2010-11
文:玉木英明
2010年11月号 世界から集まってのコップ10。
生物多様性を守るための世界の叫びとは?
コップ10。先進国と発展途上国の話し合い
よっぱらい:いよっ、ぼくは酔ってませんよ。文句ありますか?
今夜はい~っぱい飲んぢゃったぁ!ヒック、お月さん!
こんばんは。♪飲み過ぎたのは~、あなたのせいよぉ~♪
くすり屋:あのね、店の前で大声で歌を歌わんといてくれませんか?
よっぱらい:おうマスター、レモン酎ハイを一杯くれへんか?
くすり屋:どこの世界に、白衣を着た飲み屋のマスターがおるんや?
あのな、私は薬剤師や。やくざいし!
よっぱらい:え…?やくざ?任侠の世界に生きとるあの「やくざ」やな?
♪唐獅子ぼ~た~ん~♪いよっ!高倉健!
くすり屋:なんぎな酔っぱらいやなぁ。ここにはレモン酎ハイは、
あらへんよ。
よっぱらい:え?…ないの…?淋しいやないか。
何でもええから、お酒もって来てんか。
くすり屋:ここは、飲み屋とちゃいまっせ。酒はありまへんで。
消毒用のアルコールなら、ありますけどな。
よっぱらい:そうそう、それや。
はよ、その、アルコールをもって来てんか!
くすり屋:あんたも、お酒飲んでこんな時間にふらふら歩き回っとらんと、
ちょっとは社会のこと考えてみたらどうや?
よっぱらい:考えてますよぉ~。ちゃ~んと考えてますよ~。
くすり屋:COP 10(コップ・テン)て、知ってまっか?
よっぱらい:ロボ・コップが10人そろてますのか?
くすり屋:ちょっと、古いなぁ。20年も前の映画が、すっと出てくるなんて
ただ者やないなぁ。
よっぱらい:えへへ、ヒック…おおきに、ありがと。照れまんなぁ。
くすり屋:ほめてませんで。あのな、コップ・テンいうたら「生物多様性」
を守るために、世界の国の人たちが、名古屋で開いてる会議のこ
とや。
よっぱらい:西部…つた…妖精?
くすり屋:漢字がちゃいまっせ。「生物多様性」やがな。地球にはいっぱい
生物がおって、そのおかげで生態系のバランスが保たれたり、
未来にまでいろんな遺伝子が伝えられていくから、どんなに小さ
な生物でも人間のエゴで絶やすことなく守っていかなあかん、
みんなでその恩恵にあずかろやないかというこっちゃ。
よっぱらい:いっぺんに何行もしゃべったら、わかりまへんがな。もっと、
簡単に説明してんか。
熱帯雨林の消滅。1秒間に1ヘクタール。
くすり屋:オランウータンもゾウもトラも、どんどん数が減ってる。何億年
もかかって地球がつくりあげてきた自然界の生物が、ここ100年の
間に、どんどん住むとこがなくなって絶滅しかけてるんや。
よっぱらい:オランウータンやらゾウがおらんでも、かまわんよ!動物園が
多少、淋しくなるだけやんか。
くすり屋:ちがう、ちがう。言いたいのは、そういう動物の住める熱帯雨林
がどんどんなくなってきてしもてる、いうことや。1秒間に
1ヘクタールほどのジャングルが消えていってるんや。人間の
都合のええ土地にかえられてしまってるんや。
よっぱらい:熱帯雨林のジャングルはあぶないでぇ。毒ヘビやらサソリ、虫
とかトカゲも、危ない菌かておるはずや。ぼくは嫌いや。
くすり屋:そのすべてが、人間の病気を治す物質のカギになるんや。
よっぱらい:ほんまかぁ~?うそやろ~?
くすり屋:あんたの飲みたがってる酒かて、菌類がデンプンを「アルコール
発酵」させたものなんやで。
よっぱらい:その菌だけは、大事や!守りましょやないか。
くすり屋:「タミフル」って知ってまっか?
よっぱらい:知ってるがな。鳥インフルエンザをやっつける、すごく
頼もしい薬やろ?
くすり屋:そうや。その「タミフル」は去年1年間だけで3000億円も売上が
あったんや。
よっぱらい:1年間で、3000億円? ごついなぁ。
くすり屋:そうや。けどな、その原料はというと、中国料理に使われてる
「八角」いう香辛料なんや。
よっぱらい:ほな、その「八角」いう香辛料を食べたら、インフルエンザに
かからんようになるわけやな?
くすり屋:ちがうんや。その八角から抽出したエキスをを原料にして何段階
も化学反応させて、ようやく作り上げたものが、「タミフル」
なんや。
よっぱらい:それが、生物多様性と何か関係ありますのか?
くすり屋:八角だけやない。原産地がそのまま地球の自然を残してくれてる
から、そこで発見される植物や菌なんかから、新たな薬が生み出
される。ただ、原産地はいつまでも熱帯雨林のジャングルや植物
をそのまま残しといても、お金にならへん。そやからジャングル
をどんどんつぶしていってる。こんな状況やからオランウータン
が、一匹も、おらんうーたんになってしまうのや。
よっぱらい:あまり、しゃれ、うまいことおまへんな。ほんで、どない…
なりまんのや?
くすり屋:大事な薬の原料はどんどんなくなっていく。病気の新しい治療薬
かて、今後は見つからへんかも知れへん。
よっぱらい:あかん、あかんがな!大事な熱帯雨林を守らなあかんがな!
くすり屋:あのなぁ、つば飛ばしないな。
よっぱらい:ぜーったい許しませんでっ!守ってみせる!オレも男や!
くすり屋:つば、飛ばさんと。
よっぱらい:なあ、くすり屋さん、おねがいや…お願いやから、そんな大事
な熱帯雨林をつぶすのやめよやないか。自然を守ろやないか。
くすり屋:そやけど、熱帯雨林を守ってたら、インドネシアみたいな発展途
上国はいつまでたっても貧乏なままや。タミフル作ってる先進国
ばっかり裕福になっていく。
よっぱらい:…どない…したらよろしいのや?なあ、薬屋のおっちゃん…
教えてえな…。
くすり屋:泣きないな。あんたも怒ったり泣いたり、いそがしい人やなぁ。
よっぱらい:あかん、あきまへんがな。もう地球はおわりや。人間の数
ばっかり増えて、動物は人間に害のないものだけ残されて、あとは
ぜーんぶおらんようになってしまうんや。
くすり屋:そやから、「タミフル」を作ってる先進国が、熱帯雨林を守って
くれてる人らに、その薬を売った利益を分配しょうやないか、
という話し合いが、コップ10なんや。
決まらない、決まらない
よっぱらい:うまいこと、話し合いはできましたんか?
くすり屋:あかん。原料を極めて有効な薬に作り上げるまでの研究開発費は
莫大や。そやから、先進国側は、これから開発される薬に関して
途上国に一定の利益分配をしょうやないかと言うてる。
よっぱらい:途上国はどない言うてますのや?
くすり屋:もっと、過去にさかのぼって利益を還元せいと言うとる。
よっぱらい:どのくらいまで、さかのぼれと言うてますのや?
くすり屋:大航海時代までや。
よっぱらい:…いつ…やって?
くすり屋:簡単にいうたら、バスコ・ダ・ガマやら、マゼランの時代や。
よっぱらい:ええ?15、16世紀とちゃいますのか?
くすり屋:その通りや。
よっぱらい:えらい、前までさかのぼりますのやなぁ。
くすり屋:そやから、先進国は「無茶いうな」いうてる。
よっぱらい:どこらへんで、話し合いが収まりますのやろなぁ?
くすり屋:今回の名古屋のコップ10では、話がおさまらん可能性が高い。
よっぱらい:あきまへんがな。なあ、くすり屋ちゃん、なんとかええ方法は
ありまへんのか?
くすり屋:ないことは、ない。
よっぱらい:えぇ?ありますのか?ほんまでっか?ほんまでっか?
くすり屋:あんたにできる大事なことがある。先進国が十分な利益を得て、
それを途上国に還元してやるための、基礎的なことがらや。
よっぱらい:はよう、おしえてえな。なあ、じらさんと、はよう!
くすり屋:いまから、ここでぎょうさん薬を買うて帰ることや。