2015-06

文:玉木英明

2015年6月号 活き活き日本スポーツ界。魅力の大きな競技とは?

文化系女子・体育系男子

文化系女子:ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを…

体育系男子:いっち・にっ!…いっち・にっ!

文化系女子:独りでぶらぶらお歩きになって…

体育系男子:いっち・にっ!…ぜんた~い、止まれっ!

文化系女子:うおっほん…、池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で…

体育系男子:ばんごぉ~! イッチ!ニ!サン!シ! やすめ!

文化系女子:そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えない好い匂が…

体育系男子:ファイト・おぅ!ファイト・おぅ!ファイト・おぅ!

文化系女子:ええい、うるさい!「芥川龍之介」にファイトはいらないわ!

体育系男子:すんまへんなぁ。東京オリンピックめざして、トレーニングしてますのや。

文化系女子:最近、テレビをつけたら、スポーツニュースばっかりじゃないの!文学的な

話題はないの?

錦織圭に石川佳純、桐生祥秀も

体育系男子:卓球の世界選手権、ダブルスで吉村と石川が出てましたなぁ。決勝で敗れは

したものの、ようがんばってくれました。

文化系女子:そうそう、かわいい顔で、めっちゃ強くて、私はテレビの前で大きな声出して

          応援してました…。ち、ちがうのよ。わたしは、芥川龍之介の…。

体育系男子:錦織は、スペインのバルセロナで大会2連覇ですなぁ。

文化系女子:そうそう、マドリードとイタリアは惜しかったけれど、あのコースと

スピード、めちゃすごかった!…ちがう、ちがいまっせ!私が言いたいのは

蜘蛛の…

体育系男子:スポーツ番組、しっかり見てくれてますなぁ!それに、あんたも、関西の

出身やね?

文化系女子:ほっといてんか。それより、サッカー、カーリング、野球、バスケット

ボール、シンクロナイズドスイミング、レスリング、ラグビー、アメフト、

このところ、日本人が大活躍やないの?

体育系男子:きちんと、体育会系の活躍をチェックしてくれてますのやね?

文化系女子:そやかて、陸上で桐生祥秀が「9秒台で走るかも」いうから、みんなで

ドキドキしながらテレビの前に1時間前から集まって…。

体育系男子:よく知ってるどころか、そりゃスポーツファンやがな。

文化系女子:2020年の東京オリンピックが、ええ目標になってるわけやね?

体育系男子:そうです。政府、企業、学校、スポーツ界が力を合わせて、東京大会を

目標に、日本の実力を上げよいうて、がんばってるのです。

スポーツは国対抗?

文化系女子:「東京にオリンピックが来る」いうだけで、こんなに日本人のやる気が

バリバリ上がってきましたんか?

体育系男子:本来、オリンピックいうのは、個人が運動の能力を競い合う戦いのはず

でした。ところが現実には、国ごとのメダル獲得数が話題に上がりがちです。

文化系女子:そやなぁ。国の対抗戦みたいになってるね。

体育系男子:冷戦時代のソ連や東ドイツ、その後のアメリカやフランスも半世紀以上

オリンピックのメダル獲得が国の施策になってきました。

文化系女子:なんで、「国」を背負って運動をしますのや?「個人」でよろしやないか?

体育系男子:運動をする人は、試合に勝ったり優勝したりすれば、もちろん個人的に

有名になってお金持ちにはなりまっせ。ただ、それだけでは「競技」が

繁栄していくことになりまへんのや。

文化系女子:どういうこと?

体育系男子:たとえば、錦織(にしこり)という名前、今では日本人で知らん人がいない

くらい有名になりましたでしょ?

文化系女子:そらもう、私なんか現地の試合が始まる夜中に起きてテレビの前に座って、

おまけにその放送を見るためにwowow まで加入しましたで。

体育系男子:そう。それが大事なことなのです。一般の人に「一つの競技」を見よう、

見に行こうと考えさせるまでには、いろんな条件が満たされないと

あきません。

文化系女子:言葉に熱をおびてきましたなぁ。ちょっと、飛んでくるつばが多いけど。

繁栄するスポーツとは

体育系男子:一つのスポーツが繁栄するには、まず、スター選手がいないとあきません。

文化系女子:なるほど。テニスの錦織、卓球の石川や、陸上の桐生みたいな人らやね?

体育系男子:そのとおりです。そして、その人たちの勝負をめぐる戦いに、たくさんの

人が関心を持ってくれな、あかんのです。

文化系女子:なるほど。テレビがしっかりと放映してくれないとあかんのやね。

体育系男子:そうです。そして、多くの人が「勝利」を待ち望んでくれていればいるほど

その競技は多くの場所で熱狂的な人たちによって支持されるのです!

文化系女子:つば、ようけ飛んでまっせ…。それにしても「国」をあげてスポーツを

守らなくてもええのとちがいますのか?

人をひきつける3つの要素

体育系男子:スポーツには、「人をひきつける3つの要素」いうのがあるのです。

文化系女子:ほう、興味深い話や。一つ目は何ですのや?

体育系男子:「一世一代の大勝負、めったに見られない試合」に人は集まります。

文化系女子:わかりますなぁ。一世一代の勝負いうたら、誰の何の試合でも、見に

行きたくなりまっせ!

体育系男子:さらに、その試合で、高い技術や戦術が見られることが大事です。

文化系女子:そやなぁ。自分がその競技を実際に行なってる人であれば、感心するような

スキルを目の当たりにすれば、血沸き肉踊るやろね。

体育系男子:3つめは、自分の「かけがえのない人」が試合に出ることが大切です。

文化系女子:…どういうこと?

体育系男子:「かけがえのない人」いうのは、ふつうは身近な人のことです。たとえば、

自分の子供や孫が幼稚園の運動会に出るときには、何があっても見に行こう

と考えるものです。

文化系女子:そやなぁ。1日中炎天下のグラウンドにシートを敷いて座っていても、

子供や孫の運動会は気にならん。

体育系男子:そうでしょ?そこから始まって、自分の家族や同僚、部活の先輩、自分の

出身学校の人の試合になれば、知らん人でも応援しますでしょ?

文化系女子:わかる、わかる。自分の出身大学の選手が走ってる駅伝なんか、自分が

学校の代表みたいな顔して、テレビに叫んでしまうものやね。

体育系男子:ただ、動員できる人数を考えてみると、家族なら数人、部活の先輩という

レベルなら何十人、大学の名前を背負てても数千人や。限られてまっせ。

文化系女子:ほ…ほな…、日本代表の名前を背負って出場したら…。

体育系男子:そうです。1億2000万人の国民みんなが「かけがえのない人」として応援

してくれるのです。

誰がアスリートを育てるのか

文化系女子:もし私に子どもがいるなら、どこへつれて行けば、世界を舞台に戦える人に

育ててもらえますのや?

体育系男子:昔は「学校」でした。そして、その学校を卒業した後にはいる会社、

すなわち「実業団」がスポーツを支えていく大切な基本でした。

文化系女子:今はちがうの?

体育系男子:今では、中学校や高校のクラブ活動で、能力の芽を開花させよいうのでは、

正直、遅すぎます。錦織や石川も、小学校高学年ですでにアスリートでした。

文化系女子:「実業団」はどうなったの?

体育系男子:バブルの崩壊と共に、それぞれの企業が自前の費用でアスリートを保てなく

なって、次々と競技から撤退していきましたのや。

文化系女子:「競技団体」はどうしてますのや?

体育系男子:日本テニス協会はテニスに関して、また日本陸上連盟は陸上競技に関して、

国内のルールを国際基準に合わせたり、公式記録や、用具を認定したり、

審判員の教育、競技会の運営とか、いっぱい役目があります。でも、もっと

大きな仕事がありますのや。

文化系女子:ほう、それは何ですのや?

体育系男子:選手の強化です。強い選手を育て上げることこそ、競技団体の大きな役目

なのです。

文化系女子:強い選手が育つと、どんなええことがありますのや?

体育系男子:国をあげて選手を強化するための、文科省から出てくるお金を配分する

ときに「強い選手」がいるかどうかが、大切なプロセスになりますのや。

文化系女子:そうか。国際競技力が高いものから順に「経済的後押し」がつくわけやね。

体育系男子:そうです。各競技のトップスターは、自分の収入を見つめるだけでなく、

その競技全体の繁栄を考えなければならんわけです。競技団体の将来まで

背負ているのです。

後に続け、大勢育てよ

文化系女子:みんなが騒ぐほど、選手は「ミスしたらあかん」「勝たなあかん」いうて、

肉体的、精神的な負担でガタガタになってきまっしゃろ?ジャンプの

沙羅ちゃんやら、フィギアスケートの真央ちゃんやら、気の毒な時が

ありまっせ。

体育系男子:そう、彼女たちに持つ力を100%出し切ってもらうためにも、周りの人たちが

余裕のある、選手層の厚いスポーツ界をつくっていかなあかんのです。

みんなでサポートしていかなあかんのです。

文化系女子:そうか…国をあげて、大勢の人を上へと上っていかせれば、ええわけやね。

体育系男子:そうです。そのためにも、一番最初に上っていく選手が、たくさんの次の人

たちを、ぐいぐい引っ張りあげられるよう、助けてあげようやありませんか。

文化系女子:そんなに大勢で上ったら、糸が切れてしまいまへんか?

体育系男子:トップをいく人が、後ろの人に「上ってくるな」と言うたら最後、スポーツ

界みんなが血の池に落ちてしまうのです。

文化系女子:おお、私の好きな、蜘蛛の糸…。