光環境のトラブル

デスクライトの光が教科書に反射して、教科書の文字が読めなくなったという経験は、受験勉強の際などで多くの人が経験したことのある光環境のトラブルではないでしょうか。

光源がまぶしいというような光源が直接原因となる光環境のトラブルは少なく、光がどのように提供されるかによるトラブルの方が多いように思います。

光環境のトラブルは、光源の問題ではなく、光源の使い方の問題が多いように思うのです。

ここでは、代表的な光環境のトラブルであるグレア、フリッカー、硬膜反射を紹介します。

グレア

一つ目の光環境のトラブルは『グレア』です。

グレアは視野内に高輝度と低輝度な部分が存在するときに高輝度な部分をまぶしく感じ低輝度な部分が見えにくくなる現象です。

高輝度な部分に合わせて明順応しようとして低輝度な部分が見えなくなってしまうのです。

以下では、グレアが生じてしまう主な4つの原因についてみていきます。

グレアの原因の一つ目は視野内の輝度比です。

うす曇りの明るい日中のように部屋の中が全体的に明るい時に懐中電灯を向けられると、まぶしいですが周りの様子は見えます。このとき、懐中電灯の光はグレアとはなっていません。

その一方で、真っ暗な寝室で懐中電灯を向けられると、その光がとてもまぶしく感じてその光以外は何も見えなくなってしまいます。このとき、懐中電灯の光はグレアです。

明るい日中と真っ暗な夜で違うのは、周囲の明るさです。目にとっては、視野内の輝度比が違うのです。このような視野内の高い輝度比がグレアの原因の一つです。

グレアの二つ目の原因が光源の輝度です。

光源の輝度そのものがグレアの原因となります。

豆電球を見ても明るいと感じてもまぶしいとは感じないと思います。その一方で、光る部分のサイズが同じくらいのLEDの場合、まぶしいと感じることもあります。これは、光源の輝度の違いです。

グレアの三つ目の原因が視線方向と光源の位置関係です。

視線方向にデスクライトや鏡で反射した日射などの輝度の高い光源があると、当然まぶしいです。

その一方で、それらの光が横顔を照らすように視線から随分ずれた横方向から照らしている場合、それらをまぶしいとは感じにくいです。

光や色に強く反応する錐状体は網膜の焦点付近に集中しています。その付近に強い光が当たると錐状体の感度が下がってしまいグレアとなってしまうのです。

グレアの四つ目の原因が、光源の大きさです。

同じ光束を放射する光源であっても、たくさん並んでいると目に届く光束が増え、まぶしいと感じやすくなるのです。

いずれの原因も、そりゃそうだと思えるような原因です。

そりゃそうなんですが、光環境を考えるときにはこのように要素に分けて考えることが実はとても重要なのです。

まぶしさは集中力を削ぐため、教室にとっては大敵です。そこで、「まぶしさを低減した教室」というコンセプトで学校建築を設計することは学校の目的の達成に有益です。ではどのようなアプローチで設計すればまぶしさを低減することができるのでしょうか?

このときの「どうすれば」を解決する方法が「原因を要素に分ける」というプロセスなのです。

一言にまぶしさと言ってもいろんなまぶしさが思い浮かびます。人によっては太陽を直視するまぶしさをイメージするでしょうし、ある人は日差しが水面で反射した時のまぶしさをイメージするでしょう。他の人は日向ぼっこしながら本を読んだ時に本に反射した光のまぶしさをイメージするかもしれませんし、別の人は暗闇で懐中電灯を照らされた時のまぶしさをイメージするかもしれません。

それぞれイメージするまぶしさが違うままそれらを解決しようとすると、ばらばらで部分的な解決案がいくつか出てきそうです。

太陽を直視したまぶしさをイメージする人は窓にスモークを貼ることを考えるかもしれませんし、水に反射した光をイメージした人はプールの位置を教室より北側に配置しようとするかもしれません。日向ぼっこした時のことを思い浮かべる人は軒先を伸ばすことをイメージするかもしれませんし、懐中電灯のまぶしさをイメージした人は人感センサ照明の設置を提案するかもしれません。

…バラバラです。

バラバラなアイデアでも設計には反映させられますが、一つ心配なのが「それで十分なのか?」という点です。たまたまその時そこにいる人が思いついた対策を取り入れただけで十分な対策と言えるのでしょうか?漏れがたくさんありそうで、他にももっと重要なまぶしさがあったりもっと良い解決方法があるのではないかと感じ、不安が残ります。

そこで重要なのが「原因を要素に分け対策を立てる」というアプローチです。原因を要素に分けて対策を立てることで、不具合が生じる全ての原因に対して対策を立てることができ、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive、ミーシー、もれなくダブりなく)な設計に近づくことができるのです。応急措置ではなく根本対策を取ることができるのです。

フリッカー

フリッカーは、光源のちらつきのことです。

古くなった蛍光灯の点滅はとても目障りですが、あれもフリッカーの一種と言えます。

一般的には、蛍光灯に共有される電圧の周期的な変動などによる光源の点灯と減光の繰り返しによるわずらわしさのことです。

以下ではその原因を考えていきます。

フリッカーの原因には大きく二つあります。

一つ目は光源の点滅です。

光源が点滅しなければちらつきを感じることはもちろんありません。

ただ、そもそも点滅するような発光方法で、そのため点滅が避けられない光源もあります。

そのような光源を使用する場合にフリッカーを防ぐ方法が、点滅が点滅に見えないくらいものすごく早くすることです。

人が認識できない程度の点滅…これが二つ目の原因と対策につながります。

フリッカーの二つ目の原因は人の視覚です。

人の視覚は静止画を数秒かけてのんびり画像処理しているわけではありませんが、滑らかに連続して画像処理をしているわけでもありません。

目に入ってくる情報を非常に短い時間で区切って情報処理して、短時間の間隔で断続的に処理された画像をあたかも連続しているかのように脳内で補正しているのです。

処理される画像と画像の間隔が短ければ、粗い点滅を点滅として感づかれてしまうかもしれません。さらに、人の間隔は変化に対して高い感度を示すため、粗い点滅は変化として画像処理で認識され、光源の変化はとても目障りに感じてしまいます。

人の視覚が非常に高頻度にON/OFFを繰り返すため、フリッカーを感じ目障りに感じてしまうのです。

フリッカーはとても目障りでそこに注意が注がれてしまい、見たい場所を注視するにはとても疲れてしまいます。フリッカーのある光環境下で過ごした後は、情報処理につかれた目と脳を休ませてあげてください。

人の視覚が断続していることは、実は日常的に体験していることなのです。

例えば、自動車に乗っているときに隣を走っている車のタイヤが前転しているかと思ったら徐々に遅くなって反転し始めるかのように見えることは、多くの人が体験していることと思います。飛んでいるヘリコプターの映像でプロペラが濃く映る部分が見えるのも、断続した視覚によるものです。

フリッカーレスの蛍光灯は、点滅が生じないのではなく、点滅を点滅と感じない程度に早く点滅させているからフリッカーとして感じられないのです。

それでも世界が細切れではなく連続しているかのように感じられる脳の補正はなかなか高精度です。

光膜反射

光膜反射は平面の表面に光が反射してその部分が白飛びして判読できなくなってしまう状態です。

黒板や本、モニタなどとても身近に感じる光環境のトラブルです。

光膜反射は、光源と面との角度が浅い場合に生じやすいです。

そのため、教室の窓側や中央では、窓から入る日射による光膜反射は生じません。

光膜反射が生じるのは、窓と反射面・反射面と視線との角度の浅いエリアです。

教室の廊下側前方の席は、窓から入る日射が黒板に反射して板書が見えなくなる光膜反射が生じやすい場所です。

光膜反射は、光が指向性を維持したまま反射することが大きな原因です。

そのため、モニタではツルツルな表面ではなく光が拡散するように非常に細かな凹凸のついてサラサラになっている表面に加工されたものがあります。