さて、いきなり質問です。
エアコンはなぜ必要なのでしょう?
もう一つ質問です。
エアコンは何をしてくれているのでしょうか?
もちろん、エアコンは快適な温湿度に調整するために必要ですし、夏は部屋を涼しくしてくれて、冬は部屋を暖かくしてくれています。
この様子を「熱」をキーワードに考えていくと、環境工学や建築設備と設計とのつながりが見えてきそうです。
負荷=目標温湿度にするために除去したい熱・水分
温度を上げる熱源=冷房負荷 ≠暖房負荷
温度を下げる熱源≠冷房負荷 =暖房負荷
湿度発生源=冷房負荷 ≠暖房負荷
顕熱=温度を変化させるための熱
潜熱=湿度を変化させるための熱
負荷は、目標の温湿度にするために除去したい熱や水分のことです。
冷房負荷であれば、室内を例えば28℃50%にするために除去したい熱・水分として、窓から差し込む日射による熱や日射により温められた壁を貫通してくる熱、35℃70%の蒸し暑い外気が部屋の中に入ってくることによる熱と湿気が冷房負荷です。部屋の中の人(34℃)やPC(50℃)も熱源です。20℃程度の夏の地面の熱は、室内を冷やす方向に役に立ってくれるので、負荷には含みません。
暖房負荷であれば、室内を例えば24℃50%にするために除去したい熱・水分として、冷たい外気により冷やされた壁から失われる熱、隙間風で入ってくる低温で低湿な外気、冬の16℃程度の冷たい地面に伝わって出て行ってしまう熱などが暖房負荷です。部屋を暖めてくれる日射や人、PCなどは暖房負荷には含みません。
冬の日射のような冷房・暖房に有利に働く熱を空調負荷の計算に含まないのには、大きな理由があります。
それは、足し合わされた空調負荷を基にして決める空調設備の能力が不足してしまうことを避けるためです。
冬の日射は暖房の負荷を小さくする方向に働いてくれます。
日射により負荷が小さくなると考えて暖房負荷を計算して空調設備の能力を決めてしまうと、冬に日射が無い日には空調設備だけでは暖房負荷を除去しきれなくなってしまいます。
夏の地面の冷たさや、冬の日射の暖かさに頼ることが出来たら、より安い空調設備を選ぶことが出来たりするのでしょうが、日射をあてにしていると曇天で雪の降る日には日射による熱の分だけ目標の室温に届かないことになってしまいまうのです。
すでに何度も「負荷を除去する」といった表現を使ってきていますが、環境工学や建築設備で温熱環境を考えるとき、冷房で得すぎた熱を取り除くことも負荷の除去ですし、暖房で失いすぎた熱を追加することも負荷を除去すると表現します。
負荷の正負に関わらず、空気に持たせたい目標の熱量との差のことを「負荷」と呼び、その差を埋めることを「負荷を除去する」と呼びます。
ちなみに、このページの冒頭に出てきた質問の答えは、以下です。
エアコンはなぜ必要なのでしょう? → 目標の温湿度と現在の温湿度の差を埋めるのには温湿度調節のできるエアコンが必要!
エアコンは何をしてくれているのでしょうか? → エアコンは加温、減温、除湿をしてくれる。まれにほんの少しだけ加湿をしてくれるエアコンもある。
空調の負荷の全体像を見るには、フレームで考えるのが良さそうです。
熱に関するフレームは、そうです、対流、放射、伝導、蒸発の熱移動の4つの経路です。
放射による空調負荷の代表は日射です。
日射は室温を上げる方向に働きます。
室温が上がると目標から離れる冷房時には、日射を負荷と考えます。
室温が上がると目標に近づく暖房時には、日射は負荷には含みません。
対流による空調負荷の代表は隙間風です。
隙間風といっても、本当の隙間風はあまり多くありません。
多いのは、窓や扉の開閉や換気扇で排気した分の流入空気などが隙間風と呼ばれる空調負荷です。
伝導による空調負荷の代表は、壁を貫通してくる外気や日射の熱です。
日射は窓から室内に降り注ぐだけでなく、壁や屋根を温めます。
温められた壁や屋根は、壁の内部や屋根の内部を貫通して、室内側の壁や天井を温めます。
温まった室内の壁や天井は、室温を上げる方向に働きます。
冷房負荷ですね。
蒸発による空調負荷を考えるときには、湿度に着目します。
夏には湿度を下げたいので、湿度の発生源が蒸発による空調負荷になります。
常に少しずつ水分を蒸発している人は、大きな空調負荷です。
電気ポットや給湯器もオフィスにある空調負荷です。
人も電気ポットも冷房負荷です。
暖房時には湿度を高くしたいので、人も電気ポットも空調負荷には含みません。
暖房時には、窓の開閉や換気により取り入れられる湿度の低い外気は空調負荷になります。
空調負荷の詳細については、以下に続きます。
熱は熱でも温度を上げる熱と湿度に関する熱は別の熱です。
ややこしいですね。
人は、冷房時には厄介な熱源ですが、暖房時にはありがたい暖かい熱源です。
人は、冷房時には厄介な湿度発生源ですが、暖房時にはありがたい加湿器です。
夏の蒸し暑い外気は室内に入れたくありませんし、冬の冷たい外気も室内には入れたくありません。
夏や冬には、外気は大きな空調負荷です。
ただ、春と秋のさわやかな外気は、積極的に室内に取り入れたいです。
春と秋のさわやかな外気を取り入れることは、室内で発生する熱を屋外に排気することにもつながります。
いわゆる自然換気ですね。