人側要素の検出

温熱環境の6要素のうち、代謝量と着衣量は、人に関する要素です。

人に関する要素はその人が調節することが可能なものではありますが、空調機器が対応することで、より幅広い人の熱的快適性を高めることができるようになります。

キーワード

代謝量、着衣量、滞在時間、好み

人側要素の検出

設備設計者や空調設備のエンジニアたちが快適な温熱環境の要素を考えるときに思い出しているのは、温熱環境の6要素です。温度、湿度、風速、放射温度、代謝、着衣の6つで表すことのできる温熱環境6要素です。空調設備では、そこにいる人に厚着してもらう(着衣量を増やしてもらう)ことはできませんし、そこにいる人をおとなしくさせる(代謝量=発熱量を下げてもらう)こともできません。そのため、空調設備では、温熱環境の6要素のうち人側の2要素(着衣量、代謝量)を除いた温度、湿度、風速、放射温度の環境側の4つの要素に着目してきました。

しかし、人感センサとして知られる焦電型や、カメラやサーモパイルなどを用いたセンシング技術により着衣量や代謝量の推定方法が考案されてから、着衣量や代謝量の検出結果を用いて温熱環境の6要素を完成させることができるようになってきました。

さらに、それらの検出結果を応用することで、滞在時間や好みまでわかるようになってきています。

代謝量の検出

代謝量は空調負荷でもありますが、空調機で代謝量を検出する大きな目的としては熱的快適性の推定です。代謝量を検出するために使われるセンサとしては、焦電型センサ、カメラ、サーモパイルがあります。

 最も広く使われているのは焦電型センサです。乳白色・半透明のフレネルレンズで覆われた焦電型センサは廊下に設置する足元センサなどでも使われているくらい安価で一般的なものです。焦電型センサは熱量を検出する窓がたくさんあり、その窓から見える景色の中の熱量が変化した場合にその変化を出力します。そのため、窓の中でいくら動いても焦電型センサは反応してくれません。逆に、窓と窓をまたぐ位置で動くと小さな動きでも検出してくれます。焦電型センサの出力は窓から見える範囲の熱量の変化に依存するので、壁や床の温度が高く人の皮膚温との差が小さくなる夏では出力が小さくなり、背景の温度と皮膚温の差が大きくなる冬には出力が大きくなります。また、一週間の中でも、オフィスなど躯体の蓄熱量が多い建物の場合は特に休み明けの始業時に躯体が外気温に近い温度になっていることが予想できるので、その時間帯だけ出力に係数をかけて焦電型センサの出力を調整する必要があるかもしれません。

着衣量の検出

着衣量は熱的快適性に関係するものではありますが、行動性体温調節の一つとして好みに応じて在室者自身が調整するものでもあるので、検出の必要性があるか判断の難しい指標ではあります。

着衣量は直接検出することはできないので、間接的に推定していきます。カラーのカメラを搭載している場合は、顔検出により得られる顔近傍の色と類似した色の面積から皮膚が露出している面積の割合を検出できるかもしれません。また、分解能の高いサーモパイルを搭載している場合も、「顔」と検出するようにあらかじめ持っているサイズと温度の組み合わせのデータから判定した顔の温度に近い温度の割合から皮膚が露出している面積の割合を検出できそうです。その一方で、それらのデバイスを用いずに推定したい場合は、外気温や室温、日射量や時刻、月日は着衣量を推定するヒントになります。外気温や室温、日射量は在室者が着衣量を判断する目安としていることが予想できますし、時刻はサーカディアンリズムから体温の高低を推定し、朝は昼より厚着している可能性があると推定することにつながります。月日は夏服冬服の衣替えの目安となります。

滞在時間の検出

滞在時間は空調負荷というよりは熱的快適性に関係する指標です。最も手っ取り早く滞在時間を検出する方法はカメラと顔検出ソフトを搭載して、個人を特定して滞在時間を算出する方法です。

それ以外の方法として、学習することにより滞在時間を推定することもできます。例えば、曜日と1時間ごと24時間のマトリクスを室内のエリアごとに持っておき、検出するたびにそこに記録していくと、室内のエリアごとに平日の平均的な滞在時間帯や週末の平均的な滞在時間帯を推定することができます

さらに、そのマトリクスを1か月分持って置き、今週の重みを1か月前の重みより大きくしておくことで、日々の習慣だけでなく生活スタイルの季節変化にも対応することが可能になります。

空調の好みの検出

空調負荷でも熱的快適性でもありませんが、把握できていると制御の判断に役立つ指標として空調に対する好みがあります。具体的には省エネ指向や快適性指向といった方向性が検出できれば、設定室温を背後で控えめにする程度を大きくしてその代わりにファンの回転数を上げることで省エネ指向に答えたり、設定室温を背後で控えめにする程度を小さくして熱的快適性の低下を小さくしたりすることで、在室者の好みに合った制御に近づけることが可能となります。

 通常の使い方をする中で得られる情報で、ざっくりとした空調の好みの検出は可能です。例えば、冷房運転を始める気温、湿度が高い場合は省エネ指向がより強く、冷房運転を低めの室温、湿度で始める倍は快適性指向が強いと言い換えることができます。また、設定室温や設定風速も省エネ指向、快適性指向を推定する大きなヒントになりそうです。