第4話

『涼しくなるには室温を下げる?風速を上げる?壁を冷やす?』

温熱環境の作り方

夏空の広がる炎天下を歩いて出勤したオフィスの中がさわやかに涼しければ、仕事もはかどるかもしれません。

どんよりとした冬空の下、足元が冷たく顔が暑いなんとも気持ちの悪い暖かさの電車を乗り継いでようやく到着したオフィスの中がほんのり暖かければ、仕事に向かおうという気にもなるかもしれません。

見た目も安全性も建物にとって大事ではありますが、その建物が建てられた目的を十分に達成できるかもその建物を設計する立場の方々にはとても大事な視点です。

ここでは、建物がその目的を達成するためのアプローチの一つである空調設備に着目し、設計者に求められている「空間の価値を高める」ことを達成するために設計者が持っている空調技術について俯瞰してみてみます。

第4話のポイント

  1. 温熱環境を作るのは、エアコンだけじゃない

  2. 温熱環境を作るときには、温熱環境の6要素で考える

  3. 室内機で取り込んだ空気を冷やしているとき、室外機では取り込んだ空気を温めている

  4. 除湿・加湿の違いは、蒸発する余地を増やすか減らすかの違い

  5. 風があると蒸発量も増える

  6. 放射空調は投影角で考える

快適な温熱環境を作るときに着目するのは、室温?風速?壁の温度?

快適な温熱環境を作ろうとするとき、夏であれば室温を下げることがまず思い浮かびます。もう少し消費電力量の少ない方法を考えると、扇風機を使って身の回りの風速を上げるという方法もあります。風を浴びて手足が冷えるのを避けるためには壁や天井の温度を冷やすという方法もありそうです。

設備設計者や空調設備のエンジニアたちは、快適な温熱環境を作るときに、何に着目しているのでしょうか?設備設計者や空調設備のエンジニアたちの考え方のフレームにたどり着くには、快適な温熱環境とは何か?というところに戻って考えると、案外早いかもしれません。

それでは、快適な温熱環境はどのような要素で考えることができたでしょうか?

設備設計者や空調設備のエンジニアたちが快適な温熱環境の要素を考えるときに思い出しているのは、温熱環境の6要素です。温度、湿度、風速、放射温度、代謝、着衣の6つで表すことのできる温熱環境6要素です。

空調設備では、そこにいる人に厚着してもらう(着衣量を増やしてもらう)ことはできませんし、そこにいる人をおとなしくさせる(代謝量=発熱量を下げてもらう)こともできません。それなので、空調設備では、温熱環境の6要素のうち人側の2要素(着衣量、代謝量)を除いた温度、湿度、風速、放射温度の環境側の4つの要素に着目します。

以下では、空調設備を温度、湿度、風速、放射温度の4つの視点から大別してみます。

図:快適な温熱環境をエアコンだけに頼るのではなく、一段高いところから見下ろして温熱環境の6要素で見てみると、いろんなアプローチが見えてきます。

温熱環境の6要素のうち、温度に着目した空調技術です。エアコンのように部屋の温度を上げ下げするのに用いる設備です。

体と周辺環境との熱収支について考えると、温度は対流による熱移動に関わっています。

たいていの場合、人の皮膚の表面温度より室温の方が低いので、夏は体からの放熱を増やすようにエアコンは働き、冬は体からの放熱を減らすようにエアコンは働いているのです。エアコンをつけて暖かさを感じているとき、放熱量が減って代謝量と放熱量が釣り合っているか熱を蓄える側になっているときのように思います。

温熱環境の6要素のうち、湿度に着目した空調技術としては、エアコンや除湿器、加湿器があります。

何故ここでエアコンが再び登場するのかというと、エアコンが室温を下げようとするとき、エアコンの室内機には室温よりもずっと低い温度になった冷媒が送り込まれています。冷媒の冷たさは、冷媒の通るパイプやそのパイプにはめられたフィンを通じてエアコンの室内機の中を通り抜ける室内空気に伝えられます。その時、冷やされたフィンに触れた室内空気はフィンに結露します。空気中の水分がフィンにくっつくのです。空気中の水分が減るのです。つまり冷房時にエアコンの室内機のフィンに触れた空気は除湿されているのです

温熱環境の6要素のうち、風速に着目した空調技術です。エアコンの吹き出し口に設置されているファンや、卓上ファン、床置きの扇風機などがこれに含まれます。

暑い日に扇風機だけで乗り切ろうとすると「扇風機をつけても暖かい空気をまぜているだけで涼しくない」という声が噴出します。半分あっていますが半分間違っています。涼しくないのは、全くその通りで、発熱し続けている人の体が涼しいと感じる程度には扇風機が放熱量を増やせていないのです。その一方で間違っているのは、空気を混ぜているだけではないのです。体にぶつかる空気の速度を高くすることで、熱の移動しやすさは格段に高まっています。ただ、皮膚の表面と空気の間の温度差が足りないのです。

温熱環境の6要素のうち、放射に着目した空調技術です。オイルヒーターやハロゲンヒーターなどが放射により人の表面を温める空調技術に含まれます。

洞窟に入った時のひんやりとした涼しさや、オイルヒーターに近づいた時のじんわりとした温かさは、放射で冷やされ温められた時に感じる涼しさ・暖かさです。このじんわり感はなかなか快適です。快適なので、この放射に着目した空調技術は最近では病室や図書館、オフィスなどにも用いられるようになってきています。

<番外編>触れて直接暖かい床暖房。

温熱環境の6要素では、伝導による影響は小さいと考えているため、伝導によって熱的な快適性を得ようという考えは漏れ落ちてしまうことが多いです。

しかし、実際に熱を移動させる効果としては、伝導はとても強力です。

そして、床暖房として古くから使われてもいます。

韓国にはオンドルと呼ばれているとても規模の大きな床暖房があるようです。