環境側要素の検出

空調設備は温熱環境を快適なものにするために作られています。

空調設備は、空調設備自身が作り出している温熱環境が快適なものになっているのか確認しながら制御を進めています。

温度や湿度であれば、身近にセンサなどもあったりします。

その一方で、気流や放射を直接測定することができないのですが、どのように顕出しているのでしょうか。

キーワード

温熱環境6要素、温度、湿度、風速、放射

環境側要素の種類

温熱環境に関する要素のうち、熱的快適性に関する要素は温熱環境の6要素として知られています。

温熱環境の6要素を検出したり推定したりすることにより、温熱環境の評価指標として知られているPMVやSET*を算出することも可能となります。

温熱環境6要素のうち、ここでは環境側の4要素について、その測定方法や推定方法を紹介します。

具体的には、環境側の4つの要素である、室温、湿度、気流、放射について、測定機器の設置されている位置や測定機器から得られる情報の使い方などを紹介します。

実は、熱的快適性を表すのに用いられているPMVやSET*は、完璧な温熱環境評価指標というわけでなありません。

温熱環境に関する要素を6種類も含んでいるPMVやSET*を使っておけば無難ではあるけれど、PMVやSET*では全く無視されている要素もたくさんあるのです。

たしかにPMVやSET*は熱的解析性を大まかに評価するのには非常に便利です。空調機器メーカも、在室者が置かれている環境の熱的快適性をPMVやSET*で数値化して、目標値との差を埋めるための制御を実行しています。しかし、例えば、冷房の効いた部屋に入室してきた直後の人にとっては全然涼しくない部屋であっても、その部屋にすでに数時間いる人にとっては十分に涼しくて逆に寒いくらいかもしれません。そのような滞在時間違いによる温熱環境に対する評価の違いはPMVやSET*には含まれていないのです。

また、PMVやSET*は熱的に暑くも寒くもなく、体内で生み出される熱と体外へ放出していく熱の熱収支が並行している状態を目標値として言います。しかし、そのような温熱環境は消極的な熱的快適性とも言える快適性です。積極的な熱的快適性は、お風呂上がりのエアコンの冷風であったり、雪降る屋外から部屋に入った直後のストーブの目の前の暑い環境などです。これらのような積極的な熱的快適性には、熱収支そのものだけでなく熱収支の変化の速さや熱移動の偏りなど時間的な要素も含まれているようです。

PMVやSET*は有用性が国際的に認められています。実際、便利です。ただ、「PMV=0だから一番理想的な快適な温熱環境」とは言い切れないのです。

温度の測定

空調設備の内部では、室内温度と室外温度、および冷凍サイクルの配管で温度を検出しています。ただ、ここでは、室内の温熱環境に直結する室内機の吸い込み温度のみを対象にして考えていきます。

室内機には、熱交換機の風上側に温湿度センサが設置されています。室内機では、ファンが室内空気を室内機に取り込み吐き出す過程で熱交換機に触れさせることで室内空気の温度や湿度を調整していますが、熱交換機の風上側に設けられていることにより、熱交換される前の室内の空気温度を測定することができるためです。

ただ、室内の空気を吸い込んではいますが、人のいるあたりの空気温度とは多少異なります。その差はおよそ2℃程度です。人のいるあたりの空気の温度より、室内機が吸い込む天井付近の空気の温度の方が2℃くらい高いことが多いのです。そのため、空調設備では室内機が吸い込んだ空気の温度よりおよそ2℃低い温度が人のいるエリアの温度として制御しています。

具体的には冷房時に吸い込み温度が29℃で、設定室温が26℃であった場合、人のいるエリアの温度は29℃-2℃=27℃であり設定された室温まであと1℃下げる必要があると空調設備は判断します。

また、床上2400mmくらいの天井高の天井付近の空気を吸い込んでいますが、冷房の時に気になる床上高さである座っている人の顔の高さは1100mm程度、暖房時に気になる床付近の高さは0mm程度です。床と天井付近の高さの差(2400-0=2400mm)と人の顔の高さと天井付近の高さの差(2400-1100=1300mm)では約二倍程度の高さの差がありますので、当然顔と足元の間でも高さの違いによる室温さが生じていることが予想できます。温度差2℃は冷房時には適した値かもしれませんが、暖房時には3℃くらいにしておく方が安全側のように思います。

湿度の測定

空調設備は、室温だけでなく湿度も測定しています。室内空気の吸い込み口の付近で、室内センサと同じ位置に湿度センサも設けられることが一般的です。

室内の温度については、単眼サーモパイルや複眼サーモパイルを用いて室内の表面温度が測定されることもありますが、湿度に関しては吸い込み口で測定する湿度が室内に均一に分布している一様拡散状態にあると考えてしまうことが多いです。実際には、台所やダイニングテーブル付近では湯気が立ち上っています。ダイニングテーブルから離れていても食事のいい香りは届いてきますが、ダイニングテーブルに近づくほどその香りは強くなります。浮遊する微粒子が香りであり発生源の近くであればその濃度が濃いように、湿度も水蒸気の発生源の近くであるほどその濃度は濃くなります。そのため、サーモパイルで水が気化するような熱源が検出され、同時に吸い込み空気の湿度が高くなった場合、その熱源の近くの湿度は検出した湿度よりも高くなっている可能性があると解釈するのが快適性の向上につながるのかもしれません。

風速の測定

空調設備のみでは気流を測定することはできません。人のいる付近に風速計を設置したり、風速の目安となるような微風でもゆらゆら揺れるタフトを画像処理で検出できるようマーカー付きで設置して室内機に搭載されたカメラを介して画像処理により風速を推定したりするなど、補助的な機器が必要となってしまいます。

人のいるあたりに補助的な機器を置かない場合、推定するしかないのです。その方法が、あらかじめ持っておいたデータとの比較です。風速の推定に必要そうなデータは以下です。

  • 人までの直線距離

  • 人のいる位置のエアコン正面からのズレの距離

  • 部屋の壁の位置

  • 室内ファン回転数

  • 吸い込み温度

  • 室内熱交換機温度

これらの情報があると、人のいるあたりの風速をざっくりと推測することができます。

室温と吹き出し温度が等温であった場合、人までの直線距離は風速の減退の程度の目安となり、人のいる位置のエアコン正面からのズレの距離は左右ルーバーによる抵抗の目安となります。

部屋の壁の位置が分かっていると、コアンダ効果により気流をより遠くまで供給できる程度を推定することができます。

室内ファン回転数は吹き出し空気の風速に直結します。

吸い込み温度と室内熱交換機温度は室内機が吐出する空気の浮力の推定につながります。例えば暖房の場合温度差が大きいと高いファンの回転数で噴出してもすぐに天井付近に上昇してしまい、人のいるあたりまで暖気が届かないかもしれません。

放射の測定

空調設備は室内の負荷を除去するために設置されますが、放射のうち日射は特に大きな負荷となります。ただ、機器発熱や人による発熱などによる負荷よりは検出しやすい負荷ではあります。

発熱による負荷はサーモパイルでも検出することはできますが、奥行方向が分からないため実際のサイズはよくわかりません。その一方で、日射による負荷が生じるエリアは床や机の上であり、8眼のサーモパイルの下から3つまでが床のエリアでそれより上側のサーモパイルは壁の表面温度を測定している、など設計段階でおおざっぱではありますが負荷を推定することも可能です。

複眼のサーモパイルであれば部屋を細かく分析することも可能ですが、実は単眼のサーモパイルも複眼にはないその能力によりかなり有効な使い方ができます。単眼サーモパイルは一瞬で、一発で平均的な部屋内の表面温度を検出することができるのです。他方、複眼のサーモパイルであれば狭い検出幅毎に測定結果を並べていって、検出エリアの端から端まで検出していく時間をかけてようやく室内の平均的な放射環境を推定できるのです。

サーモパイルを用いて在室者の人数や活動量を推定することもできます。例えば検出できる幅の狭いサーモパイルを縦に8個並べたサーモパイルアイルを横方向に検出できる幅の角度で動かして撮影していくと、画素数の非常に少ない画像のような温度マトリクスが完成します。その温度マトリクスから、人のような温度のセルの塊を見つけていきます。例えば、縦方向に3セル連続した32℃程度の塊を人と解釈することができるのです。

ただし、注意点としては、サーモパイルの回転と人の移動が同じタイミングで生じると、同じ人を一枚の熱画像のなかで何枚も撮影してしまうのです。サーモパイルが右を向いているときに右にいた人が、その位置での検出を終えた直後に左側に移動した場合、右で熱画像に撮影された人が左側で再び熱画像に映り込んでしまうのです。