放射
離れていても伝わる熱
固体と固体が離れているところで熱が移動する状態を放射と呼びます。
固体以外にも、液体や気体でも放射による熱の移動は生じます。
製鉄所で溶けて液体になった鉄を離れたところにいる人も暑く感じるのは、液体(溶けた鉄)と固体(人体)のあいだの放射による熱の移動です。
キャンプファイヤーで離れたところにいる人も暑く感じるのは、気体(炎)と固体(人体)のあいだの放射による熱の移動です。
大谷資料館のような地下空間に入って涼しく感じるのは、室温の低さに加えて温度の低い天井や壁、床と人との間の放射による熱の移動によるものです。
サーモカメラも放射により熱源から出てきてカメラのレンズに入ってきた熱を画像にしているのです。
図 サーモカメラで放射を撮影しています。(カメラに写っているのは被写体の表面温度です。口の温度は高く、頬の温度は低いです。)
放射により移動する熱の量
放射により移動する熱の量は、以下の式で計算することができます。
熱量は数字ですので熱量の理解に式は欠かせませんが、式だらけにはしたくないので、式は少しだけにしておきます。
各記号の意味は以下の通りです。
Qradiation
α radiation
Ta, Tb
A
φ
: 放射による熱移動量(W)
: 放射熱伝達率(W/㎡℃)
: 対象物aの表面温度と対象物bの表面温度(℃)
: 対象物の面積(㎡)
: 形態係数(ー)
φで表されている形態係数は、投影面積率や立体角投射率などとも呼ばれる係数で、全方位を見渡した時の視野に占める対象物割合のことです。
以下に形態係数の具体例が示されています。内容を読まなくても、図を見ているだけで形態係数のイメージは分かるように思います。
ちなみに、上の式も簡単に書くと以下になります。
放射熱伝達率
放射による熱は、受け取るだけでなく反射することもできます。
例えば、放射による熱は、鏡やガラス、ホワイトボードなどに反射させることがでます。サーモカメラを鏡に向けると自分を映すことができるのです。
放射熱伝達率は、以下の3つの要素によって変化します。
放熱面の放熱しやすさ(放射率と呼びます)
受熱面の吸熱のしやすさ(これも放射率と呼びます)
定数(ステファン・ボルツマン定数という値です)
各面の温度
実は、建築の分野で扱う放射熱伝達率の値の範囲は案外狭く、およそ4.7~5.8W/㎡℃になります。
対象とする人や物のいちによって形態係数が変わってしまうため、座席ごとに詳細に放射熱伝達率を計算するということはせず、慣用値(4.7~5.8W/㎡℃)を使ってしまうことが多いようです。