〈インタビュー〉建築家 安藤忠雄さん
先行きが不透明な時代。常に“挑戦の心”で道を切り開いてきた世界的な建築家は、何を思い、何を発信するのか――。「成人の日」(今月11日)を前に、安藤忠雄さんに、若者たちへのメッセージを込めて語ってもらった。(聞き手=関西支社編集部・石田仁、岡直彦)
“何ともならん”
――建築家として半世紀、社会や人々の暮らしに、鋭い感性で向き合ってこられました。コロナ禍の中で明けた本年を、どのようにご覧になりますか。
昨年末からまた状況が悪化して、厳しい年明けとなりましたね。ワクチン開発などで、いずれは収束するのでしょうが、今年が昨年以上に苦しい一年になることは確か。これはもう“何ともならん”と危惧しています。ただ、一つ言いたいのは、今の日本社会の不安定な状態というのは、決して今に始まったことではないということ。
実際、日本経済は、1990年代のバブル崩壊以降、ずっとさまよい続けています。やはりどこかで「経済大国」と呼ばれていた頃の“平和ボケ”があるのでしょう。その間に、情報技術の躍進と連動して一気にグローバル化する世界に取り残され、また一方で、少子高齢化、頻発する自然災害、環境問題への対応など、“差し迫った課題”は解決できないまま積み重なっています。そんな状況が、コロナ禍で改めて白日の下にさらされた感覚です。
そう考えると、この危機下で必要なのは、近視眼的な成長戦略より、この先の日本、世界はどうあるべきか、そのために今は何をするべきか、という根本に立ち返ったビジョン、新しい価値観をつくることですよね。
残念ながら、現在の日本でそんなリーダーシップは期待できない。コロナ禍でも急変する事態に右往左往、あおられた方向に流されるばかりですから。今はともかく踏ん張って、それぞれに自分の足で前に進んでいくしかない。
間もなく「1・17」。阪神・淡路大震災の被災地に復興のシンボルとして生まれた兵庫県立美術館(上の方に三つ並んだ長方形の建物)と神戸市水際広場は、安藤さんの設計によるもの(撮影=市川かおり)