騒音
理想的な音環境があれば、望まない音環境もあります。
それが騒音です。
騒音を考えるときには、発生のプロセスによりいくつかの種類に分けて考えていきます。
発生プロセスに着目することにより、対策を考えやすくなるのです。
床衝撃音
集合住宅では、上の階にいる人の足音やドアを閉める音などの生活音が聞こえることが良くあります。
発生プロセスに着目すると、床の衝撃音は大きく二つに分けることができます。
それが、軽衝撃音と重衝撃音です。
軽衝撃音は、人の日常生活が音源となる騒音です。
人が音源となって発する音なので、たいして大きな音にはなりません。
靴で歩くコツコツ音や、スリッパで歩くパタパタ音などが軽衝撃音です。
鉛筆を落としてなる音なども軽衝撃音です。
これらの軽衝撃音は音のなっている個所、すなわち床の表面の工夫で軽減することが可能です。
具体的には、厚手のカーペットやソフトフローリングなどを床に敷設することにより比較的容易に騒音を低減することが可能です。
重衝撃音は、重いものが音源となる騒音です。
大きな位置エネルギーや運動エネルギーが原因となっている音なので、腹に響くような音もあり、騒音対策も大がかりです。
人が飛び跳ねたときのドンという着地音やドアを勢いよく占めたときのバタンという音などが重衝撃音です。
これらの大きな位置エネルギーや運動エネルギーによる騒音は、軽衝撃音のような表面的な対策ではそれらのエネルギーを吸収しきずに騒音を発生させてしまいます。
このような重衝撃音に対しては、大きな位置エネルギーや運動エネルギーを十分に吸収できる程度に床板の厚さを増大させることが必要です。
空調騒音
空調騒音は、軽衝撃音や重衝撃音とは異なり、設備的な問題であり予防ができる騒音です。
空調騒音は大きく二つに分けることができます。
それがクロストークとファン騒音です。
クロストークは設計段階で予防が可能です。
ファン騒音は施工状態によっても生じることがありますが、予防や軽減はあらかじめ設計が可能です。
クロストーク
クロストーク(またはクロストーキング)は、空調そのものによる騒音ではなく、空調のダクトを介して騒音が広がっていくことを指しています。
クロストークはある部屋のダクトと他の部屋のダクトが近い距離にある時に、ある部屋の音が他の部屋に届いてしまうことです。
宿泊施設や医療施設など給気・排気がしっかりしていて、似たような部屋が並ぶ建築物で生じやすいようです。
クロストークは設計段階で回避が容易な問題でもあります。
ファン騒音
ファン騒音は、ダクト式の空調機であっても冷媒式の空調機であっても生じる問題です。
ダクト式ではダクトの風上側の送風ファンで生じた騒音がダクトを通じて各部屋に空調空気とともに運ばれててしまいます。
冷媒式では、パッケージエアコンやルームエアコンの室内機の内部にあるファンにより騒音が生じます。
ダクトであれば、騒音源から室内までの道のりが長いため、その過程で解決策を施すことは可能です。
その一方で、騒音が室内のすぐ近くあるは室内で生じる冷媒式の空調器の場合、騒音源を遠ざけるという方法を採用することができません。
渦流音・風切り音
そもそも、なぜ風は騒音の原因になってしまうのでしょうか。
風を原因とする騒音は、主に圧力変化による騒音です。
下図は電柱のような丸い柱に風が当たっている状態です。丸い柱に風が当たると、その背後には渦ができます。
その渦は低圧の空気から高圧の空気になり、その後丸い柱の後方に去っていき低圧になっていきます。
また、その渦は、後方の壁にぶつかり、一瞬高圧になったあと再び低圧になり消えていきます。
これらの圧力変化が音の発生源です。
なお、その途中で生じている渦は、カルマン渦と呼ばれています。
流体騒音の資料です。なお、この資料の著者は、私が日立在職時に騒音低減技術の研修で講師をしてくれた方で、キレッキレでクールな頭脳の持ち主です。
静音技術
ここでは、静音技術を生物に教えてもらうこととします。
フクロウは、ネズミなどをつかまえるとき、とても静かに滑空して接近します。
フクロウが静かに飛べるヒントはその羽にあります。
フクロウの羽には風上側にギザギザがついていますが、そこがポイントのようです。
フクロウの羽を模したギザギザの無い羽根の断面と、ギザギザのあるフクロウの羽の断面です。
ギザギザの無い羽根は、空気が多くの凹凸にぶつかり圧力変化を発生させ、騒音になっていきます。
その一方で、ギザギザのあるフクロウの羽では、ギザギザで生じた小さな渦が羽根の表面を覆っています。
小さな渦が羽根の表面を覆っていると、小さな渦が羽根とその上の風速の早い空気の間のボールベアリングのように働き、風速の早い空気が羽根に触れること無く滑らかに流れていきます。
これがフクロウが静かに飛ぶことのできる秘密です。
このフクロウの静音技術は、一部の新幹線のパンタグラフに採用されています。
フクロウの羽と同じように、パンタグラフの風上側に凸を設け、パンタグラフ側面にボールベアリングとなる小さな渦を発生させ、パンタグラフ側面での騒音の発生を抑制しています。
なお、このように、生物や生体の特徴や要素を他に活かすことは、バイオミメティクスや生体模倣と呼ばれています。