明るさ

私たちが周囲の世界を理解するためには、「視角が広い」「対比が大きい」「動きがない」「明るい」の4つの明視の条件が欠かせません。これらの条件を満たすことで、人間の視覚は最大限に働き、正確な視覚情報を取得することができます。

視角が広い空間を設計すること、適切な対比を考慮に入れた色や材料の選択、照明の点滅や急な変化を避ける照明設計、そして適切な明るさを保つための照度計算など、これらの要素は全て建築と照明の設計において重要な役割を果たします。

建築物や空間を設計する際には、人間の視覚の特性と明視の条件を考慮することで、利便性と快適性を確保した上で、視覚的な情報を最適に提供する環境を作ることができます。

明視の条件

明視の条件として、以下の4点が知られています。

ここでは一つずつ紹介していきます。

1.視角が広い

視角とは何か、一言で説明するならば、それは「見える範囲」のことを指します。しかし、その理解を深めるためには、視角がどのように影響を与えるのか、またその役割について知る必要があります。

視角が広いということは、壁などに遮られず、十分な照度を持つ範囲が広いということを意味します。例えば、あなたが新聞を読むとき、懐中電灯で一部だけを照らしていると、その部分は読めますが、新聞全体の内容を理解するのは難しいですよね。なぜなら、私たちの脳は、部分部分ではなく、全体像を捉えることで情報を理解するからです。

同様に、建築設備や電気設備の設計では、視角が広いことが重要になります。視角が広いことで、建築物の中で適切な視覚情報が得られ、居住者や利用者の生活が向上します。

さらに、視角の広さは、物理的な視野だけでなく、光の到達範囲や質にも関係します。つまり、部屋の照明が均一であればあるほど、視角は広くなります。これは、視角が広いことが視覚情報の取得に重要であるためです。明るくて視角の広い環境では、全体の状況を一度に把握することができ、情報の理解が容易になります。その一方で、部屋の照明が壁の絵を照らすスポットライトのみの場合、なんとなく部屋のスケール感が分かりますが、十分に多くの資格情報を得られているとは言えません。

以上から、視角が広いとは、物理的な視野だけでなく、光の質や範囲も含めた広範な視覚情報を得ることができる状態を指すのです。

2.対比が大きい

対比が大きいということは、背景と見たいものとが異なる色で描かれている状況を指します。同じ色調のものが並んでいると、その中の特定のものを見つけるのは難しくなります。逆に、色の対比が大きい場合、特定の色や物体を素早く見つけることができます。これは、人間の視覚が色彩や形状の違いを検出し、それに反応する性質に基づいています。

例えば、黒字の文字は白い紙の上で非常に見やすいですが、黒い紙の上ではほとんど読めません。これは、黒と白の対比が大きいため、黒字は白い背景上で際立つからです。

建築や照明設計においては、色の対比は様々な場面で考慮されます。照明計画では、色の対比を考慮して照明器具や光源を選択し、空間の見え方を調整します。白い壁に白地のポスターを貼っても目立ちませんが、白い壁に赤やピンク、オレンジなど対比の大きな色の地のポスターを貼れると、はっきり見え伝えたい情報が伝わりやすくなります。

また、対比は視覚障害者の視覚支援やユニバーサルデザインにも関係しています。例えば、手すりや段差のエッジには、周囲と対比がつく色を用いることで視認性を高め、安全性を確保します。

3.動きがない

次に、視覚情報のうち「動きがない」という条件について考えてみましょう。これは、視覚的な混乱を避け、注目したい情報に集中するための重要な要素です。

脳は、変化に対する反応が強く、動いているものに自然と注意が向きます。その一方で、脳は動いているものから情報を得るのは得意ではありません。例えば、走行中の自動車のナンバープレートを読むのは難しく、動いている電車の中の人数を歩道から正確に数えることはほぼ不可能です。これは、見たい情報が動いており、見た情報を解釈をする前にその情報の位置が変化してしまい、改めて移動後の情報を解釈しようとしてもその時には既に次の場所に情報が移動してしまう、という解釈に継続して至らないことによります。

建築や設備設計においても、この「動きがない」という要素は重要です。例えば、照明の点滅や急な光の変化は、視界全体の変化に注意が向けられやすくなり、注視したい情報に集中することが難しくなります。危険を周知するために積極的に変化をするランプは有効ですが、古くなった蛍光灯の点滅はうっとうしいものです。

一級建築士の受験生や建築・電気工事の専門家は、建築物や施設の設計時に、この点に留意する必要があります。照明設計では、光源の選択や配置により、照明の点滅や急な変化を防ぐことで、居住者や利用者の視覚的快適性を確保します。

また、動きがないという条件は、ビデオ会議や遠隔操作など、テクノロジーと視覚が密接に関わる現代社会においても重要です。映像や画像の安定性は、視覚情報の精度と理解を向上させ、効率的なコミュニケーションや操作を可能にします。

したがって、「動きがない」とは、視覚的な混乱を避け、視覚情報に集中するための状態を指すのです。

4.明るい

明るさは視覚情報の取得において最も直感的で基本的な要素の一つです。人間の視覚センサである錐状体と桿状体のうち、色を識別する錐状体は、十分な強さの光にしか反応しないため、明るさは視覚情報の明確性に直結します。

実際、暗い場所では色をはっきりと認識することが難しくなります。これは、暗い状況下では、弱い光に反応する桿状体が主に働く一方で、色を感知する錐状体は働きにくくなるからです。その結果、暗い場所では色彩の認識が難しくなり、物体の形状や位置などの視覚情報の一部しか得られなくなります。

一方、十分に明るい環境では、錐状体が活発に働き、色や物体の細部まで鮮明に認識することができます。これは、例えば読書をする際に、十分な明るさの光が必要となる理由です。

明るさは、建築設備や電気工事の専門家が照明計画を立てる際の重要な要素です。空間の使用目的や時間帯、ユーザーの視覚的ニーズに応じて、適切な明るさを設定することで、快適で効率的な視覚環境を提供します。