熱交換器の構造と仕組み

熱交換器は、空調機器の中で冷風・温風を作り出している部分です。

冬には冷たい外気から熱をくみ取ってきた冷媒からの熱を室内の空気の渡す部分が熱交換器です。

夏には暑い外気へ熱を捨ててきてくれる冷媒に熱を渡す部分が熱交換器です。

熱を交換する熱交換器というよりは、熱を受け渡す熱受渡器といった方がイメージしやすいかもしれません。

キーワード

熱交換器、凝縮器、蒸発器、室内機、室外機

熱交換器のフィンの種類

熱交換器のフィンには、大きく分けて以下の3つの種類があります。

  • プレートフィン

  • コルゲートフィン

  • スリットフィン

これら3つのフィンはそれぞれ形が違い、その形により生み出される特徴により、向き不向きな設置場所があります

その違いを分かっておくと、冷暖房能力が想定より低い場合の性能向上策を考えやすかったり、フィンに結露した水が室内に吹き飛ばされてPCをショートさせてしまうといったトラブルを予防することができたりします。

改良のつもりの改悪は避けたいですね。

プレートフィン

プレートフィンは、初期の空調機器のフィンにも使われていた、加工のあまりされていないシンプルな板状のフィンです。

空調機器のフィンはコルゲートやスリットが加工されることがほとんどで、プレートフィンが空調機器に使用されることはほとんどありません。その一方で、プレートフィンが使われる場所があります。それが水などの液体との間で熱交換するためのフィンです。

プレートフィンには流れ方向に直交するような凹凸やスリットが設けられていません。そのため、プレートフィンにはフィンの間を流れる流体の流れを妨げるものがあまりありません。流れの抵抗が「あまり」ないというのは、「まったく」ないのとは異なります。

高効率で熱交換するには、流体とフィンが接触することが重要です。接触しなくても放射による熱移動は可能ではありますが、接触させ対流により熱移動させることにより、熱の移動量は各段に上昇します。対流による熱交換が行われる部分では、フィンと流体が接触します。接触する部分では流体がフィンの表面の細かな凹凸に引っかかり、理論上は接触面の流速はゼロとなります。何かに触れる限り、「まったく」抵抗がないということにはならず、せいぜい「あまり」ないとしか言えません。

空調機器の室内機のフィンであれば、空気の進行方向の厚さはせいぜい20cmです。室外機であればその厚さは6cm程度です。その程度の長さであればフィンの間を流れる流体が空気であれば、熱交換器フィンの表面による抵抗を大きく考える必要はなさそうです。その一方で、フィンの間を流れる流体が液体の場合、様子は大きく異なります。マクロでみれば空気もその粘性で地球の表面にへばりつく流体ではありますが、私たちの日常生活レベルにミクロに見れば空気の粘性を気にする必要はほとんどありません。その一方で、フィンとフィンの間といったミクロな視点で見ると液体には強い粘性があり、コルゲートフィンやスリットフィンのようにフィンから受ける抵抗があまりに大きいと液体がフィンの間を進んでいけず、つっかえてしまいます。

つまり、ドロドロした粘性の強い流体との間で熱を受け渡す熱交換器の場合、流体がつっかえない程度に抵抗の少ないフィンにする必要があるのです。

なお、このような流体の流れを妨げる方向に働く力を圧力損失と呼びます。圧力損失が大きいと、圧力損失に負けないようにダクトや配管の途中でファンなどで再加圧する必要が生じてきます。

コルゲートフィン

コルゲートフィンの「コルゲート」は「しわ・波型」のことです。

空調設備では室外機に使われることの多い熱交換器のフィンの形です。

プレートフィンと比べると、コルゲートフィンにはその名の通り波型の折れ目がついています。この折れ目の役割は何でしょうか?

熱交換器では、流体とフィンとのあいだでなるべく多くの熱を受け渡してほしいです

そのための方法の一つがフィンの面積を増やすことです。流体の進行方向(奥行方向)に伸ばすこともできますが、寸法的な制約は生じてきそうです。そのため、コルゲートを設けることで、奥行方向のサイズはそのままでフィンの表面積を増やすことができます。

また、流体の進行方向に対して斜めにフィンを取り付けることでもコルゲートにする場合と同じだけの面積を増やすことができますが、なぜ、わざわざコルゲートにしているのでしょうか?それは、コルゲートにして流体の進行方向に凹凸があることで、流れが乱れ、より多くの流体がフィンに触れることができるようになるからです。フィンとフィンの間の真ん中を流れようとする熱交換されていない流体も、コルゲートにより混ぜられることによりフィンの近くに運ばれフィンとの間で熱交換することになるのです。なるべく多くの流体がフィンに触れるチャンスを作るのがコルゲートの役割です。

なお、この時の、流体の流れが乱れる状態を「乱流」と呼びます。また、その逆に、流れが乱れていない状態を「層流」と呼びます。混ぜ混ぜになっているのが乱流で、整列して流れているのが層流です。

スリットフィン

スリットフィンは、フィンにスリットが入って押し出されているタイプのフィンです。

スリットを入れてフィンを部分的に切断すると、切られて接触しなくなった部分では伝導による熱の移動が生じません。つまり、フィンの中での熱の拡散を妨げることにもなってしまうのです。わざわざ熱が拡散しにくくなってしまうようなスリットを設ける必要があるのでしょうか?

スリットフィンのスリットには、コルゲートと同じような流体を撹拌する効果があります。コルゲートは流体の進行方向に対して滑らかな凹凸ですが、スリットは進行方向に障害物として突出しているのでより大きな抵抗となり、より多くの流体を撹拌するのです。コルゲートでは取り逃してしまうようなフィンとフィンのど真ん中を流れる流体であっても、フィンの一部でもあるコルゲートによる強力な撹拌により、フィンに触れるチャンスがより多くなるのです。

ただし、スリットフィンには一つ限界があります。それは、フィンの素材である金属が伸びる範囲内でした突出部分を作ることができないのです。空調設備では、多くの場合フィンの素材はアルミです。アルミにもいくつもグレードがあったり神戸製鋼やPOSCOなどメーカによって素材の伸びは大きく異なります。そのため、スリットフィンを切り抜く金型(クッキーの型のように金属の板を特定の形に打ち抜く金属の塊です)は、伸びが下限で最も割れやすい素材に合わせて作り、製品として完成させられるようにしていることが多いようです。

なお、現在室内機に用いられるフィンの種類としてはスリットフィンのスリットに傾きを付けたルーバーフィン(Louvered Fin)が主流ですが、形状としてはスリットフィンの発展形なのでここではスリットフィンの一種類としてとらえ、個別の説明は省略します。

フィン選択時の失敗予防

熱交換器のフィンには、プレートフィン、コルゲートフィン、スリットフィンがあることをこれまで紹介してきました。最も効率の良いフィン形状に収束されて行っても良さそうですが、なぜコルゲートフィンは室外機で用いられることが多く、スリットフィンは室内機で用いられることが多いのでしょうか

コルゲートフィンは波型ではありますが、フィン自体に凹凸はありません。そのためフィンにホコリなどがついても落下しやすいです。その一方で、スリットフィンの場合、フィン自体に凹凸があり、ホコリなどが引っ掛かりやすい形状になっています。そのため、ホコリなどが多い屋外で使用する場合、スリットフィンよりコルゲートフィンを用いる方が長期間の仕様を考えた場合、性能低下を抑制することにつながります。

また、室外機には霜の問題があります。暖房時には室外機の熱交換器全体が真っ白になるほどフィンに霜がつくことがあります。暖房時に一時的にエアコンが止まるのはこの霜を溶かすデフロスト運転(除霜運転)することによります。デフロスト運転は室内機から風をほとんど出さない冷房運転です。室外機に霜がついた場合、スリットフィンよりコルゲートフィンの方が霜が落下しやすいです。スリットフィンの場合、風速の低くなるスリット部分で霜が発生しやすいのに加え、フィンとフィンの隙間を埋めるくらいに霜が成長してしまいデフロスト運転になった場合でも、スリットに霜が引っ掛かって取り除くことが難しくなってしまいます。そのため、霜が発生しにくく、霜が発生した場合でも除霜しやすいコルゲートフィンの方が室外機には適しているのです。

その一方で、コルゲートフィンよりスリットフィンの方が空気との間での熱交換性能は高いです。さらに室内機は設置できる幅やサイズに制限があるため、性能向上のために熱交換機を大きくするということが難しいです。壁の作りが大壁であればエアコンの幅に制約はありませんが、壁が真壁の場合は柱間にエアコンの幅を収める必要があります。購入できる対象者を大壁の家に限定しないためには、いずれの壁タイプでも設置できるように室内機の幅を標準的な真壁の柱間に抑えておく必要があるのです。

ただし、室内機では性能向上を目指してスリットフィンにしたことにより、新たな制約が発生してしまっています。室内機の中の空気の流路はフィルタ→熱交換器→ファン→風向板となっています。熱交換器のすぐ後ろにはファンがあるのですが、フィンから結露水がファンに落下してしまうと、結露水はファンにより室内に吹き飛ばされていってしまうのです。この現象を「露飛び」と呼んだりしますが、露飛びが生じると室内機付近の高級ソファーに水滴が落ちて色落ちしたら弁償しなければならないかもしれませんし、室内機付近の大型テレビに水滴が飛んで行ってテレビをショートさせてしまったら買い替えなければならないかもしれません。露飛びは大きな問題なのです。そこで、結露しやすいスリットフィンになっていることにより結露した水が必ずフィンを伝って室内機内部の結露水トレーに流れ落ちていくようにフィンの下端の角度に制約が設けられていることもあります。

コルゲートフィンの性能を上げる!

同じ性能を発揮できるのであれば、熱交換器に必要な材料は少ない方が経済的にも作業性的にも資源的にもメリットがあります。すなわち、いかに少ない材料で、いかにコンパクトなサイズで、高い性能を発揮するのか、それが性能向上の目指していく方向です。

では、コルゲートフィンの性能向上は、どのようなアプローチで研究開発が進められているのでしょうか?

コルゲートフィンの性能向上は、以下の5点で検討することができます。

  1. フィンを大きくする。

  2. コルゲートを高くする。

  3. フィン間隔を詰める。

  4. フィンを風上側or風下側に偏在させる。

  5. 風上側を細径、風下側を太径にする。

フィンを大きくするのは、それはそうなのですが、サイズ的にも経済的にも資源的にも作業性的にも不利な方向なので、最後の手段として残しておきます。それまではお金を使うのではなく知恵を使って解決を目指していきます。

コルゲートの高さを高くするのは、二つの意味で難しさを持っています。一つ目は性能的に理想的な高さはどの程度なのか、二つ目は性能的に理想的な高さを実現できるほどに材料のの伸びは良いのか、という難しさを突破していく方法を考えるのが知恵を使った問題解決です。熱交換するチャンスを高めるにはコルゲートを高くするのが良いのですが、コルゲートを高くすると圧力損失が大きくなって流体が流れにくくなってしまい熱交換する頻度が低下してしまいます。

フィンの間隔を詰めるのも、コルゲートの高さを高くするのと同じ難しさを持っています。フィンの間隔を詰めると、室外機の熱交換器を通過する空気はより多くのフィンの表面と触れることができるようになります。ただ、フィンとフィンの間隔が詰まってくると圧力損失が高くなり熱交換器を通過する流体の流量が少なくなってしまうのです。たくさんのフィンに触れるようにと思ってフィンピッチを詰めてフィンを追加した結果フィンに風が流れなくなってしまっては元も子もありません。

フィンを風上側に偏在させるか風下側に偏在させるかは、さらに難しい問題です。また、風上側を太径にして風下側を細径にするなどの配管径のレイアウトも難しい問題です。これは、シミュレーションや実験を通じて決めていくことが重要です。

スリットフィンの性能を上げる!

スリットフィンはルーバーフィン(Louvered Fin)と呼ばれる形に発展していますが、ここではスリットフィンを想定して性能向上の方法を考えてみます。

スリットフィンの性能向上のアプローチとしては、いかにして配管から伝わる熱をスリット部分に伝えていくのか、ということにつきます。気流が乱れるように作られているスリット部分には熱交換されていない新鮮な空気が来る可能性が高いです。そのため、なるべく多くの熱を配管から空気に移動させるためにはなるべく多くの熱をスリット部分に届かせておく必要があるのです。具体的には、配管になるべく近い場所にスリットを設けることが必要なのです。なるべく配管の近くにスリットを設けたいのですが、ここでまた問題になるのが素材の伸びです。伸びが小さいとスリットと配管の間でフィンがさけてしまったり、スリットとスリットの間でフィンが破れてしまったりするのです。

スリットフィンの性能向上の方法は他にもあるかもしれません。空調設備を研究開発、設計製造しているメーカには機械分野や電気分野の出身者が多くいますが、建築系の出身者はとても少ないです。機械分野や電気分野から見た性能向上案はもうそろそろ尽きようとしているかもしれませんが、違う分野の視点から見ると性能向上につながる新たな視点が得られるかもしれません。例えば、生物の分野からはバイオミメティクスという視点で空調機器の性能向上を検討することができます。また、情報処理の分野からはパラメトリックデザインが提案され、省エネルギーにつながる設計に実際に効果を上げています。「建築系が活躍できる分野」を自分で制限してしまわなければ、建築系が活躍できる分野はもっともっと幅広いのかもしれません。