33年net諸兄姉どの(2022.10.09)
聞くところによれば、母校の入学志望者は急減しているという。東京工大と東京歯科医科大学との統合や、石油元売り最大手ENEOS(エネオス)の会長杉森努(一橋大学商学部1979年(昭和54)卒)の那覇市の高級クラブでの破廉恥行為での会長辞任なども影響してくるのだろう。さて閑話休題。
かって民主党政権時代、「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズが登場、公共事業は確か四割減になった。コンクリートに関係する産業で職を失った人はどこへ行けばいいのか。竹中平蔵は電子産業へ移動すればいいと云った。馬鹿な、そんなことはできるわけがない。結局、不動産業になだれ込んできた。
以下は、NHKスペシャル2022年9月18日放送NHKスペシャル “中流危機”を越えて 「第1回 企業依存を抜け出せるか」2022年9月25日放送 NHKスペシャル “中流危機”を越えて 「第2回 賃金アップの処方せん」の要旨をベースに書いてみました。
以下は2回の「中流の危機」からの要旨である。
かつて一億層中流と呼ばれた日本で、豊かさを体現した所得中間層がいま、危機に立たされている。世帯所得の中央値は、この25年で約130万円減少(図1)。その大きな要因が“企業依存システム”、社員の生涯を企業が丸抱えする雇用慣行の限界だった-終身雇用だという。我が国は、技術革新が進む世界の潮流に遅れ、稼げない企業・下がる所得・消費の減少、という悪循環から脱却できずにいる。厳しさを増す中流の実態に迫り、解決策を模索する。ゲストの駒村 康平(こまむら こうへい、1964年9月17日~日本の経済学者。専攻は社会政策。慶應義塾大学経済学部教授。生活経済学会副会長)は、『中間層消滅』(角川新書, 2015年を書いている。)
賃金を上げるにはどうしたらいいのか?ゲストに諸富 徹(もろとみ とおる、1968年11月26日 - 京都大学経済学部教授)はこの状況は「産業構造の転換」が必要であるという。我が国は「モノづくり」で経済の競争力を維持してきたが、今は、競争力を失ってきた。
世界の賃金もアジアでは韓国にも抜かれ、日本の賃金は上がっていない(図2)、一方でエネルギーを中心としてインフレが起きて、実質賃金は下がっている。最近少し上向いているむきもあるが、諸富は企業もわかってきたのでしょうかという。
①賃金アップのkeywordは、リスキング(Re-skilling)である、大手企業の日立ではデジタル化に備え、従業員のリスキングに力を入れている、リスキングは、単なるスキルアップではない。先を見据えてデジタル技術を使って問題を解決することを云う。例えばイタリアでは、乗り物の乗り継ぎのベストルートを見つけるソフト開発した。最後にすべて料金も決済されるというソフトである。デジタル技術を使ったソリューション技術の利益率は約12%であり、、グループ全体の利益率の2倍を上げている。来月には、従業員が自主的に学んでいけるようにAIが17000種の中から自分に適したもの、強化するものを選んでくれるシステムを4億円かけて導入した。2024にはデジタル人間10万人に増やすと日立の中畑秀信専務は云う。大手だけではと広島で中小企業向けのデジタル県集会を開いたが、11人が出席したが、戸惑いの声も出された。
一方、2013年、ドイツは国を挙げてメルケルの時代に政策が打ち出された。IGメタル、ドイツ最大の製造業労働組合が立ち上がり、ビジネスモデルは完全に変わったという認識のもと、リスキリングの必要性を訴えた。組合は政府と企業に従業員の訓練と支援を要求した。ドイツ政府は、2019年、経営者・労働組合の三者の協議会(国家継続戦略会議)で一体的な協議を始めた。雇用エイジェンシーをつくり、労働移動を積極的に進める、AI診断により、企業からの失職診断を行う。会社の「経理」は100%の失職可能性を示している。ドイツは将来性のある300万業種をあげ、2030年までに200万人の雇用を創設したいとする。Boschは自動車部品メーカーだったが、今は電池メーカーに変わった。
ダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪貴子は正直驚きました。
(32歳で父の設立した自動車部品工場をつぐ、社員32名という。町工場の娘 単行本 – 2014/11/14を出版、2017年NHKで「町工場のオンナ」で放映される)
日本労働組合総連合会長代行の松浦明彦(1984年 帝人入社。帝人労組執行委員、ゼンセン同盟総合化学・繊維部会副書記長、UIゼンセン同盟化学部会副事務局長・事務局長、UIゼンセン同盟書記長を歴任、2012年11月 UAゼンセン書記長)
2016年よりUAゼンセン会長は労働移動は必要、中高年には抵抗があるのではないか、アナログ的な仕事をしてきたと疑問を呈している。
国は「新しい資本主義実行計画はデジタルなどの成長分野を支える人材を強化、成長分野に労働移動円滑化支援など、3年間で4000億円を予定している」
2022.10.11の岸田首相の所信表明では『特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、「5年間で1兆円」のパッケージに拡充します」と述べています。しかし不思議なことに所信の「■5.構造的な賃上げ」で取り上げている。【次に、「構造的な賃上げ」です。なぜ、日本では、長年にわたり、大きな賃上げが実現しないのか。そこには、賃上げが、高いスキルの人材を惹(ひ)きつけ、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げを生むという好循環が、機能していないという、構造的な問題があります。 一たび、このサイクルが動き出せば、人への投資が更に進み、この好循環は加速していきます。そのため、賃上げと、労働移動の円滑化、人への投資という三つの課題の一体的改革を進めます。物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から、果断に、この積年の大問題に挑み、「構造的な賃上げ」の実現を目指します。まず、官民が連携して、現下の物価上昇に見合う賃上げの実現に取り組みます。公的価格においても、制度に応じて、民間給与の伸びを踏まえた改善等を図るとともに、見える化を行いながら、看護、介護、保育をはじめ、現場で働く方々の処遇改善や業務の効率化、負担軽減を進めます。物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から、果断に、この積年の大問題に挑み、「構造的な賃上げ」の実現を目指します。
また、リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年6月までに取りまとめます】
前出の京大の諸富 徹は「産業構造の転換」の手法としてリスキリング(Re-skilling)を見ているようであるが、所信表明では賃上げの手法の一つとして取り上げている。「成長のための投資と改革」は別項目を立てている。(これは、現在の企業組織→終身雇用に触れる危険性を避けたと見える。) 諸富はようやく、日本も認識し始めた。諏訪貴子は、大企業も、副業や兼業を解禁すべきだ。
②非正規雇用の待遇アップ
イトーヨーカドーはパートタイマーの女性を人事労務担当の管理職に任命した。日々、お客の目線を追っている。管理職手当は正規社員と同じなので、年収入は2割以上増えた。本部のトップダウンの販売方法ではなくて顧客のニーズに合わせた店舗全体で販売方法を決められる。
オランダの実例が詳記される(これは、何度も語られてきた、皆さんご存じのことだ)。雇用者の半分がパートタイマー、これは1970年オイル・ショックの時に失業率が9%に上った、そこでワークシェアリングを導入した。オランダの労働組合はfull・timerであったが、これを受け入れた。1996年「労働差別禁止法」が成立、同一労働同一賃金になった。GDPベースで、一人当たり所得は日本の1.4倍である(図3)。しかし、現在雇用でなく働く、Uberの様な低賃金の人たち。新しい問題も起き始めている。
諸富は、IMFの報告にもあるように格差の少ない国ほど経済成長率が高いと云えようという。松浦は、4割が非正規雇用で、非組織である。是非組織化したいといっている。労使の、国も入っての三者の対話・合意が必要であろう。
三者の意見
諏訪貴子;企業の意識改革、ずーっと根付いてきた、よいものを安く売るのではない。賃金も含め値上げの転嫁できる経済構造にすべきだという。
松浦明彦;政府・労使で「未来つくり」の正念場だ。
諸富 徹;成長戦略の「民主化」、従来は通産省.経団連など、上からの目線の成長戦略であった。労働組合も成長戦略に参加すべきである。
これ等の所見をきくと、問題はもっと本質的なところにあるのではないか?
朝鮮戦争特需の資本蓄積で、低賃金と先進諸国の技術導入による大量生産により輸出力を高め、高度成長に向かったが、技術的には何ら進歩していなかったと思う。自動車でも、写真機でも、先進諸国の製作品を分解して模倣した。化学でもイタリアのモンテカチーニ社などにお百度詣りで技術導入を行った。グローバル化もソニーのウォークマンやパナソニックのVHSなど、「地上の星」で終わってしまった。やはり終身雇用制度の企業組織での、労働移動・innovationには限界があるのだろう。
イチハタ