2020-09

文責:玉木英明

2020年 9月号 スウェーデン。世界一国民の幸福感が高い国

かがみとお妃さま

お妃さま: かがみよかがみ。

      この世で、一番美しいのはだあれ?

魔法の鏡: おや、お妃さま。

コロナの話題からぬけ出して、久々の登場ですね。

お妃さま: そんなこと、どうでもいいわ。

          一番美しいのは誰かと聞いているのよ。

魔法の鏡: はい、お妃さま、あなた様でございます。毒リンゴで殺された白雪姫にかわって、

        あなた様が一番の座を手に入れたことは津々浦々にいたるまで、幼児でも

        知らぬ者はおりません。

お妃さま: あのね、余計なことは言わないでね。

魔法の鏡: いえいえ、あなた様のアンチ・エイジングに対する怨念(おんねん)ともいえる

        執着心(しゅうちゃくしん)は、美容整形外科医たちの格好の標的、カモがネギを

        しょって歩いているという揶揄(やゆ)もしばしばでございます。

お妃さま: あのね、難しい漢字はやめてね。

魔法の鏡: いえいえ、「白い、雪のような」という形容を得るために、毎日答えを強要しつつ

        私を凝視する威圧感に満ちた目、強圧的な声、いずれも人間離れしたものと確信します。

お妃さま: あのね、ほめているのでしょうね。

魔法の鏡: いえいえ、お妃さまの200年以上も続く生命力、通常ならミイラか化け物のたぐいの

        ものだというのに、いまだに若さを追い求めるお姿、驚愕と呆然のウルトラ・コラボ

        レーションでございます。

お妃さま: ええい、だまれ!今月も目いっぱい、よくも言ってくれたわね!

お妃さまが病気?

お妃さま: かがみよかがみ、ちょっと聞いてもいい?

魔法の鏡: はいお妃さま、なんなりと。

お妃さま: 私、最近体調が悪いの。

魔法の鏡: …どうなさいました?

お妃さま: 大きな声で言えないのだけれど…私ね、腰やひざがいたくて歩くのがつらいのよ。

        物忘れもひどいし耳が聞こえにくいの。新聞を読むのにメガネが必要だし、

        歌を歌おうとしても高い声が出ないの。

魔法の鏡: お医者は、何と言ってましたか?

お妃さま: TOSI(ティーオウ・エスアイ)という病気かもしれないって。

魔法の鏡: それって…

お妃さま: これが進むと耄碌(もうろく)、もっと進むと老衰(ろうすい)って呼ぶ状態に

        なるそうよ。私は漢字が苦手だから、よく意味がわからなかったわ。

魔法の鏡: 難しい字ですからね。

お妃さま: だから、コロナが一段落ついたら、スウェーデンに移住しようと思うの。

魔法の鏡: スウェーデン?

お妃さま: あそこなら、TOSIになっても幸せな日々を過ごせると新聞で読んだわ。

        寝たきりの人もほとんどいなくて、施設に入らずいつまでも自宅で生活できると

        聞いたし、たとえ認知症になって施設に入っても、一人で出かけたり、お酒も

        自由に飲めるって聞いたわ。

魔法の鏡: お妃様、よくお調べになりましたね。

スウェーデン、尊重するのは個人の意思

お妃さま: どうして、スウェーデンでは老人たちが幸せなの?

魔法の鏡: 個人に対する感覚が、日本と全く違うと言われています。

お妃さま: どういうこと?

魔法の鏡: 老人であろうと子供であろうと、個人の意思を第一に尊重するのです。

お妃さま: でも、認知症になった人の「個人の意思」なんて、尊重できるの?

魔法の鏡: 日本では認知症の老人が徘徊すると、一人で歩かせた親族らが責任を問われます。

お妃さま: 家族の責任?

魔法の鏡: そうです。2007年に認知症の人が徘徊して鉄道事故を起こしました。遺族が

        監督責任を問われて損害賠償を求められました。

お妃さま: スウェーデンでは、誰の責任だというの?

魔法の鏡: 個人が一人で散歩に出かけたいといえば、介護者なしで散歩にいかせます。

        それで事故があったとしても、個人の責任です。家族や施設の監督責任は問われません。

お妃さま: 道に迷って帰って来られなくならない?

魔法の鏡: GPSを持たせたりしますが、個人の「散歩したい」という意思を一番に尊重します。

お妃さま: 老人は、自分の子と一緒に暮らさないの?

魔法の鏡: スウェーデンで自分の子と暮らしている老人は、全体の4%しかいません。

お妃さま: 日本人は、老いれば自分の子供にたよって生きる割合が大きいというのね?

魔法の鏡: 「老いては子に従え」とか「代がわり」なんていう言葉は、年をとったら子に中心が

        移り、自分は養ってもらう立場になることをあたりまえとする日本的な言葉です。

お妃さま: 日本では、子供も、親にたよろうとする意識が強くない?

魔法の鏡: その通りです。スウェーデンでは義務教育を終えた若者は、通常16歳で親の家を出て

        一人暮らしを始めます。日本の若者よりずっと早いと言えます。

公務員の介護士

お妃さま: 老人たちの世話をする「介護士」が、日本では恵まれてないと聞いたけれど。

魔法の鏡: その通りです。日本の介護士は、きつい仕事の割に収入が少なくて、

        医療行為はできなくて、老人の様々な身体のことについて、判断を下す権利が

        ありません。

お妃さま: スウェーデンの介護士はできるの?

魔法の鏡: 介護士のできることが幅広いことと、3万人ほどの人口の市に公務員が2300人いて

        そのうち400人が介護福祉士です。みんな公務員です。

お妃さま: え?介護士が公務員なの?

魔法の鏡: そうです。スウェーデンの介護士たちは、安定した比較的高い年収を保証されています。

お妃さま: 市民19万人の鈴鹿市には、公務員の介護士は何人いるの?

魔法の鏡: 鈴鹿市の公務員は1500人ほどいますが、介護福祉士はいません。

お妃さま: ということは、日本の介護福祉士は「会社員」?

魔法の鏡: はい。しかも、零細の会社がほとんどです。

お妃さま: 「公務員の介護福祉士」の募集は、ないの?

魔法の鏡: 日本中をながめても、皆無に近い状態です。

消費税25%で「あたりまえ」

お妃さま: スウェーデンでは、大学まで学費が無料で18歳以下の人たちの医療も無料と聞いたわ。

        日本も、まねしたらどうなの?

魔法の鏡: 消費税を10%に上げた時、日本は大騒ぎだったでしょ?

お妃さま: スウェーデンの消費税って何%なのよ?

魔法の鏡: 25%です。しかも高収入の人には、日本の都道府県民税にあたるランスティング税が

        約10%、市町村民税にあたるコミューン税が20%程度あります。

お妃さま: ご、ごついやないの!

魔法の鏡: お妃様は、関西の出身だったのですね?

お妃さま: 興奮するとなまるのよ。

魔法の鏡: それにスウェーデンは、相続税を2004年に廃止しました。

お妃さま: どうしてよ!お金持ちが有利になるじゃないのよ!

魔法の鏡: スウェーデンでは、お金持ちの人たちが海外に逃げてしまうのを防ごうというのです。

お妃さま: 相続税を上げた日本とは、真逆の発想ね。

魔法の鏡: スウェーデンの政策は極めて合理的です。ある市が「この医療サービスは

        税金を何%かあげれば可能」ということになれば市民が増税を議論し、

        さらに税金が高すぎる」ということになれば「どの医療サービスを廃止するか」

        という議論をするわけです。

お妃さま: 医療サービスの受益者は自分たち自身であり、その見返りとして

        負担が当然生じることを住民が納得しているのね。

魔法の鏡: それに先ほどの地方自治の議員の大部分は政治家とは別に本業を持つ兼業議員なのです。

お妃さま: え?どういうこと?

魔法の鏡: スウェーデンの市会議員や県会議員は、会議に出席した時間に応じて時間給を

        もらっているのです。本職は医師や看護師、大学教員や農家などです。

お妃さま: そんな人たちが、議会はいつ開くの?

魔法の鏡: 議員たちが本業の仕事を終えた17時ころから開くのです。

人間らしい死の迎え方とは

お妃さま: 私が年をとって死が近づいたら、どうなるのかしら?

魔法の鏡: 日本では、医師が主導権を持ってる場合が多いので、すぐ治療、投薬になります。

お妃さま: どういうこと?

魔法の鏡: 日本では、例えば口から水や食物がとれなくなれば点滴で水分を補い、

        胃に直接栄養を送る胃瘻(いろう)をおこないます。

お妃さま: スウェーデンでは?

魔法の鏡: 無理に水や食事を与えません。ほおっておきます。

お妃さま: …ひどくない?

魔法の鏡: それが人間らしい死の迎え方だと考えるのです。

お妃さま: やっぱり、死ぬの?

魔法の鏡: そうです。生きているものはみんな死にます。

お妃さま: 死んだら、戒名(かいみょう)をつけなきゃならないし、

        院号をつければ多額のお金が必要で、お墓は先祖代々のお墓に入ろうと思えば

        お寺の檀家になって…。

魔法の鏡: お妃さまは日本のことをよくご存じですね。スウェーデンで最近急速に

        ふえているのが「ミンネスルンド」と呼ばれる林への埋葬です。

お妃さま: 林へ?墓標はどうするのよ?

魔法の鏡: たてません。遺骨を焼いて灰にして墓の管理人が林にまきます。死んで森に帰すのです。

日本の老人。何を準備するのか?

お妃さま: スウェーデンの人たちの方が、日本人より「自然」に近いような気がするわね。

魔法の鏡: その通りです。生まれてきた人が安心して生活できるように国民みんなで支え、

        しかも「死ぬ」ということも当たり前のこととして受け入れるのです。

お妃さま: 老後までに、2千万円ためなくてもいいの?

魔法の鏡: 必要ありません。

お妃さま: 死んだ時の葬儀の費用を、葬儀会館ティアで積み立てておかなくてもいいの?

魔法の鏡: 必要ありません。

お妃さま: わかったわ。かがみよかがみ、私が死んだら、葬儀には誰が出席してくれるかしら?

魔法の鏡: シンデレラの継母はきっと来てくれるでしょうし、

赤ずきんや七匹の子ヤギを食べたオオカミ、

日本からはカチカチ山のタヌキや、

サルカニ合戦のサルも来てくれると思います。

お妃さま: …それは、どのような方たち?

魔法の鏡: それぞれの物語の中で、お妃さまと同じような役をつとめた方たちです。

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