吸音
コンサートホールのように、ホール内の音を積極的に設計したい場合、音を発する側の視点と音を消す側の視点の両方の視点で考えると、快適な音環境を設計することにつながるかもしれません。
音を発する側の視点から見ると、音源の音を客席に届けるために、音源の音をそのまま届けるのに加え、客席に向けて十分に反射させることを考えます。
音を消す側の視点から見ると、客席に届いた音が壁や天井に反射していつまでも反射を繰り返して残り続けることが無いように積極的に音を消すことも考えます。
ここでは、音を吸収する方法を学ぶことを通じ、音を吸収させない(反射させる)方法も見ていきます。
吸音
吸音機構
壁や天井などをつかって音を吸収する方法には大きく3つあります。
空気層
穴・スリット
多孔質
空気層
剛(コンクリートや硬い壁)と板(硬い壁)、あるいは剛と多孔質材(グラスウールなどふわふわなもの)の間に設けられた隙間です。
低周波数の音を吸収しやすいです。
穴・スリット
音の発生している側の表面で、たくさんの穴やスリットを設けてある板で、中程度の周波数帯の音を吸収しやすいです。
その裏には多孔質材が設けられることが多いです。
多孔質材
ふわふわのスポンジのようなグラスウールやインシュレーションボードと呼ばれる軟質繊維版で、特に高周波の音を吸収しやすいです。
グラスウールは柔らかく、インシュレーションボードも脆いのでそのまま露出して設けられることは少なく、穴・スリットの設けられた板の裏側に設けられることが多いです。
エネルギーの行方
壁や天井で音を吸収する機構として、空気層、穴・スリット、多孔質材の3種類があることは上述の通りです。
では、それぞれの吸音機構はどのように音を吸収しているのでしょうか。
空気層
空気層は、空気層そのもので音を吸収するというより、音を吸収しやすいところに板を置くことで音を吸収していく機構です。
板の内部の素材と素材の摩擦により、音の振動が熱に置き換わっていきます。
そのため、振動が大きくなりやすいところに板を置くことで、効率よく音を吸収することができます。
その、振動が大きくなりやすい剛からの距離は、ターゲットとする音の周波数によります。
空気層による吸音の効果を高めるには、まず取り込める周波数を増やすために板を厚くすることが必要です。これは、板単体を厚くするだけでなく、板+多孔質材の厚さを増すことでも効果的です。
穴・スリット
穴・スリットは、その厚み方向の表面での空気との摩擦で音の圧力を熱に変えることで、吸音します。
穴やスリットが設けられ、その奥に空隙が設けられた構造はヘルムホルツの共鳴器と呼ばれています。
ヘルムホルツの共鳴器では、空隙部がばねの役割をはたし、穴やスリットの厚み方向の表面で振動する空気とこすれあい摩擦で音が熱に置き換わっていきます。
穴やスリットがたくさん空いた壁は、ヘルムホルツの共鳴器がたくさん並んだ状態とも言えます。
穴・スリットの設けられた壁は、室内側ー穴・スリットー空隙のセットがつながっていることにより機能を発揮できるので、表面を別の板や壁紙で覆ってしまうと吸音効果が損なわれてしまいます。
多孔質材
多孔質材は、多孔質材を構成している材料同士のこすれあいにより音を熱に変換していきます。
また、空気を小さな区画に分けて空気の動きを妨げているので、空気の粘性でも運動エネルギーを吸収しています。
多孔質材に音が入ってくることが必要なので、密閉してしまうと期待した吸音効果を期待できないかもしれません。