視覚

目は光を検出し、色を見分け、画像情報を脳に送るセンサの役割を果たしています。

しかし、入ってきた光をただ受け取り脳に送りつけているわけではありません。

光が入ってくる最前線である目でも、あたかもエッジコンピューティングのように、入ってくる光の特徴に合わせて光を様々に加工して受け取っています。

視覚

人間の視覚システムは、脳と目とが協力して働くことで、私たちが目の前の世界を理解することを可能にしています。そこには光が大きな役割を果たします。私たちが「見る」という行為は、目が光を捉え、それを脳が解釈するという一連の作業の結果です。しかし、光と目の関係は単純なパッシブなものではなく、目は受動的に光を捉えるだけでなく、光の特性により反応を変える能力を持っています。

これは、瞳孔が光の量により大きさを調節することで明らかです。明るい場所では瞳孔は縮み、暗い場所では拡大します。これは光の強弱に適応する目の独自のメカニズムで、適切な光の量が網膜に到達することを保証します。このメカニズムは、目が光の特性に応じて反応を変える一例であり、目はまるでエッジコンピューティングのように働いています。エッジコンピューティングは、データ処理を集中的なデータセンターではなく、情報源に近い位置で行うコンピューティングの手法で、この視覚メカニズムと似た働きを持っています。

この現象の研究は、多くの科学者や研究者たちによって行われ、現在の我々の知識を形成してきました。有名な研究者としては、アイザック・ニュートンがいます。彼は色彩理論の研究を行い、白い光が多くの色から成ることを発見しました。また、ジョージ・ウォルドは、視覚に関する彼の研究により、1967年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の研究は、視覚細胞が光をどのように感知するか、そしてそれがどのように視覚信号に変換されるかを理解する上で重要です。

また、目の構造自体も視覚体験に影響を与えます。例えば、瞳孔の大きさや形状、そして網膜の配置は、我々が見る世界をどのように捉えるかに影響を与えます。これらは視覚の物理学的側面を表しており、それらを理解することで、我々は視覚の作用メカニズムをより深く理解することができます。

明順応・暗順応

明順応・暗順応は、慣れるまでの時間

我々の視覚システムは、周囲の光の強弱に対して非常に感受性が高く、それに応じて適応する能力を持っています。これが「明順応」と「暗順応」と呼ばれる現象です。

明順応は、目が明るい環境に適応する過程を指します。具体的には、瞳孔が収縮し、網膜に届く光の量が減少することで、強い光の環境に適応します。これにより、我々は明るい場所でも快適に見ることができます。

一方、暗順応は、目が暗い環境に適応する過程を指します。ここでは、瞳孔が拡大し、より多くの光を捉えることができます。これにより、我々は暗い場所でも何かを見ることができます。

これらの現象は、脳が情報を解釈し、それに基づいて視覚システムの動作を調整することで起こります。この適応メカニズムにより、我々は様々な光環境で活動することができます。

明順応は明るい環境に慣れるまでの時間、暗順応は暗い環境に慣れるまでの時間です。

もう少し具体的に言うと、目の虹彩が伸びて瞳孔が狭くなり網膜に届く光が少なくなった状態において、脳が錐状体からの刺激を受け取れるようレンジの調整を終えるまでの時間が明順応です。

明順応と暗順応は時間に関係する特徴なので、横軸を時間軸としたグラフを使って説明します。あとは、明順応と暗順応が生じるためのイベントとして消灯と点灯を発生させることとします。

縦軸は感度です。どれだけ弱い光を検出することができるかを示したもので、感度が高いほど弱い光も検出できることを示しています。

まず始めは明るい環境に順応している状態、すなわち明順応の状態になっているとします。

明るいので感度は低い方が都合よいです。

暗順応には30分かかる。

暗順応とは、私たちの眼が暗い環境に順応していく過程のことを指します。具体的には、明るい環境から暗い環境に移動したとき、最初は何も見えないような状態から徐々に周囲の物体が見えるようになっていく現象を指します。

暗順応は、視細胞と呼ばれる眼の細胞が暗い環境に対応するために感度を高めていく過程であり、この過程は大きく二つのステップに分けることができます。まず、消灯するとすぐに感度は少し向上しますが、これ以上の感度の向上は一部の視細胞によって行われます。この視細胞は錐状体と呼ばれ、主に明るい環境での視覚を司っています。暗い環境になると錐状体の感度は少し上昇しますが、それ以上の感度の上昇はあまりありません。

一方、もう一つのルートは、暗い環境に対して高い感度を発揮できる桿状体という視細胞によって行われます。桿状体の感度は、一旦一気に上がった後、さらに徐々に上昇していきます。この桿状体による感度の上昇は、暗い環境に対して非常に高い感度を発揮できるようになりますが、この過程は時間がかかり、感度が最大になるまでには約30分ほどかかるとされています。

明順応は数秒

明順応とは、その名の通り、暗い環境から明るい環境に移行したときに、眼がその照明の変化に対応して視覚の感度を調整する過程のことを指します。

暗い環境から明るい環境に移行すると、初めは眩しさを感じるかもしれません。しかし、これは眼が暗い環境で高まった感度を調整し、明るい環境に適応する過程です。この明順応の過程は暗順応とは対照的に、非常に短い時間で進行します。具体的には、照明を点灯してから数秒から数分で感度を下げて、明るい環境に順応することができます。

この感度の調整は、暗順応の時と同様に、錐状体と桿状体という二つの視細胞によって行われます。ただし、明順応では、これらの視細胞は高まった感度を下げて、明るい環境に対応するように感度を調整します。

なぜ、私たちの目はこのような特徴を持っているのでしょうか?

このような目を持っていた私たちの祖先は、このような目を持っていなかった時の祖先の仲間たちより生き残ることに有利だったのでしょうか?

以下は、一つの考えです。

昔の人間、あるいは人間の祖先が目の構造を進化させてきた理由を考えると、その主な目的は「生存」に直結しています。ここでは、具体的な生存のシーンと、目の特性である明順応・暗順応について考察していきましょう。

まず考えられるシーンは、突然の危険からの避難です。我々が眠っている最中に危険な音を聞いたとき、もしくは暗い場所から明るい場所に出たとき、生存確率を高めるためには素早く周囲の環境を把握することが求められます。

これは例えば、獰猛な肉食獣の唸り声に飛び起きたときや、雨宿りをしていた洞窟から出たときに目の前に肉食獣の群れがいた場合、自分の方が先に逃げることができれば生き残る確率が高まります。このような状況下では、素早く明るさを認識し環境を把握できる視覚システムは生存に直結します。

これらの生物の視覚システムは、我々の祖先が持っていたシステムからどのように進化してきたのでしょうか?クラゲのような比較的原始的な生物も、明るさを検出するセンサを持っています。しかし、その情報を高速に処理し行動に結びつける能力が進化の過程で重要となってきたのです。

それでは、人間の視覚が進化の過程で明順応・暗順応の能力を持つようになった背景を考察してみましょう。明所視や暗所視が進化の過程で生物にとってどのような利点をもたらしたのか、その一端を探ります。

考えられるのは、明所視が進化した生き物が得た利点と、暗所視が進化した生き物が得た利点です。まず明所視の利点から考えてみましょう。明るい場所では、情報量が増えます。その情報を高速に処理できる生き物は、餌をより多く得られる可能性があります。同様に、暗所視で得られる情報の処理に時間がかかる生き物よりも、暗い環境での情報を素早く把握し行動に移せる生き物の方が、生存率は高いと考えられます。

このように、明所視・暗所視が進化したことによって生き物は、環境の明暗を素早く見分けることができ、それにより素早く行動に移すことができるようになったのです。

しかし、これらの視覚が移り変わっていくのには時間が必要でした。例えば人間の目は、暗い環境に慣れるのに約30分を要します。状況によってはこれが生存に直結することもあるため、より短時間で環境に順応できるような視覚システムの進化が進行していると考えられます。

我々人間はまだ進化の途中にあります。同じ種類の生き物と少し違う特徴を持った生き物が生まれ、その特徴がその時の環境にとって生き残るのに都合の良いものであれば、その特徴を持つ生き物が生き残ります。このプロセスは「突然変異と自然選択」と呼ばれています。

通常、進化というと目に見える部分に焦点が当たりがちです。しかし、情報を処理するシステムや意思決定の特徴、それらが体現した振る舞いや社会性にも進化があることを理解することが重要です。このような視覚や認知の進化は、私たちがどのように環境と共生し、その中で生き抜いていくのかを理解するための重要な視点となります。

プルキンエ現象

明るさによって見やすい色が違う

プルキンエ現象は、明るさによって見えやすい色が違ってくるという現象です。もう少し具体的に言うと、優勢となる視細胞(錐状体と桿状体)により、感度が高い光の波長(色)が違うという現象がプルキンエ現象です。

プルキンエ現象とは、私たちが明るさによって異なる色を見やすく感じるという現象です。これは視覚の構造に由来しており、特に二つの視細胞、すなわち錐状体と桿状体の働きにより生じます。

この現象の名前は、19世紀のチェコの生理学者、ヤン・エヴァンゲリスタ・プルキニェが発見しました。彼は視覚と色彩についての多くの実験を行い、私たちが異なる光の環境で色をどのように認識するかを理解しようとしました。その結果、彼はこの現象を発見し、それに彼自身の名前をつけました。

プルキンエ現象を理解するためには、まず視細胞について説明する必要があります。私たちの眼には二つの主要な視細胞があり、それぞれ異なる光の環境で最適に動作します。これらは錐状体と桿状体と呼ばれます。

錐状体は主に明るい環境での視覚を司る視細胞で、彼らは色彩と細部の認識に非常に敏感です。一方、桿状体は暗い環境での視覚を担当しており、彼らは色彩よりも動きや形を捉える能力に優れています。

この錐状体と桿状体がそれぞれ感度が高い光の波長(色)が違うということが、プルキンエ現象の中心的な要素となります。具体的に言うと、明所視では、錐状体が最も反応するのはおよそ555nmの黄緑色です。これは錐状体が主に日中や明るい場所で使用されるためです。一方、暗所視では、桿状体が最も感度が高いのは青色に近い波長、つまりより短い波長の光です。

これは、私たちが夜間に見る景色が青く見える理由でもあります。夜になると、私たちの目は桿状体に頼るようになり、その結果、私たちは青い色をより明瞭に感じるようになるのです。

プルキンエ現象の説明のために、横軸に光の波長(色)、縦軸に感度の図を考えてみます。

人の目は380nmから780nmの波長に反応できる視細胞を持っています。

波長が短いのが紫で、波長が長いのが赤です。

虹で内側が紫で外側が赤なのは、波長が短いほど空気中の水分で屈折しやすい(屈折率が高い)ので中央に集まってきているためです。

明所視では、およそ555nmの黄緑色に対して最も高感度となっています。

暗いところだと、見えやすい色は青に近づく(見えやすい波長は短くなる)

暗所視、つまり暗いところだと見えやすい色は青に近づく(波長が短くなる)のがプルキンエ現象です。

明所視では黄緑色に対して最も高い感度を発揮しますが、暗所視では緑色に対して最も高い感度を発揮します。

ピークが黄緑色から緑色に変わるという程度では大きな変化には聞こえにくいですが、日中のカラフルな視界が夜には青暗い視界へと変わることを思うと、プルキンエ現象の大きさを日々体験していることを感じられるかもしれません。

色覚

色を見分けるのは錐状体

人間の視覚は驚異的な能力を持っています。わたしたちは一見単純な色覚の奥に、深い生物学的、物理学的なプロセスがあることを認識することは少ないでしょう。本章では、わたしたちが世界をカラフルに見るための基礎を作っている、錐状体と桿状体に焦点を当てて解説します。

人間の眼は、色や明るい光を検出するための錐状体と、弱い光、つまり暗闇での視覚に反応する桿状体という2種類の光受容細胞によって成り立っています。網膜の中心窩に局在している錐状体は色を識別することができ、全体で約300万から400万個存在します。それに対して桿状体は全体で7000万から8000万個も存在し、ほとんどが網膜の周辺部に分布しています。

色を認識するための錐状体は3種類あり、それぞれが特定の色、すなわち赤、緑、青に反応します。これは一般的にRGBと表現されるもので、各錐状体がRGBのそれぞれに異なる強さで反応することにより、多様な色彩をわたしたちが認識できるのです。

このことは、一見すると現代のテクノロジー、特にカメラやテレビの解像度と比較すると驚くべきことかもしれません。例えば、現代のカメラは1000万画素、4Kテレビは約800万画素、8Kテレビは3200万画素の解像度を持っています。しかし、人間の視覚がこれほど高解像度ではないにも関わらず、わたしたちは世界を非常に滑らかで詳細な色と形で認識することができます。画素数が低い割には目を通じてみることのできている世界は、ずいぶん滑らかに見えているように思います。これは、目から送られてくるカクカクな映像を脳が補完して滑らかにしていることによるようです。脳はなかなか便利な画像処理システムを備えているようです。

しかし、色覚は単に物理的な現象だけではありません。色は文化や生物学、心理学とも深く関連しており、それがどのように視覚的な美の感覚に影響を与えるかは、研究者たちが長年にわたって探求してきたテーマでもあります。たとえば、孔雀のオスの羽根の美しさや熱帯鳥の鮮やかな色彩は、同じ種族のメスからだけでなく人間にも優位性の印象を与えます。

人間が鳥と同じ色彩の特徴を美しいと感じる理由は、完全には解明されていませんが、生物学的に共通する「美」の要素が存在すると考えられています。こうした知識は、建築やデザイン、広告など、色を効果的に使用する必要があるさまざまな分野での実務に直接適用できます。