断熱性と蓄熱性
断熱性と蓄熱性、これら二つの性質は、建物の暖房特性を規定する主要な要素と言えます。それぞれがもつ特性と、それらが組み合わさった時の影響について、より詳しく掘り下げてみましょう。
断熱性と蓄熱性
断熱「低」+蓄熱「低」
断熱性が低く、蓄熱性も低い建物について考察します。このタイプの建物では、暖房を開始してからの温度上昇は比較的緩やかです。つまり、冬季に暖房を起動しても、部屋全体が暖まるまでには時間がかかります。さらに、暖房をオフにするとすぐに室温が下がります。例えば、買い物に行く前に暖房を切ると、帰ってくる頃には部屋は冷え切ってしまっているという状況が想像できるでしょう。これでは、室内の温度を一定に保つためには、暖房をずっと作動させ続けることが求められます。しかし、それはエネルギー消費が大きくなるだけでなく、設備の寿命を縮める原因ともなり得ます。結果的に、このタイプの建物は運用コストが高くなりがちで、持続可能な建築とは言えません。
断熱「高」+蓄熱「低」
次に、断熱性が高く、蓄熱性が低い建物を観察します。この場合、断熱性が高いため、暖房を開始するとすぐに室内温度が上昇します。ただ、その温度を蓄熱していないため、暖房をオフにすると温度がすぐに下がります。例えば、朝起きた直後に暖房をつければすぐに温まりますが、外出するときに暖房を止めると部屋がすぐに冷えてしまうといった状態です。しかし、このタイプの建物は、断熱材の質と量を最適化することで、さらに効率的なエネルギー利用が可能となります。これは、暖房を必要とする時間を短縮し、エネルギー消費を抑える効果があります。
断熱「低」+蓄熱「高」
一方、断熱性が低く蓄熱性が高い建物では、暖房を開始してからの温度上昇は緩やかですが、その分、暖房をオフにしてからの温度低下も緩やかです。つまり、部屋で活動を開始するより前に、あらかじめ部屋を暖めておく必要があるかもしれません。その一方で、一度暖まった室内が長時間温かさを保ちます。これは、太陽光等の自然エネルギーを利用した暖房や、夜間電力を使用した暖房など、効率的な暖房方法と組み合わせることで、さらに効果を発揮します。具体的には、日中の太陽光で部屋を暖め、その蓄熱性を利用して夜間も暖かさを保つといった運用が可能です。
断熱「高」+蓄熱「高」
最後に、断熱性と蓄熱性の両方が高い建物です。ここでは、暖房を開始するとやや緩やかに、しかし確実に温度が上昇し、暖房を停止しても温度がゆっくりとしか下がらないという特性があります。この種の建物は、部屋を主に使いたい時間より先に暖房を開始しておく必要がありますが、例えば太陽光を最大限に活用したパッシブ設計や、夜間電力を利用した暖房システムなど、持続可能なエネルギー利用が可能になります。この組み合わせは、エネルギー消費を抑えつつ快適な室温を維持することが可能な理想的な状態で、環境に配慮した建築において目指すべき形と言えるでしょう。