熱が移動しやすい部位

建物の外と内とで熱が移動しやすい部位として、角部と熱橋があります。

ここではそれらの概要と対策を紹介していきます。

建物の角部と放熱

角部とは、建物の各部位の中でも特に外気や日射などの屋外環境の影響を受けやすい部分です。なぜなら、角部の外皮面積は他の平面部に比べて大きいため、単位室内側表面積当たりの外皮面積が大きくなるからです。これが、角部が他の部分よりも熱の影響を受けやすい主な理由です。

さて、まず角部がどうして熱移動の影響を受けやすいのか、その理由を考えてみましょう。建物の角部は、二つの壁が交差する場所や、二つの壁と天井(もしくは床)の3面が交差する部分であり、室内側の壁面積に対して、屋外側の壁面積が大きく、屋外側の熱の影響をより大きく受けることになります。これは、一面しか外部に面していない壁面とは大きく異なります。

また、建物の角部は、建物の形状や向きによっても受ける熱の影響が変わります。例えば、南向きの面を持つ角部は南向きの壁面と比較して一日を通じて日射の当たる時間が長くなり、夏には温度が高くなりがちです。このように、角部はその位置や方向によって熱の影響を受け方が変わるのです。

建物の設計や施工においては、角部の熱移動の特性を理解し、その影響を適切にコントロールすることが求められます。例えば、断熱材の選定や配置、窓の位置や大きさの調整などによって、角部の熱負荷を適切に制御することが可能です。これらの対策は、快適な室温環境を実現するとともに、エネルギー消費の抑制にも寄与します。

熱橋(Heat Bridge)

「熱橋」は「冷橋」や「ヒートブリッジ」などとも呼ばれるもので、建物の部位の中で周囲よりも熱貫流率が高い部分のことを指します。なぜ熱貫流率が高い部分が特定されるのか、それは熱が建物の内部と外部とをつなぐ「橋」の役割を果たすからです。

ここで、「熱貫流率」という言葉がについて概要を説明します。これは建築の熱性能に関わる重要な指標で、壁などの単位面積あたりにどれだけの熱が流れるかを示す数値です。熱貫流率が高いということは、その部位が熱を通しやすい、つまり断熱性が低いということになります。断熱性が低いということは、冬は暖房の熱が外へ、夏は外の熱が室内へと逃げやすくなる、つまりエネルギーの損失が大きいということになります。したがって、熱橋は建物の断熱性能を下げる主要な要因となるのです。

では、どのような部位が熱橋となりやすいのでしょうか。それは、壁や床、屋根などの断熱層を途切れさせる部位で、建物の構造によって異なります。その中でも、木造、鉄骨造、CLT(Cross Laminated Timber)造について具体的に見ていきましょう。

木造

木造の建物において熱橋となりやすい部位は、屋外側の壁と室内側の壁の間に断熱材が設けられていない部分です。これらは主に柱や間柱などで、このような部位が熱の橋となってしまいます。

木造建築における熱橋の問題は、木そのものの熱伝導率は比較的小さいものの断熱材と比べると熱伝導率が大きいため、断熱材が設けられていない柱や間柱が熱の経路となってしまうことにあります。これは、木造建築の構造上、避けて通れない問題といえます。しかし、この熱橋をどうにかして軽減、もしくは解消できれば、建物全体の断熱性能が大きく向上し、エネルギー消費を抑えることができるのです。

特に、日本の住宅においては、断熱性能が求められることが多いです。それは日本の気候のうち特に冬季には寒冷となる地域が多いためです。そのため、断熱性能を高めるためには、熱橋となる部位を減らすことが重要となります。そのための施策として、断熱材の選択や配置、建材の選択などが考慮されます。

鉄骨造

鉄骨造も木造と同様、屋外側の壁と室内側の壁の間に断熱材が設けられていない鉄骨部分が熱橋となります。特に鉄骨は金属であるため、木材に比べて熱伝導率が非常に高いのが特徴です。

鉄骨造建築における熱橋の問題は、これが放熱面積を増やしてしまうことです。つまり、鉄骨部分は建物の内外を熱的につなぐ「橋」の役割を果たし、内部の熱を外部に逃がしやすくする一方で、外部の熱を内部に持ち込む可能性も高まります。これがエネルギーロスの一因となります。

この問題を解決するためには、鉄骨自体の断熱性能を上げる、あるいは鉄骨部分の熱貫流を低減する手法が必要となります。断熱材を鉄骨周辺に充分に設けることや、断熱性の高い材料を鉄骨の外覆に使用することなどがその一例です。

このように、建物の構造や使用材料によって熱橋の発生箇所や影響度合いは異なりますが、その対策はエネルギー効率を向上させる重要なポイントとなります。また、鉄骨造建築では防火対策も重要で、熱橋対策と併せて考慮する必要があります。なお、防火対策としては、断熱材や外覆材に耐火性の高い材料を使用する、鉄骨部分に防火塗装を施すなどが一般的です。

CLT造

最後に、新しい建築材料として注目されている「CLT(Cross Laminated Timber)」について説明します。CLTとは、木材を交互に積層し接着したもので、その特性上、独特な熱橋の問題が生じます。

CLT材の場合、室内側の壁と屋外側の壁をつないでいる金属部分が熱橋となります。これは特に冬期に問題となりやすく、低温の外気により冷やされた部分に室内の多湿な空気が触れることにより、壁の室内側や壁内に結露が生じるからです。

この結露が引き金となり、壁紙のカビや断熱材や壁材の腐食が発生します。これらは建築物の長期的な耐久性や居住者の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、CLT造の建築における熱橋対策は、短期的な快適性だけでなく、長期的な持続可能性を考慮する上でも非常に重要です。

対策としては、CLT部材を組み立てる際の接合部に金属部材を使用しない、または使用する場合も断熱性能の高い素材を採用することなどが考えられます。