空気調和設備
温度を下げて涼しくする。温度を上げて温める。
建築設備の代表例は空気調和設備です。
簡単に言えば、エアコンです。
ちょっと固く言うと空気調和機や空気調和設備ですが、ファンや除湿器なども空気を調和してくれるので空気調和機に含むことが多くややこしいです。
エアコンはair conditionerです。airをconditionするerやつ、です。富士通ゼネラルの家庭用エアコンのブランド名「ノクリア」は、エアコン→air-con→ひっくり返す!?→noc-ria→ノクリア、だそうです。商品の印象にも影響する大切なブランド名に「逆から読む」という荒業を採用した理由は謎です。
さて、ここではファンや除湿器を除く「エアコン」で話を進めていきます。
エアコンは部屋の温度を下げて涼しくしてくれますし、部屋の温度を上げて暖めてくれます。
ところで、具体的には、エアコンは何をしてくれているのでしょう?
エアコンの構成
自宅のエアコンを買い替えて、新しいエアコンが届けられた時のことを考えてみます。
そうは言っても、そんな場面に出会うことは稀ですので、自宅の壁に設置されているエアコンを眺めながら、このエアコンを買い替えた時には…という場面をイメージしてみます。
「古くなったエアコンと交換するために買い替えた新しいエアコンが自宅に届けられました。据え付け業者の方がクーラーボックスより大きな箱を重そうにベランダに運んでいます。どうやらその箱には室外機が入っているようです。次に、長細い箱を運び入れています。室内機が入っているようです。据え付け業者の方は、まだ古くなったエアコンが据え付けられているのに、新しいエアコンの箱を開け始めました。室内機と室外機が段ボールから出された後、古くなったエアコンの取外し作業に取り掛かりました。室外機の横でガチャガチャと何か作業をしています。しばらくすると、取り外した室外機を新しい室外機が入っていた段ボールに無理やり入れて、外のトラックに持っていきました。今度は室内機の作業を開始しました。すぐに室内機は壁から取り外されたのですが、1mくらいありそうな配管が室内機の背面から突き出しています。据え付け業者の方は、その配管を随分と丁寧に曲げて室内機の中に納めて、新しい室内機の入っていた段ボールに押し込んでトラックに持っていきました。ふとベランダを見ると、太くてうねった2mくらいの長い配管がまだ転がっています。室内機と室外機は、この太い配管でつながっていたようです。よく見ると、配管は太さの違う2本の金属の配管と、ホースのような配管1本が束になっています。金属製の配管の先端は油がついているかのようにべたべたしているようです。据え付け業者の方が戻ってきて、古くなったエアコンのリモコンをポケットに突っ込んでから、ベランダの配管も持っていきました。」
この場面には、エアコンの仕組みを考えるうえで最低限必要な要素が出ています。それは、室内機、室外機、配管、リモコンの4つです。
図:エアコンの全体構成の図です。大別すると、この4つでエアコンは構成されています。
エアコンの仕組み
それでは、エアコンが室温を調節してくれるまでのプロセスを見ていきます。
使用者による設定条件の指示
まず、はじめに、使用者が目標とする設定条件をエアコンに指示します。
たとえば、以下のような内容です。
運転モード:冷房
設定室温:26℃
設定風速:強
左右風向:正面
上下風向:最上
当然のことではありますが、指示がなければエアコンは動きません。
エアコンは指示通りに動いているのです。
エアコンは消費電力量の高い機器として夏には悪役になっていますが、そのエアコンに消費電力量が高くなるような内容で運転するよう指示を出しているのは私たち使い手なのです。
ちなみに、冷房・暖房のうち、エアコンの消費電力量が高くなるのは、暖房です。
放っておけば室温も外気温と同じになってしまいますので、そうならないようにするのがエアコンの役割です。
ということは、外気温と設定室温との温度差を作ることがエアコンの役割とも言えます。
作りたい温度差が大きくなるほどエアコンはたくさん働くことになります。
夏の外気温を35℃、冷房の目標を28℃とします。
また、冬の外気温を5℃、暖房の目標を23℃とします。
すると、夏の外気温と冷房の目標温度の差は7℃であるのに対し、冬の外気温と暖房の目標温度の差は18℃もあります。
室内機の風向板の角度や霜取り運転などその他の要因で消費電力量は変わりますが、ざっくり言えば夏より冬の方が作りたい温度差が大きいので消費電力量も大きくなると言えるのです。
夏の方がエアコンの消費電力量に関するニュースをたくさん見聞きするので、冷房時の消費電力量がずいぶん高い印象を持ってしまいがちですね。
熱源を生成する
エアコンは室内機だけで完結していません。
室外機で作った熱を室内機に持っていく必要があるのです。
そのため、リモコンからの指示を受信した室内機は、熱源を室内機に送ってもらえるように室外機に依頼を出します。
実は、室外機に電源を送る電源ケーブルと室内機・室外機間の通信のための通信ケーブルが、室内機と室外機のつながっている配管の隙間に押し込まれています。
熱を室内機に送る
室内機からの依頼を受け、室外機が一生懸命に室内環境を空調するための熱源を作ります。
室外機には圧縮機という、気体をとことん圧縮する鉄の塊のような重たい機械が入っています。
エアコンの消費電力量の9割くらいは圧縮機が消費しています。
気体をぎゅ~っと圧縮すると温度が高くなっていきます。この高温を室内に持って行って室内の空気に触れさせることで、室内の空気を温めるのが暖房です。
冷房の場合、ぎゅ~っと圧縮されて高温になった気体は、まず室外機に送られます。室外機で外気によって温度を下げられ高圧の液体にまでなったは、ここでようやく室内機に送られます。室内機に入る直前に、この低温高圧の冷媒には試練が待っています。とても圧力の低い部分にとても小さな穴から引っ張り出されるのです。高圧低温の冷媒は小さな小さな出口から圧力の低い部分に引っ張り出されるとき、蒸発してしまいます。蒸発するときに周囲から熱を吸収していく(気化熱)ので引っ張り出された先の圧力の低い部分の温度は低くなります。この低温で室内の空気を冷やすのが冷房です。
凝縮して温度を上げるのが暖房、蒸発させて温度を下げるのが冷房なのです。
室外機に作ってもらった熱で室内の空気を冷やす・温める
ようやく室内機に冷たい熱が送られてきました。
室内機では、室外機から送られてきた冷媒をそのまま室内に放出するのではなく、その熱のみ使います。
エアコンは室内の空気を貫通させているだけです。
室内の空気は、エアコンの中を通過する間に冷やされたり、温められたりしているのです。
室外機が作ってくれた熱をどれだけ効率よく室内の空気に伝えられるかという点が、消費電力量の高低を決める要素の一つです。
ちなみに、室内の空気を冷やしたり温めたりして半端な温度になった冷媒は室外機に送り返され、室外機で冷房のためには低温に、暖房のためには高温になって、再び室内機に戻ってきてくれます。
エアコンの分類
設備設計者や空調設計エンジニアとして働くようになると、どんなエアコンを使うとその環境の価値を高められるようになるのかと考えるようになります。
ところで、そもそもどんな種類のエアコンがあるのでしょうか?
ここでは主な分類を紹介します。
室内機と室外機の組み合わせ方による分類
家庭のルームエアコンの多くは、一台の室外機に対して一台の室内機が接続されています。
大学やオフィス、スーパーの屋上には、家庭用ルームエアコンの室外機とは比べ物にならないくらい大きな室外機がたくさん並んでいます。
オフィスなどは、そもそもカバーしなければならないエリアが広いですし、執務空間に加えて廊下や厨房など部屋の用途も様々です。
そのような違いに対応するために、室内機と室外機の組み合わせによりエアコンを分類することができます。
中央方式
一台の室外機に対して、複数の用途の室内機が接続されている構成が中央方式です。
「一つの広い執務空間」のように、広いけれど用途が一つの空間については、複数台の室内機が設置されることになりますが、ここでは一台の室内機で表しています。
中央方式では、火をたくさん使う厨房や、外気がたくさん入ってくるエントランス、そして広いオフィスの執務空間など様々な用途の空間を一つの室外機で賄います。
もちろん、たった一台の巨大な室外機があるわけではなく、大き目な室外機を何台も接続して一つの大きな室外機コミュニティーをつくることで大きな冷暖房能力を生み出しています。
中央方式の場合、室外機の数が少ないのでメンテナンスは楽ですが、厨房でたくさんの鍋でぐつぐつ煮ているときなど局所的にたくさん冷房が必要になってしまうと他の部屋の冷房の効きが悪くなってしまうかもしれません。
個別方式
一つの用途の部屋に対して一台の室外機が対応するのが個別方式です。
集合住宅でベランダにずらっと置かれた室外機も、ビジネスホテルの窓の外にずらっと置かれた室外機も、個別方式の室外機です。
個別方式だと、つながっている室内機から届くわがままに、専属で相手をしてくれる室外機がいるので、室外機の能力が不足で冷暖房が全然効かないというようなことはあまりありません。
ただ、部屋の用途の分だけ室外機があるので、清掃や機器の交換作業には手間がかかります。
熱源の違いによる分類
室内の空気の温度を変える方法にはいくつかのアプローチがあります。
その違いによってもエアコンを分類することが多いです。
空気方式
室外機でさっさと空気を温めたり冷やしたりして、その空気を室内に供給する方式です。
室内には配管の出口だけがあれば良いので、室内はすっきりします。
ただ、室外機と室内までの間には、空調された空気を通す太いダクトが必要で、狭い天井裏にとっては結構邪魔な存在です。
水方式
室外機で作った熱を室内に届ける役割を水に託している方法です。
水方式では、水を蒸発させたり凝縮させたりはしません。
冷房時には低温に暖房時には高温になって水を室内に配管で送り、その配管に室内の空気を触れさせることで室内の空気の温度を調節するという仕組みです。
冷媒方式
冷媒方式は、とても大きな熱の移動が可能な「蒸発」「凝縮」といった気化熱で室内の空気の温度を調節する方法です。
室外機では冷媒を圧縮し、室内機では暖房時にはその冷媒をそのまま使い、冷房時には室外機で冷ました後に気化熱でさらに低温になった冷媒を使います。