光環境の目安

どんな光環境かを表す指標として、光束や照度、輝度などがあります。

それらの指標においてどの程度の値であれば『良い』と判断できるのでしょうか?どの程度の値であれば『不十分』として改善をお願いするのが妥当なのでしょうか?それらが分かると、より便利に指標を活用できそうです。

ここでは、光環境を表す指標として使われているいくつかの指標について、その概要を見ながら目安を紹介します。

照度の目安

照度は、対象とする面に入ってくる光束の量のことです。

光源が同じであっても、光がより散らばる遠い距離であるほど照度は低くなります。また、光源が同じであっても、対象とする面が光の進行方向に対して傾いているほどその面が受け取れる光束の量は少なくなり、照度は低くなります。

晴れたうす曇りの日の屋外の照度は50000lx程度になることもあります。その一方で、上映中の映画館の階段の非常灯で得られる照度は10lxにも満たないこともあります。

さてそんな照度ですが、室内で作業する際の目安が作業内容ごとに提案されています。

明るい方から見ていきます。

まずは点に集中する作業です。手芸や裁縫など針の先一点に集中する必要のある作業をする際に、最も高い照度が必要とされています。その照度がおよそ750~2000lxです。

点の次は線です。次に高い照度が必要とされているのが製図の作図など図面に関する作業をする空間で、その時の目安の照度は750~1500lxです。針先よりは図面の方が集中して見るエリアは広がってはいますが、線に集中するという点でとても高い照度が必要な作業です。

線の次は線群である文字です。読書をする図書館の閲覧室や教室で必要とされている照度はおよそ500~1000lxです。

文字の次は画面です。モニタを使った作業が多いオフィスなどではおよそ300~750lxが目安とされています。一言に「事務」と言ってもその内容は非常に幅広いです。採用活動を担っている人事も、会社のお金の流れをまとめている経理も、次の商品を考えている企画も、顧客企業に契約してもらえるような提案を考える営業も、作業環境としてはモニタを使った作業が多いので「事務」という用語にまとめてしまってあります。

画面の次は小さな立体です。食事をするダイニングやレストランで必要とされる照度は150~500lxです。間接照明でほんのりと空間を明るくして暖色系のペンダントライトで卓上を明るくしたようなレストランでは、全体的な照度は低い方がその空間の価値を高められそうです。

小さな立体の次は大きな立体です。ビルの高層階に水を供給するポンプや空調された空気を建物中に送り出す送風機など、大型の機械やそれらを操作する制御盤の並んだ機械室は、置かれるものも決まっており使う人も限られており慣れた人が慣れた環境に一時的に滞在するだけの部屋です。そのため、機械室で必要とされる照度は他の室より低く、150~300lxです

大きな立体の次は、もう注視する対象のないテレビを見たり雑談したりするような空間となってきます。特に明確な用途の定まっていない全般的な空間に求められている照度はおよそ75~150lxです。滞在する部屋に関する照度の目安はここまでです。

滞在する部屋に関する照度の次は、通過する空間です。非常階段は30~75lx、通路は1~30lx、深夜灯は1~5lx程度です。

ざっくり言うと、以下のようになります。

  • 手もとが大事な作業:500~2000lx

  • 全般的な作業:150~500lx

  • 生活:30~150lx

  • 通路:1~30lx

昼光率の目安

昼光率の目安を考えていく前に、昼光率の定義を見ておきましょう。

昼光率は、対象とする面の照度と、空から届く光がその面に届くのに遮るものの何もない時のその面の照度の比です。遮るものの何もない環境下での空全体から降り注ぐ照度は全天空照度と呼ばれています。全天空照度は、空全体から降り注ぐ光のみを対象としており、直射日光は除きます。同様に、対象とする面での照度においても直射日光は除きます

その昼光率の目安は、精緻に描く製図などを行う空間、細かな作業の空間、文字のインプットである読書、特定の作業があまりない住宅、通路である廊下、慣れた人が使う倉庫という順に低くなります。

人工照明ではなく全天空照度を得ようとするのは、省エネルギーの観点からだけでなく、日射の持つ周波数帯の広さによる高い演色性を活かそうとする考えからです。

均斉度の目安

均斉度(きんせいど)は部屋の中の照度の分布に関する指標です。

オフィスや教室では、照度にムラがなく部屋の中のどこにいても同じような明るさを得られることが求められます。

照度のムラのなさの程度が均斉度です。

均斉度には二つの考え方がありそれぞれ計算方法が違います。そのため均斉度を用いる際には、どちらの考え方・どちらの方法で計算したかを明確にしておくことが必要です。

一つ目の考え方が、その部屋の平均的な照度と最小照度の比です。値が大きいほど明るいことを意味しており、およそ0.6以上とすることが目安とされています。平均点の半分が赤点と言われていますので、赤点よりは幾分ましな環境を求めているようです。また、この考え方では平均値を分母においているため均斉度は1を中心に分布し0以上の値を取ります。部屋の中で明るさにムラがないほど、平均値と最小照度の値の差が小さくなり均斉度は高くなります。

二つ目の考え方が、その部屋の中の最大照度と最小照度の比です。一つ目の考え方が平均照度と比較したのに対し、この二つ目の考え方は最大照度と比較するため、最小照度が同じであってもこの考えに基づく計算方法の方が均斉度の値は小さくなります。また、最大照度と最小照度の比のため、均斉度は0~1の値を取ります。

均斉度は高ければ高いほど良いかというと、そういうわけではありません。

例えば机が整然と並ぶオフィスや教室に人が満席で座っている場合、均斉度は高い方が良いように思います。

その一方で、机が整然と並ぶオフィスであっても、多くの人が帰宅し一部の人たちだけが一か所に集まって作業している場合、均斉度を高めることはエネルギーの無駄遣いと考えることもできます。

また、おしゃれな雰囲気のカフェなどでは、卓上のみ高い照度としてその他の部分は低い照度としてあえてムラを作ることで(均斉度を下げることで)、落ち着く光環境を作っているようにも思えます。