伝導

突き抜けて伝わっていく熱

固体の中を熱が移動する状態を伝導と呼びます。

一歩下がって広い視点で見ると、押出法ポリスチレンフォーム(スタイロフォームなど) のような断熱材や大谷石など個体の中に小さな空気が閉じ込められている構造の場合(流体が動かない場合)、伝導により熱が空気を通過すると考えることもできます。

ただ、建築設備として考える場合は固体の中の熱移動が主となるので、ここでは主に固体を対象として考えていきます。

伝導により移動する熱の量

熱は、その量すなわち『熱量』で考えると、空調設備の性能や壁の断熱性能などを考えやすくなります。

あまり数式だらけにはしたくはないのですが、伝導による熱移動に関して式を一つだけ考えてみます

伝導により移動する熱の量は、以下の式で計算することができます。

各記号の意味は以下の通りです。

Qconduction

λ

L

Ta, Tb

A

:  伝導による熱移動量(W)

:  熱伝導率(W/m℃)

:  対象物の厚さ(m)

:  対象物のa面の表面温度とb面の表面温度(℃)

:  対象物の面積(㎡)

簡単に書くと以下になります。

この式は、伝導、対流、放射、蒸発に共通する基本的な形です。

熱の移動量は、係数温度差面積で求めることができます。

熱の移動量の基本です。

係数、温度差、面積。

これさえあれば、熱の移動の基本を理解したと言えます。

係数と、温度差と、面積です。

対流、放射、蒸発の説明においても出てきます。

係数、温度差、面積の3点セットです。

材料を重ねても流れる熱の量は変わらない

ここで、材料を重ねた場合の熱の移動を考えてみます。

具体的に考えていくために、厚さをL1, L2, L3、熱伝導率がλ1, λ2, λ3とします。その時の、室内側の空気温度をti、室内側表面温度をt1、板と板の間をt2, t3、屋外側表面温度をt4、屋外の空気温度をtoとします。

3枚の板を重ねた全体の熱伝導率は、以下で求めることができます。

以上より、以下が得られます。

熱的に安定しているとき、一枚目の板を通り抜けている熱量は、二枚目の板を通り抜けている熱量と同じで、その熱量は三枚目の板を通り抜けている熱量とも同じです。熱伝導率も板厚も違う三枚の板を通り抜けている熱量が同じであるという状態は、下の図でイメージすることができます。

まず、熱量は流量に置き換えることができます。熱の通しやすさに関する熱伝導率と厚さは樋の幅のようなもので、温度差は水の深さのようなものです。すると、樋の幅(熱の通しやすさ)が変われば水深(温度差)が変わるものの、流量(熱量)は変わりません。伝導による熱の移動もこれと似たような状態です。

熱伝導率

銅や鉄などの金属は熱を通しやすい物質です。

例えば、手の熱でアイスを溶かしてすくいやすくするアイス用スプーンでは、手からアイスへ熱が伝わっています。

また、冷蔵庫の壁の中には熱を通しにくい断熱材が詰め込んであります。

上の図は、建材としてよく見かける材料の熱伝導率です。

一般に比重が大きいほど(密実であるほど)熱伝導率は高くなり、熱を通しやすくなります。

冷房の効いた室内に置いてある鉄板に触れると冷たく感じます。その一方で、同じ室内に置いてある発泡スチロールに触れると暖かく感じます。鉄板も発泡スチロールも温度は同じなのに、感じる冷たさ・温かさは違うのです。この違いは熱伝導率の違いが原因です。

熱伝導率の高い鉄に触れた時、手の熱は触れた部分から鉄に伝わっていきます。手から鉄へは、触れている部分の温度が同じになるまで熱が移動し続けます。鉄の熱伝導率は高いので、手の触れている部分に伝わった熱はすぐに広がってしまいます。つまり、手の触れている部分の温度はなかなか手の温度まで上がっていかず、手からはしばらく鉄に熱が移動し続け、しばらく冷たさを感じることができるのです

その一方で、熱伝導率の低い発泡スチロールに触れた時、手の熱は触れた部分から発泡スチロールに伝わっていくのですが、発泡スチロールの中では熱がなかなか広まっていきません。そのため、手の触れている部分の温度はすぐに手の温度と同じになってしまい、すぐに温かく感じるようになってしまうのです。つまり、発泡スチロールに触れて温かく感じるのは、自分の手の温度で温かく感じているのです

ところで、スタイロフォームなどの断熱材の熱伝導率が低く熱を通しにくいのはナゼでしょう?

その答えの一つは、熱伝導率の小さな静止空気にあります

断熱材は微小な気泡を多量に含んでいます。小さな空隙に閉じ込められた空気は動くことができません。断熱材は素材として熱伝導率が小さいだけでなく、微小な静止空気を多量に含んでいることにより、材料として熱伝導率が小さくなっているのです。

空気が静止していない場合はどうなるでしょうか?

微小は空隙では空気は動くことができませんが、冬に冷えた窓に触れた空気がカーテンの下の隙間から吹き込んでくるコールドドラフトや窓を開けることによる通風に代表されるように、建物スケールで考えると空気は動いています。扇風機の風を強くするほど涼しく感じ、空気を動かさなければ熱を伝えにくいのです。空気を動かせば動かすほど熱は移動しやすくなるのです(少し対流による熱移動の話が含まれています)。

ちなみに、熱伝導率でガラスのイミテーションとダイヤモンドを見分けるなど宝石の評価ができるそうです。