地中熱の利用

地中熱、一見、身近に感じられないかもしれませんね。しかし、そんな地中熱は、地球が誕生してからずっと地表下に存在し、我々人間の生活に深く関与してきたエネルギー源です。まずは、地中熱の基本からお話ししましょう。地中熱とは、地表下に存在する熱エネルギーのことを指し、これは地球の内部から放出される熱エネルギーや太陽の熱が地中に蓄えられることによって生じます。そのエネルギーは絶えず存在し、しかも再生可能なエネルギー源として注目を集めています。

地中熱の活用について考える前に、その歴史を振り返ってみましょう。地中熱は古くから人々の生活の一部として利用されてきました。古代ローマでは、地中熱を利用した温泉が人々のリラクゼーションスポットとして活用されていました。そして、その技術は19世紀になると、最初の地中熱発電所がイタリアで建設され、電力供給の源として利用が始まりました。

このような地中熱の活用に大きく寄与した人物として、Pierro Ginori Conti氏を挙げることができます。彼は1904年に地中熱を利用した発電の実験を行い、成功を収め、その後の地中熱発電の基礎を築きました。これにより地中熱が再生可能なエネルギーとして広く認識されるようになったのです。

地中熱利用システム

地中熱をどのように活用するか、それは我々人間の技術と発想によって、さまざまな形で現れます。具体的な地中熱の利用方法とそのシステムについてお話しします。最も一般的な地中熱利用システムは、地中熱回収設備、熱交換機、給湯システム、制御システムの四つのパートから構成されています。

地中熱回収設備

地中熱回収設備は、地中にある熱を効率的に取り出すための設備で、この熱を給湯などに利用するために、空気や水、冷媒に移動させます。地中熱回収方法は、オープンシステムやクローズドシステム、クールピットやクールチューブなどがあります。例えば、クローズドシステムでは地中の深部に熱交換器を埋設し、熱媒体を循環させることで熱を回収します。このシステムでは、地中の熱が常に一定であるため、安定したエネルギー供給が可能です。

熱交換器・ヒートポンプ

地中から取り出した熱エネルギーは、この熱交換機によって給湯システムに供給されます。熱交換器は地中熱と給湯用の水の間で熱交換を行い、給湯用の水の温度を高めます。

給湯システム

給湯システムは、地中熱を利用して温水を供給するためのシステムです。給湯システムには温水タンクや配管、給湯ポイント(シャワーや蛇口など)が含まれます。温水タンクは熱交換器から供給された温水を保管し、必要な時に給湯ポイントに供給します。配管は温水を給湯ポイントまで運ぶ役割を果たします。

制御システム

地中熱の効率的な利用を実現するために、制御システムが必要です。制御システムは地中熱源や熱交換器、給湯システムの動作を制御し、適切な温度の温水を供給します。制御システムにはセンサーや制御ユニットが含まれ、給湯需要に応じて適切な制御が行われます。

地中熱の利用は、我々人間にとって貴重な再生可能エネルギー源であり、その可能性は無限大です。地球上のどこでも利用可能で、かつ持続可能なエネルギー源である地中熱は、環境問題とエネルギー需要の増大が深刻化する現代において、ますます重要性を増しています。地中熱は太陽光や風力など他の再生可能エネルギー源と異なり、天候や時間に左右されず、安定的にエネルギーを供給することが可能です。また、CO2排出量が非常に少ないため、地球温暖化防止にも貢献します。

さらに、地中熱は我々の生活に対する新たな快適性をもたらす可能性を秘めています。給湯はもちろん、冷暖房などの冷熱供給にも利用可能で、様々な生活場面での快適性向上に寄与します。そして、これらの利用は省エネルギーという観点からも大変価値があります。

これから地中熱はさらなる進化を遂げるでしょう。より効率的な回収技術、より高性能な熱交換器やヒートポンプ、そしてより精密な制御システムの開発によって、地中熱の可能性はさらに広がることでしょう。そして、これらの進歩は地中熱の利用が一般化し、一人一人の生活に密着した形で普及することを可能にします。

また、地中熱は地域資源としての側面も持っています。各地域の地質や地温により地中熱の量や品質は異なりますが、それぞれの地域で最適な利用方法を見つけることで、地域独自のエネルギー戦略を築くことが可能になります。これは地域のエネルギー自給率を高め、エネルギーセキュリティを強化する一方で、地域振興や雇用創出にも寄与します。

これらを踏まえると、地中熱の有効活用は私たちの未来をより豊かで持続可能なものにする重要な一環といえるでしょう。地中熱という自然の恵みを最大限に活用し、地球と人間が共存する未来を築いていくために、我々一人ひとりが地中熱について理解し、その活用方法を考えることが求められます。

利用できる地中熱の熱量

利用できる地中熱の熱量と深さ

利用できる地中熱の熱量は、地中熱を回収する熱交換用の井戸(地中熱交換井と呼ばれています)の深さが深いほど多くなります。地中熱は地球の内部から発生する自然な熱エネルギーで、地殻の温度勾配により継続的に供給されます。通常、地球の地殻は深さ1kmごとに25~30℃の温度上昇が見られます。地中熱交換井の深さが深いほど回収できる熱量は増加します。例えば、深さ3kmの井戸では75℃~90℃の熱源を得ることが可能です。

また、建築で利用する地中熱の場合、深さによる温度差は大きくありません。その一方で、地中熱交換井の深さが深くなるほど地中熱に触れる面積が大きくなり、得られる熱量も大きくなります。

利用できる地中熱の熱量と地下水の流速

熱源として地下水を利用する場合の利用できる地中熱の熱量は、地下水の流速が早いほど多くなります。これは、流速が早いほど地下水と地中熱交換器との間での対流熱伝達率が大きくなり、地下水と地中熱交換器との間の熱の移動量が多くなることによります。

地中熱利用の地域差

地域により地中熱利用に件数には大きな違いがあります。特に多いのが北海道や東北など寒冷な地域です。

地中熱の利用において重要なのは、地上の気温と地中温度との差です。地上の気温と地中の温度との差が大きいほど、地中熱を利用したヒートポンプの効率が良くなります。ヒートポンプは、低温の熱源から高温の熱を引き出す装置で、大気よりも地中の方が温度が安定しているため、効率的に働きます。

北海道と沖縄では、気候が大きく異なります。北海道は冬季には気温が非常に低くなる一方で、沖縄は年間を通じて温暖な気候を保つ地域です。具体的な温度で考えてみましょう。夏の最高気温および冬の最低気温を見ると、北海道の夏の最高気温は30度程度、冬の最低気温はマイナス10度程度です。これに対し、沖縄の夏の最高気温は35度程度、冬の最低気温は10度程度です。地中の温度が年間を通じて15℃と仮定すると、北海道では夏に15℃、冬に25℃の温度差を得られ、沖縄では夏に20℃、冬に5℃の温度差となります。

すなわち、北海道のような寒冷地では、冬季の寒さが厳しく、地上の気温は地中の温度よりもかなり低くなります。そのため、地中熱を利用した暖房システムは、地中の比較的高温な熱を利用して暖房を行うことができ、効率が良くなります。

一方、沖縄では年間を通じて高温で、特に夏季には地上の気温が地中の温度よりも高くなります。そのため、地中熱を利用した冷房システムは、地中の比較的低温な熱を利用して冷房を行うことができます。ただし、冬季の気温がそれほど低くならないため、地上の気温と地中温度との差が小さく、地中熱を利用した暖房システムの効率は北海道ほど良くありません。

そのため、適用される件数に地域差が表れてくるのです。