2013-03

文:玉木英明

2013年 3月号 水陸両用ブルドーザー。東北の被災地の救世主。

東北の浜辺で

シギ :あら、あなた!何をするのよ!

ハマグリ:それは、こっちのセリフや!何をするのや!

シギ :あなたは、貝でしょ?だったら、鳥に食べられるのは当然でしょ?

だから、わたしのクチバシに かみつくのは、おやめなさい!

ハマグリ:何をいうてますのや…ぼくが、かみつくのをやめたら、あんた、

僕のことを食べるやないか?

シギ :それは、しょうがない事でしょ?食うものと食われるものの関係は、ひ

っくり返すわけにはいかないのよ!おとなしく、私に食べられなさい!

ハマグリ:いいや、絶対に離すわけには、いかんでぇ!

シギ :生意気な貝ね!

ハマグリ:横暴な鳥やな!

シギ :おだまり!この軟体動物!

ハマグリ:あっちへ行け、この鳥類!

シギ :離しなさい!

ハマグリ:いやや、離さんでぇ!

シギ :はなしなさい!

ハマグリ:はなさんでぇ!

シギ :…ううう…

ハマグリ:…ううう…

シギ :…ちょっと…待って…。中国のことわざでは、このあたりで、私たち

がケンカをやめないと、漁夫がやって来るんじゃなかったっけ?

ハマグリ:そうや…なぁ。漁夫がやってきて…どうなるのやったっけ?

シギ :たしか、私たち二人とも捕まえられて食べられる運命じゃなかった?

ハマグリ:そんな話やったなぁ。確か、小学校で勉強したでぇ。「漁夫の利」や。

シギ :そうよね。第三者に利益を持って行かれるくらいなら、このあたりで、

お互いに離したほうがよさそうね。

ハマグリ:そんなこと言うて、ぼくが力を抜いたとたんに僕のことを食べるのと

違うやろね。

シギ :あっ、向こうの方から漁夫が来た!

ハマグリ:あかんあかん、このままじゃ、ほんまに「漁夫の利」になってしまう!

シギ :私を信用してちょうだい!

ハマグリ:ようし、わかった!いっぺんに、はなそやないか!

シギ :いくでぇ!いち・にの…

ハマグリ:さん!

長い煙突つきのブルドーザー

シギ :あぶなかったわ。もう少しでチキンスープにされるところだったわ。

ハマグリ:いやいや、ぼくも貝汁にされるところやった。

シギ :あれれ?あの漁夫、妙な機械をあやつってるわ。変な形の

ブルドーザーね。何か煙突みたいなものがついてるわ。

ハマグリ:あ、あのブルドーザー、水陸両用ブルドーザーやがな。

シギ :何ですって?水陸両用ブルドーザー?

ハマグリ:そうや。1971年から20年間ブルドーザー会社の「コマツ」

が作ったものや。

シギ :すごく古い話ね。

ハマグリ:そう、確か、僕が砂浜で小柳ルミ子の「わたしの城下町」を聞いてた

時やった。

シギ :あなた、何歳なの?

ハマグリ:まあ、ええがな。それより、あのブルドーザーが出てきてくれたと

いうことは、いよいよ…そうか…。うっ…うっ…うれしいやないか…。

シギ :…あなた…泣いてるの?

ハマグリ:…いや、失礼。感動して、涙が出てきたんや。

シギ :どうして?

ハマグリ:東日本大震災の被災地に、コマツの社長が、支援のために送り込んだ

のや。

シギ :ブルドーザーは、たくさん送り込まれたんでっしゃろ?

ハマグリ:あのブルドーザーは、すごいブルドーザーで、何と水深7mの深さ

でも地面を掘ったり、がれきをかき集めたりできるのや。

シギ :なんですって!水深7メートルですって?!

ハマグリ:そうや。2階の屋根まで水に浸かってる場所でも、掘り返すことが

できるのや。

シギ :今まではどうしてましたの?

ハマグリ:船を浮かべて、不安定な船の上から砂をすくうか、それとも普通のブル

ドーザーで水がひいてから作業するのが、やっとの状態やったのや。

シギ :そうか。そうすると、7mまでもぐっても、あの煙突みたいなもので

エンジンが息をできるから、ガンガン土やらガレキやらをかき集めて

すすめるわけね?

ハマグリ:そうや。逆に、クレーンをつけた「船」やと、浅すぎる川や海岸では、

座礁してしまう。低い橋の下も通り抜けることができない。でも、

この水陸両用ブルドーザーなら、どこでも入っていける。部品かて、

ほとんどコマツの普通のブルドーザーのものを流用して使えるのや。

20年も前に生産中止

シギ :えらいごついブルドーザーを、「コマツ」はつくってるのね。

ハマグリ:いや、さっきいったように、1993年で作るのをやめたブルドーザー

やがな。

シギ :どうして、作るのをやめたの?

ハマグリ:簡単や。採算がとれないからや。

シギ :でも、大震災に備えるためには、そんな有効なブルドーザーは作り

続けないとダメじゃないの?。

ハマグリ:1000年に1回の大震災のために、一つの企業が売れるかどうか

わからないものを作り続けることは、無理やろなぁ。

シギ :それで、今回コマツの社長さんは、どうやって、そんな20年も前の

ブルドーザーを持ってきたの?

ハマグリ:世界に5台だけ残ってたこの水陸両用ブルドーザーを、今回コマツの

社長さんが1台修理して、東北に送り込んでくれはったのや。

シギ :うれし…や…ないか…。

ハマグリ:あんたも、関西人、いや関西鳥やったのやね?

無線で操作。震災の救世主

シギ :ほんで、ちょっと聞きまっせえ。この写真を見ると、この水陸両用

ブルドーザー、人が乗り込む場所が見当たりまへんやないか。

ハマグリ:そうや。無線で遠隔操作をするのや。

シギ :ええ?ラジコンみたいなものなんやね?

ハマグリ:そうや。万が一のことがあって、流れの急なところや足場の不安定な

海底みたいなところでも、作業をする人は安全や。

シギ :と、いうことは、危ない海岸やら川の中やら、もっと言うと余震が

ひんぱんに起こってる最中でも、無人のブルドーザーを動かすことが

できますのやね?

ハマグリ:そうや、そうや、宗谷岬や。

シギ :…中田ダイマル・ラケットの漫才のネタやがな。

ハマグリ:そんな漫才師知ってるなんて、あんたかて、古いなぁ。

シギ :あんた、貝のくせに、もの知りやねぇ。

ハマグリ:いやいや、それほどでもないよ。

シギ :なんやら、私、あんたのことが好きになってきましたでぇ。なあ、

いっしょにコンビを組もうやないか?

ハマグリ:あかん、あかん、ハマグリとシギがコンビを組んで何をしまんのや?

シギ :海岸で、ケンカしてるふりをするのや。

ハマグリ:それで?

シギ :漁夫が近づいて来たら、落とし穴で捕まえるのや。

ハマグリ:漁夫なんかつかまえて、どうするの?

シギ :なんや、食べたことないのかいな?漁夫はすごく美味しいのや。

ハマグリ:…ほんまか?…まさか、タマキタイムズは、恐怖のホラー小説に

なってきたのとちがうやろね。

シギ :ふっふっふっ…、細かくしてなぁ…。

ハマグリ:ど、ど、どうするの?

シギ :「焼きのり」にして食べるのや。

ハマグリ: 何ていう、「焼きのり」ができるの?

シギ :「漁夫のり」や。