文:玉木英明
2010年 3月号 桃の節句に考える・どうして3月3日なの?
ひな人形で知る宮廷生活!
ひな祭りの由来
外国人:エクスキューズミー、アナタ~ハ、フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリ?
日本人:おいおい、変なやつが来たでぇ。外人さんかいな?
外国人:スミマセン、ヒナマツリハドコデスカ?
日本人:カタカナは、読みにくいがな。この最新鋭の日本語翻訳機を使って
くれるか。
外国人:オオ、サンキュー、ベリー…お~きに、ありがとさん。すんまへん
なぁ。
日本人:この翻訳機、関西弁に翻訳するんかいな。
外国人:いやあ、最近は便利なもんがありますなぁ。「あると思います!」
日本人:うわぁ、ごつい翻訳機やな。お笑いコンビ「天津」のネタまで翻訳
してるで。
外国人:アイーン!そんなのカンケイない!オッパッピー!
日本人:ちょっと古いなあ。もとの英語は、何てしゃべってるのか興味深い
で。
外国人:イエス、ユーキャン。アイ・アンダスタンド、オバマ・クリントン。
日本人:わかった、わかった。ほんで、何がききたいのや?
外国人:実は、ひな祭りの人形を買うて帰りたいんですわ。
日本人:ほう、日本のひな祭りを知ってるのやね?
外国人:女の子にお人形を買ってやる日でしょ?
日本人:いや、人形を買うことが大事やなくて、ひな人形をかざることで、
女の子の健やかな成長と幸せを祈ろう、いうことなんや。
外国人:高価な人形ほど、ご利益があるいうわけとちがいますのやな?
日本人:そうや。もともとは古代中国で、3月上旬の巳の日に「上巳の日」
の「除災の儀式」いうのが行われていたんや。
外国人:「巳の日」って何ですのや?
日本人:十二支のうちの、「へび」にあたる日や。十二支は、ザ・タマキ・
タイムズの2010年1月号をよむと、ようわかるで。
外国人:要するに、3月3日のお祭りやなくて、そのあたりの暦の「へび」
の日に行う、儀式やったわけやね。
日本人:そう、もともとはね。
外国人:ほんで、何で「人形」を飾りまんのや?
日本人:古代中国では、その上巳の日に水辺でお祓いを行い、自分の身代わ
りに「人形(ひとがた)」に穢れを移して川に流してたんや。これ
がひな人形のもとや。
外国人:そやけど、ひな人形は川には流さへんやないですか。
日本人:日本の平安時代に「ひいな」と呼ばれる紙製の玩具の人形があった
んや。貴族の子女がこの「ひいな」に色んな調度品を供えて飾って
遊ぶことを、「ひいな遊び」いうたんや。
外国人:わかった!わかりましたで!「上巳の節供」と「ひいな遊び」の紙
人形とが混ざり合って、ひな祭りになったわけやね!
日本人:あんた、えらい!外国人やのに、上手に漢字書いたねぇ!そう、最
初は「節句」とちごて「節供」やったんや。すごい!
外国人:えへへへ・・・おおきに・・・ありがと。照れるな・・・。
「ひな人形」で知る宮廷生活!
外国人:いつごろから、あんなに豪華な人形を飾るようになりましたんや?
日本人:江戸時代からや。紙やった雛人形が、今のように豪華になってきた
のは。宮廷生活を模して、内裏雛(だいりびな)が作られて、その
後、左右大臣、三人官女、五人囃子(ごにんばやし)などが増えて
いったんや。
外国人:「きゅうーてい生活」て何ですか?
日本人:昔の「天皇家」の生活のことや。きっと、ぎょうさん家来がおって
華やかな生活やったんやろなぁ。
外国人:オウ、「テンノウ」、エンペラー!コワイー!
日本人:急に翻訳機がこわれたんかいな?あのなぁ、日本の天皇は、簡単に
は「エンペラー」いう言葉で表せへんのや。
外国人:どういう意味なんでっか?
日本人:「エンペラー」いうと、ヨーロッパでは「皇帝」を意味するやろ?
そうすると、イメージするものが、例えば、ローマ帝国やら、フラ
ンスのナポレオンみたいな人たちを連想するわけや。
外国人:ちがいますのんか?
日本人:そうやな。日本の天皇は偉い人には違いないのやけど、ちょっと国
民のいだくイメージが違う。勢力争いで殺す殺した、追い出したと
いう血なまぐさいイメージがあんまりあらへん。
「桃の節句」と呼ばれるわけは?
外国人:3月3日は桃の季節やから、「桃の節句」いいますのやろ?
日本人:それもある。ただ、古い時代から、桃は邪気を祓うという信仰が日
本にはあったんや。
外国人:どこにそんなもんが書かれてましたんや?
日本人:「古事記」の黄泉の国(よみのくに)のくだりに書かれてる。
外国人:オウ、「コジキ」、モノモライ、ビンボー、beggar!
日本人:調子悪い翻訳機やなあ。あのな、ちがいまんのや。「古事記」いう
のは、6世紀から7世紀にかけて太安万侶(おおのやすまろ)いう
ひとが編纂した書物なんや。
外国人:ほな、「乞食」とはちゃいまんのやな?
日本人:死んだ妻を黄泉の国に追っていったイザナギが、そこから逃げてく
るときに追っ手に投げつけたものが、「桃」やったんや。
外国人:だいぶ、省略して説明しましたな。
日本人:古代の中国でも、桃には魔よけの力があると考えられてた。とにか
くや、それくらい桃は、呪力をはらいのける力のあるものやとされ
てるんや。
外国人:そうでっかー。それが、「桃の節句」のもとになってまんのやな。
白酒・ひしもち・雛あられ・蛤
外国人:白酒は祝い酒の意味でっしゃろ?
日本人:そう。「おみき」いうのは「御酒」いうことばにさらに「御」がつ
いたんや。そのうち白酒を「しろき」と呼んで桃の節句に飲むめで
たい酒になった。
外国人:菱餅は?
日本人:餅を、女性の豊かな生命力にあやかろうと形を女陰をしめす「ひし
形」にしたらしい。
外国人:雛あられは?
日本人:室町時代以降につくられるようになったらしいんや。菱餅から転じ
たものと考えられてるでぇ。
外国人:蛤は?
日本人:季節的に、「貝が旬やから」いうのはもちろんあるやろな。昔は、
3月3日に磯遊びをする風習も各地にあったらしい。
外国人:「しゅん」て…しょげてるわけでっか?
日本人:ちがうちがう。食べごろや、ということや。
外国人:食べごろやからというて、桃の節句にならべますのんか?
日本人:いや、それだけやない。二枚貝は貞節の象徴と考えられていたから
蛤のお吸い物を食べるんやという人かておる。何にしても、色んな
ものがすべて女の子につなげられてるわけや。
外国人:いや、おおきに、ありがとさん。あんた、「ひなまつり」のこと、
よう知ってますなぁ。あんたの趣味は、いったい何でっか?
日本人:ひまな、つりや。
外国人:Oh, … 暇な、釣り!