遮音
コンサートホールでは、ホール内の音のコントロールはもちろん大事ですが、ホール内に外の音が入ってこないようにすることも重要です。
演劇の公演中の素敵な場面で、外の道路を走る暴走族がブリブリブーブー鳴らしている音が聞こえてくるのは不快です。
そうならないように、外の音がホール内に入るのを遮る工夫が必要です。
それが、遮音です。
遮音と透過
音を遮ることが遮音で、音が貫通していくことが透過です。
遮音の程度の評価は、入ってくる音のうちどの程度が透過したかで評価します。それが透過損失です。
遮音は透過損失で考えていきます。
透過損失
透過損失と透過率は、遮音を考えるうえで基本となる概念です。
計算方法は対数(log)を使うなど、少しややこしいですが、概念は簡単です。
透過率は、inputとoutputの比です。
透過率は、入射してくる音と出ていく音の音響パワー(dB)の比で、透過率が大きいほど入ってくる音をたくさん透過させることを示しています。
空いている窓や台所の換気扇、ドアの下の隙間や彫刻された欄間など、ざっくり見て穴の開いている部分の透過率は「τ=1.0」です。
透過損失は、透過率の逆数で、遮音性能を表す値として用いられています。
透過損失は、値が大きいほど音を通しにくいことを示しています。
質量則
密実なコンクリートの壁は音を通しにくそうで、その透過損失はとても大きそうです。
庭に置かれた倉庫のような板金の透過損失は、密実なコンクリートの壁よりは小さそうです。
障子や襖(ふすま)は、板金よりも音を通しそうで、透過損失も一層小さくなりそうです。
日常生活の中からもイメージできるように、コンクリートの透過損失は大きく、襖の透過損失は小さいです。
そのような、密実で重たい素材ほど音を跳ね返しやすい特徴を『質量則』と呼びます。
質量を2倍にすると、透過損失は2倍にはらなずに+6dBになります。
コインシデンス効果
カタカナが並んでちょっとややこしい印象を持つ効果ですが、基本的な概念は難しくありません。
コインシデンス効果は、入ってくる音により壁が振動し新たな音源となってしまうことにより遮音の効果が低減してしまう、という現象です。
なお、音の波は縦波ですが、イメージしやすいように下図では横波で描いています。
壁に対して斜めに音が入ってくると、その波長を斜めに受け取った壁がちょっと間延びした波長を新たに生み出してしまいます。
斜めに入ってくる音の振幅の大きな部分を山、振幅の小さな部分を谷として受け取り、その山と谷とを結んだ波で壁が振動することをコインシデンス効果と呼びます。
入ってくる音だけでなく新たに音が発生するため、コインシデンス効果が発生すると、新たに発生した音の周波数帯での遮音性能がガクッと落ちてしまいます。
層の数
壁の数は多い方が良いように思いますが、実はそう簡単ではありません。
壁の層数が増えるほど、壁と壁の間の空気層も増えていきます。
空気層は、実はばねの役割を果たします。
そのばねで増幅された音の周波数とその壁の固有振動数が一致すると、壁が共振し、遮音性能が低下してしまうのです。
総合透過損失
壁が一つの材料のみで構成されている場合には、一つの材料の透過損失で表現することができます。
その一方で、窓があったり換気扇が設けられていたりすると、複数の透過損失を考える必要が出てきます。
面積当たりの透過損失を総合することである面の総合的な透過損失を考えたのが総合透過損失です。
たとえ小さくても、穴が開いていると総合透過損失は大きく低下します。
例えば、厚さ150mmのコンクリート壁の透過損失はおよそ50dBです。その壁が10㎥あった場合を考えてみます。
その壁に10cm角の換気扇(透過率τ=1.0)が空いている場合、総合透過損失はどの程度になるでしょうか。
試しに計算してみたところ、たった10cm四方の穴が開いているだけで、総合透過損失は20dBも下がってしまいました。
小さくても穴の影響は大きいようです。
遮音性能の着目点
建物の遮音性能は、主に以下の4つの尺度から評価されています。
室内騒音レベル
空間音圧レベル差
内外音圧レベル差
床衝撃音レベル
床衝撃音は、床にものが落ちた時に発生する音です。食器など軽いものを落とした時の軽量床衝撃音と、家具を設置するときの音や歩行の音などの重量衝撃音の二種類があります。
空間音圧レベル差は、対象室とその隣の部屋の間での音圧レベル差から、遮音性能を評価します。
内外音圧レベル差は、建物の内外での騒音の音圧レベル差から、遮音性能を評価します。
室内騒音レベルは、浴室やトイレの水を流す音や、空調設備や換気設備の音などによる音圧レベルのことです。