33年ネット諸兄姉どの(2025.07.19(土))
格差是正なくして財政再建なし
日経2025.07.04オピニオンエコノミスト360の視点 門脇一夫(みずほリサ ―チ &テクノロジ ―ズ エグゼクティブエコノミスト)の意見ー格差是正なくして財政再建なしー
物価高で実質質金は下がつている。しかも、物価高の中心はエネルギ ーや食料である。生活者が実感する物価は計数値以上に高い。物価には消費税も含まれているので、せめてその分だけでも下げてほしいと感じる国民は少くないと思われる。野党が消費税の軽減・廃止を主張するのも不思議ではない。一方、政府は消費税率を引き下げない方針だ。消費税は社会保障の財源であるし、税率変更には実務的に時間がかかる。それでも人々の悲鳴は無視できないので、自民党は参議院選挙の公約に、物価対策としてひとり 2万円の給付金、低所得者と子供には 2万円の加算を盛り込んだ。消費税率引き下げ、給付金支給も財政赤字の拡大につながる政策である。そういう政策を選挙前に競い合う政治情勢に、経済通や有識者の多くは眉をひそめる。いまは人手不足やインフレが問題なのだから、需要を増やす政策ではなく供給サイドの政策が必要だという。政府債務が既に巨大なのだから、財政規律を守らないと金利上昇や円安を招くという。短視眼的なポピユリズムの政治は、将来世代の負担を増やすという。
いずれも、もっともな正論かもしれないが、幅広い国民に響くとは限らない。それは国民が愚かだからでも政治家の説明が下手だからでもない。正論の基礎となっているマクロ経済学そのものに、所得や資産の格差をうまく扱えていない面があるからだ。そのことはトランプ関税を例にとればわかる。自由貿易が望ましいこと、関税をかければ報復合戦になりかねないこと、関税をかけた国自身が物価高と景気減速の直面することなどは、経済学的にはすべて正論である。だからトランプ氏が関税政策を掲げて大統領選を戦った時、国際機関や多くの有識者は批判した。それでもトランプ氏は選挙に勝ち、その政策が実行されつつある。
米国では数十年にわたって格差が拡大し、やり場のない怒りや絶望感を抱える中低所得層が増えたといわれる。それに対し、関税政策よりも優れた解決策が出てこなかったことが、米国および世界にとっての本当の不幸である。
(参考意見)
東大名誉教授田中明彦は2025.5.14(木)「ウクライナ交渉の行方」の中で、(—なぜそのような指導者が登場したのでしょう。「トランプ氏は米 国民によって選ばれました。現在の世界システムの複雑さ、つまり経済的、社会的な相互依存の深化によって、自分たちは損をしているという感覚が国民の間で強くなったからでしょう。複雑さに単純に対応し、昔の栄光を取り戻そう、という訴えが国民に支持されることがあるのでしょう」)
(わたしの意見)
(全く、賛成するわけではないが「貧しくなったなという」実感は痛説に感じられる。)
日本の物価高は「国難」だが、それが国民に与える痛みは一様ではない。生活を切り詰めざるをえない人々もいれば、物価高などほとんど気にせず高額マンションを買う人々もいる。物価問題も本質的には格差問題である。相対的に恵まれた人々に負担を求め、それを財源にそうではない人々の痛みを和らげる、という再分配政策に本気で向きあわなければ、物価高騰に限らず、困難が起きるたびに財政赤字は膨らむ。
「将来世代の負担を増やすな」と一律に言われても、将来のためにいまを我慢できる「ゆとり」は人によって大きく異なる。財政問題を現在世代と将来世代の対立に仕立てる単純化は、現在世代内での再分配という真の課題からの逃避である。「代表的な個人」を前提とするマクロ経済学に頼らず、格差をふまえた政策哲学とその実践論を磨かない限り、財政再建はこれからも不可能だろう。
朝日新聞2025.7.18(金)「恩恵回らず既存政党への不信感」
B N Pパリバ証券チ ーフエコノミストの河野龍一太郎氏の話最大の問題 は、過去四半世紀で時間当たりの生産性が 3割も上がったのに、時間当たりの実質賃金が横ばいで あることだ。多くの大企業には定期昇給があり、それなりに処遇されていると誤解されてきた。しかし、実際は生産性の向上は給料にまったく反映されていない。その分を大企業が内部留保としてため込んだのは、長期雇用を維持するためであったが、金銭的メリッ卜は株主に集中している。
(以下わたしの主張)
(「金銭的メリッ卜は株主に集中している」これこそ、最大の原因で、カネを生産ではなく資産に運用していた方が手軽に高収益をあげられるからだ。まさにトマ・ピケティの主張、エマニュエル・トッドの主張どうりなのだ。
これまで政府は、経済政策によって成長を促し、企業の利益が増え、結果として労働者の賃金が上がることをめざしてきた。しかし、 30年以上続けても、まったく効果は出ていない。労働組合の弱体化もあり、労働者 には恩恵が回っていない。賃上げの主体はあくまで企業だが、政府としてどうそれを促すのか、与野党双方が具体案の議論をもっと深めて欲しい。)
(以下わたしの主張)
(「労働組合の弱体化もあり、労働者 には恩恵が回っていない。」は、わたしのかねてからの主張だ。
わたしは、以前から現在の企業労働組合のエリート化を心配していた。
所得200万円以下の、所得別横断組合を組織することの必要性を訴えてきたが同意する人はいない。
にもかかわらず、所得200万以下の労働者は1200万人にも達しようという。)
また、中間層以下への支援がほとんど語られていないことも問題だ。外国人労働者の受け入れや A I (人工知能 )の導入、デジタル化が進められてきたが、恩恵は高い教育を受けた労働者に集中し、中間層以下はむしろそれらと競合しかねない。イノベーション (革新 )によって損失を被る人への支援が不充分だつたことが、既存政党への不信感と新興政党の台頭につながっている。給付、減税は抜本的な解決にはならない。セーフテ ―イーネットを手厚くする社会保障もあわせた議論が必要だ。
ドル決済の普遍化、通信システムの高速化は、貨幣商業資本主義への転嫁をもたらしている。特に都市への集中化は、複雑化はこれを加速している。
これに対抗する日本の財政・経済構造の変革が必要である。
この点に関しては、各党が一切ふれないのが不思議である。
イチハタ