熱の発生と熱の除去
空調設備は室内側に高温を発生させ暖房して、室内側に低温を発生させて冷房します。
高温も低温も、空気を熱源にして、単一の空調設備で発生させています。
ここでは、空気を熱源にして空調設備が低温や高温を発生させる仕組みをモリエル線図を使って紹介します。
キーワード
モリエル線図、冷凍サイクル、圧縮機、熱交換機、凝縮器、膨張弁、蒸発器
冷房・暖房=熱の移動=モリエル線図
空調設備が冷房運転するときは、以下のステップで室内の空気から熱を奪っていきます。
圧縮機で気体の冷媒を圧縮して、高温高圧の気体の冷媒にします。
室外機の熱交換機に高温高圧な気体の冷媒を送り、冷媒より低温な外気を熱交換機に通すことで外気に熱を移して液体に相変化させ、低温高圧な液体の冷媒にします。
次に、その冷媒を膨張弁を通すことで減圧します。液体の一部は気体となり、低温低圧な気体と液体の混合した冷媒になります。ここまでが室外機の中で起こっていることです。
低温低圧な気液混合冷媒は、熱交換機の中を流れていくうちに、熱交換機を通過する冷媒より高温の室内空気から熱を奪い、気体に相変化していきます。これが室内機の中で起こっていることです。
上記の4つのステップを図で描いたものがモリエル線図です。
モリエル線図は、横軸に比エンタルピー、縦軸に圧力をとったグラフで、液体や気体といった状態や等温度線が描かれている、冷媒の状態を表したものです。
比エンタルピーや圧力、温度や状態の関係は冷媒の種類によって大きく異なるため、冷媒の種類ごとにモリエル線図が存在します。
ルームエアコンには、しばらく前はR410Aという種類の冷媒が使われていました。それより前はフロンが使われていました。
フロンは冷媒としての性能は高かったのですが、オゾン層を破壊してしまうという特性があることが分かりました。そこで、オゾン層を破壊しないが冷媒となりえる性能を持つ代替フロンが開発されてきました。それがR410Aです。R410Aはオゾン層は破壊せず不燃性でもあるので広く普及しました。しかし、温暖化係数の値が高く、R410Aを使い続けることは地球温暖化につながってしまうことが分かってきました。そこで、代替フロンの一種であるR32が新たに開発されました。R32の温暖化係数は、ゼロではありませんがR410Aの1/3程度です。ただ、R32には微燃性があるとされています。
R32の温暖化係数は代替フロンの中では低いもののCO2の675倍もあります。なお、温暖化係数は、そのものの温室効果がCO2の何倍であるかを表しているものです。CO2の675倍の温室効果のあるR32の温暖化係数は675です。
一点補足があります。
凝縮器も蒸発器も熱交換機の一つです。
冷媒と空気の間で熱交換をする部分が熱交換機です。
室内機にも熱交換機は入っていますし、室外機にも熱交換機が入っています。
アルミでできたフィンの束が熱交換機です。
その熱交換機のうち、冷媒がエネルギーを放出するのが凝縮器で、冷媒がエネルギーを吸収するのが蒸発器です。
冷房時の室外機の排気は、なぜ熱い?
冷房時の室外機で熱が排出される工程は、モリエル線図の上側の線「凝縮器」の部分です。
この凝縮器の工程は、右から左に冷媒の状態が変わっていきます。
凝縮器の工程では、高温の気体となった冷媒が配管の中を流れている室外機の熱交換機に、ファンで強制的に室外機に引っ張ってこられた冷媒より低温の外気が触れることで、冷媒の熱が熱交換機を介して外気に移動していきます。
外気には冷媒から熱が移動してくるので、熱交換機を通過する外気の温度は高くなります。
それが、冷房時に室外機から熱い排気が吹き出す理由です。
冷房時の吐出空気は、なぜ冷たい?
冷房時の室内機で熱が冷媒に吸収される工程は、モリエル線図の下側の線「蒸発器」の部分です。
この凝縮器の工程は、左から右に冷媒の状態が変わっていきます。
蒸発器の工程では、気体と液体が混合した低温の冷媒が配管の中を流れている室内機の熱交換機に、ファンで強制的に室内機に引っ張ってこられた冷媒より高温の室内空気に触れることで、室内空気の熱は熱交換機を介して冷媒に移動していきます。
室内空気から冷媒へ熱が移動していくので、室内の空気の温度は低くなります。
それが、冷房時に室内機から冷たい空気が吹き出す理由です。
そもそも、冷房能力・暖房能力って何?
モリエル線図の横軸は比エンタルピーです。
比エンタルピーは簡単に言えばエネルギーです。
横軸の幅が、その工程で移動するエネルギー量です。
冷媒の持つエネルギーが小さくなれば=エネルギーが熱交換機を通過する冷媒から空気に放出されれば、冷媒からエネルギーを受け取った空気は暖かくなります。
この時に放出されるエネルギー量が暖房能力です。
モリエル線図で言えば上側の横線です。
また、冷媒の持つエネルギーが大きくなれば=空気から熱交換器にエネルギーが移動すれば、冷媒にエネルギーを渡してしまった空気は冷たくなります。
この時に冷媒に渡すエネルギー量が冷房能力です。
モリエル線図で言えば、下側の横線です。
暑い日に冷房が弱いのは、なぜ?
冷房能力は下側の横線です。
冷媒の持つ比エンタルピーが多くなるプロセス=空気の持つエネルギーが冷媒に奪われるプロセスが冷房です。
圧縮機から放出された冷媒が室外機の熱交換機を介して外気に熱を放出する凝縮器のプロセスで、暑い日には比エンタルピの下限が高温側に移動します。
すなわち、凝縮器で放熱できるエネルギー量は小さくなります。
凝縮器で冷媒から外気に移動する熱量が少なくなると、反対側のプロセスである蒸発器で冷媒が受け取ることのできるエネルギー量が小さくなってしまいます。冷媒が周辺空気から奪う熱量が少なくなるということは、周辺空気を冷やす能力が小さくなることを意味します。
モリエル線図を一周するために圧縮機から冷媒を送り出すのに必要な電気代は変わりませんが、一周することにより得られる冷房能力が小さいのであれば、より多く圧縮機を回転させる必要があります。すなわち、涼しい日と同じ冷房能力を得るためには暑い日にはより多く圧縮機を回す必要があり、より多くの電気代が必要となるのです。
寒い日に暖房が弱いのは、なぜ?
暖房能力は上側の横線です。
冷媒の持つ比エンタルピーが少なくなるプロセス=冷媒の持つエネルギーが空気に移動することにより小さくなるプロセスが暖房です。
室内の空気にエネルギーを供給するために冷媒がエネルギーをため込むプロセスが、モリエル線図の下側のプロセスです。
この下側のプロセスでどれだけたくさんエネルギーをため込めるかが、圧縮機で一定量加圧した後に室内で放出できるエネルギー量に直結してきます。
寒い日には、外気の持つエネルギー量が小さいためモリエル線図で右側に行ける量が小さくなってしまいます。すなわち、冷媒がため込める熱量が少なくなってしまうのです。そのため、圧縮機を一回回して循環する量の冷媒がモリエル線図を一周する過程で冷媒が外気から吸収し、室内に放出する熱量は、外気温が低いと少なくなってしまうのです。
モリエル線図を一周するために圧縮機から一定量の冷媒を送り出すのに必要な電気代は冷房時も暖房時も変わりませんが、一周することにより得られる暖房能力が小さいのであれば、より多く圧縮機を回転させる必要があります。すなわち、わりと暖かい日と同じ暖房能力を得るためには寒い日にはより多くの回数冷媒を循環させる必要があり、そのためにより多く圧縮機を回転させる必要があり、そのためにより多くの電気代が必要となるのです。
顕熱・潜熱はモリエル線図のなかにもあった!
熱の移動を考えるときに出てくる顕熱と潜熱は、モリエル線図にも出てきます。
液体・気液混合・気体という3つの状態を分ける線に着目すると、モリエル線図に隠れている顕熱と潜熱が見えてきます。
モリエル線図は、左上が冷媒が液体のゾーン、曲線で囲われたゾーンが気体と液体が混合しているゾーン、その右側が冷媒が気体のゾーンです。
また、顕熱は温度変化に伴う熱の移動、潜熱は状態変化に伴う熱の移動です。
凝縮器の工程であるモリエル線図の上側の横線は、右側の気体から始まって、真ん中の気液混合ゾーンを通過して、左側の液体ゾーンに伸びています。すなわち、凝縮器の工程では気体から液体へ状態変化が起こっているのです。すなわち、気液混合ゾーンでは顕熱により空気と冷媒との間で熱の移動がなされているのです。
凝縮器の工程の右側の気体のゾーンと左側の液体のゾーンでは、気体のみあるいは液体のみのゾーンが存在します。つまり、状態変化は起こらず冷媒の温度変化により空気と冷媒の間で熱交換がなされているのです。
それらが分かるのが、等温度線です。気液混合ゾーンでは、圧力も温度も変わりませんが比エンタルピだけが変わっていっています。つまり、状態変化に比エンタルピ、すなわちエネルギーが使われているのです。これが潜熱のゾーンです。液体ゾーンと気体ゾーンでは、圧力は変わりませんがモリエル線図を水平方向に等圧で移動していくと比エンタルピーが変わるのに伴い温度も変わっていきます。これが顕熱のゾーンです。