規定しているのは、

実は世界中を見渡してももう日本くらいしか残ってないのよ。

カルーセル:ほ…ほんまか?

デラックス:ほんまですよ。あなた、関西出身だったのね。

カルーセル:いや、びっくりすると、なまるのや。

デラックス:実は、20年も前から日本は「同姓」に対する法律的な規制は撤廃するように、

国連から勧告を受けているのよ。

カルーセル:日本以外のこと…聞かしてほしいのだけれど。

デラックス:アメリカ、ヨーロッパ、フィリピンなどはキリスト教の影響が強くて、夫婦が

同じ姓にすることが多いといえるわね。

カルーセル:例えば?

デラックス:アメリカの大統領候補ヒラリー・クリントンさんの夫はビル・クリントンさん

でしょ。

カルーセル:なるほど。

デラックス:でも、ドイツでは男女の姓を両方とも重ねる場合が多いのよ。例えば、テニスの

クルム・伊達公子さんはそうね。

カルーセル:ぼくに当てはめるなら、デラックス・カルーセル麻紀になるな。

デラックス:…逆に、中国や韓国などは、結婚しても名前は変わらず、結婚前のままよ。

カルーセル:中国や韓国では、夫婦は別々の姓を名乗らなければならないの?

デラックス:ちがうちがう。同じ姓でも許されるのよ。だから「どっちの姓を名乗っても、

法律的には、かまわない」ということなのよ。

日本の伝統は?

カルーセル:日本は、どうして夫婦が同じ姓を名乗るの?

デラックス:実は、日本は伝統的には夫婦別姓の国だったのよ。

カルーセル:そんなこと、聞いたことないよ。

デラックス:例えば、北条政子は源頼朝と結婚しても名前はそのままだったでしょ。

カルーセル:なるほど。

デラックス:もっと言えば、姓を変える人も多かったのよ。例えば桂小五郎は明治維新に

木戸孝允と名前を変えたし、村田蔵六が大村益次郎になったわ。

カルーセル:おお、あの長州藩の?

デラックス:そうよ。歴史の節々で姓名を変えた人は多くて、明治政府が姓名を変えない

ように通達を出していたくらいだったのよ。

カルーセル:そうか。ということは、明治維新の頃は、夫婦別姓のほうが多かったんだね。

…それなら、いつから、日本は「夫婦同姓」になったの?

デラックス:1898年に明治民法ができたときに、当時の欧米列強、すなわちキリスト教の

国々の習慣に合わせるために同姓を強制したのよ。

カルーセル:欧米に合わせるため?当時の欧米は、夫婦同姓だったの?

デラックス:そうね。でも、イギリスなどは特に法律で強制はしていなかったわ。統一まで

夫婦同姓を強制していたドイツも、1990年代に法律上の強制を撤廃したのよ。

家族の絆が

カルーセル:NHKの昨年11月の世論調査で、結婚をしたときに夫婦の姓についてたずねたら

「夫婦別姓」に賛成する人は、半数ほどだったそうだよ。

デラックス:若い人は夫婦別姓を認める割合が多かったのだけれど、特に年配のひとたちは

夫婦が同じ姓の方がいいという意見が多かったようね。

カルーセル:夫婦が別姓だと、家族の絆(きずな)が弱まらない?

デラックス:さっきの話の通り、中国や韓国は夫婦別姓でしょ?私の中国や韓国の友人は、

姓はちがっていても夫婦、家族の絆はとても強いって言ってたわ。

カルーセル:変なこと聞くようだけど、日本の国内で、姓(苗字)を変えることって、

すぐにできるの?

デラックス:簡単にはできないわ。でも、裁判所の判断で正当な事由があるときのみ

受け付けてくれるそうよ。だから可能性としてはゼロではないわ。

カルーセル:正当な事由って何?

デラックス:「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来たす」場合よ。

カルーセル:たとえば?

デラックス:内縁の夫とその子と長年暮らしてたのだけど、その夫が死んでしまって子と

母の姓が異なる場合なんかは、それね。ただその場合も、同じ戸籍の人すべての

姓を変えなきゃならないし、さらに置き換える姓も、好きに選んだものには

ならないのよ。

カルーセル:難しいなぁ。

デラックス:元暴力団員が、更正のために姓名を変えたいという場合などは、認められた

事例があるそうよ。

カルーセル:名前くらい、バサッと変えちゃいけないの?

デラックス:お金の受け渡し、貸し借り、不動産や法人の登記など、人間は社会の中で色んな

責任や義務をもちながら生きているのよ。犬や猫みたいに「ポチ」とか「タマ」

では済ませられないでしょうね。

カルーセル:だって、ご近所に住んでる人が「タマ」でも、友達の名前が「ポチ」でも僕は

かまわないよ。

デラックス:殺人とか、強盗とか、大きな犯罪をした人ならどうかしら?簡単に名前を

変えて、結婚でも就職でも商取引さえもできるようになるのは、ダメだと

思わない?

カルーセル:そうだね。私たちが安心して社会生活を送ることができるのは、「簡単には

変更できない姓名」のおかげかも知れないね。

晩婚・少子化をくいとめるには

カルーセル:話を結婚にもどそうか。正直なところ、夫婦の姓が同じである必要はないような

気がしてきたなぁ。

デラックス:そうよ。多様性、グローバルという言葉に日本人が対応していくためには、

夫婦の姓を合わせることを、考え直す時期にきたのでしょうね。

カルーセル:そうだね。特に社会の中で頑張ってる人は、男であれ女であれ、自分の

オリジナルの姓を使いたいと考えるのは自然なことだね。

デラックス:結婚するのに、「姓をどちらかに決めなくてもいい」ということになれば、

男性も女性も「嫁にいく」とか「婿になる」なんてこだわらなくてもすむから、

日本の晩婚問題も少子化問題も、緩和される方向に動くかも知れないわね。

カルーセル:ようし、いっそのこと、君の姓「デラックス」も僕の姓「カルーセル」も

両方やめて、夫婦で誰かの養子と養女になって、いずれの姓も名乗らないように

しようか?

デラックス:考えてみてもいいわよ。いったい、誰の養子になるっていうの?

カルーセル:「オリエンタル」さんはどうだい?最近有名だよ。

デラックス:あそこのご家族は、みんな「武勇伝」がいえなきゃダメだそうよ。

カルーセル:じゃ、「エレキテル」さんの養子でもいいよ。

デラックス:だめよ…だめだめ。

カルーセル:「とにかく明るい」さんはどうかな?

デラックス:毎日、パンツ1枚で過ごすのは、ちょっとね。

カルーセル:今日の話題は…なんだったっけ?

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