行動性体温調節

私たちは、温熱環境に対して生理反応と心理反応で抵抗するだけでなく、私たち自身の行動によって適応することもできます。

例えば、寒ければ上着を着たりしますし、暑ければエアコンで冷房を付けたりします。

また、寝ていても、暑ければ掛け布団を蹴っ飛ばしますし、寒ければ布団にくるまります。

このような、行動によって体温調節をすることを行動性体温調節と呼んでいます。

着衣による温熱環境への適応

着衣には、ダウンのようにふかふかのものや、Tシャツのように薄いものなど、さまざまなものがあります。

これらの着衣の要素を温熱環境の視点からは、以下のように見ることができます。

厚さ

半そで・長袖

緩さ・キツさ

:  屋外の長波長の赤外線の反射率・吸収率…黒い色は日射を吸収して温度が高くなります。

:  素材の厚さおよび空隙の量による熱伝導率…ふかふかのダウンは熱を通しにくいです。

:  外気に触れる皮膚の露出面積…日差しの強い日は、長袖の方が涼しいこともあります。

:  着衣内の空気層…ゆるいTシャツの内側は外気に近い温度になります。

着衣の熱抵抗

着衣の温かさや寒さも数字で表すことができると、空調設備の設計において温冷感覚を予想することに使えそうです。

着衣の熱抵抗の値は、クロ値(clo)で示されます。

1cloは、0.1555 ㎡・K/Wを意味します。

1cloは、気温 21°C、相対湿度 50%、気流速度 0.1m/s の室内で、椅子に座って静かにしている(椅座安静状態)の人が快適と感じるような値です。ちなみに、裸体は0cloです。

以下は、着衣の組み合わせとclo値の例です。

行動による温熱環境への適応

暑いな~と感じた時、私たちはエアコンを付けたり、扇風機を付けたりして涼を得ようとします。

また、無意識であっても、着ている布団が暑ければ蹴飛ばしますし寒ければ布団にくるまって寝ています。

ここでは、意識的に行う行動性体温調節に着目してみます。

普段の私たちの行動性体温調節を考える題材として空調設備を取り上げてみます。私たちの意識的な行動性体温調節は、自動的に調整される精緻な生理的体温調節とはずいぶん様子が異なるようです。ここでは、少し心理学の視点から考えてみます。例えば空調設備を使うときについての以下の質問に答えてみます。

  • 冷房の設定室温、何度にしていますか?

  • 室温が何度になったら、冷房を付けることにしていますか?

  • 冷房を付けるのを決めるのは、ご家族の誰ですか?

  • 冷房を付け始めるのが何月か決まっていますか?

汗をかいたり震えたりといった、人の体がもっている資源を消費する生理的な体温調節が生じない環境を一先ずの空調設備の目標と考えてみます。その場合、上記の質問への答えは、空調設備の目標とどのような関係があるのでしょうか?

たとえば、一つ目の質問「冷房の設定室温、何度にしていますか?」について考えてみます。空調設備の目標からすると、冷房の設定室温はその場にいる人の体温に併せて流動的に変化させることが理想です。ただ、「冷房の設定室温は27度」など、ある一つの温度に決まっている場合が多いように思います。心理学的にみると、普段の生活において、冷房の設定室温を一つの温度に決めておくことは、その都度その時の最適な設定室温を考えることより、認知のリソースの消費を抑えることができます。要するに、考えなくて良いので楽です。ただ、楽をしている分、無駄に低めの設定室温になっていることもあり、無駄に電気代を高く支払っていることもあるのです。

電力を浪費して楽をするか、考えてエネルギー使用量を減らすか。エネルギー使用量は減らした方が建築設備としては良いのは間違いありませんが、実際の場面をイメージするとなかなか難しい選択ですね。