33年net諸兄姉(2021.10.07)
いよいよ総選挙に入る。岸田首相は、新自由主義からの脱却、新自由主義のとったトリクル・ダウン政策ではなく、1.分配なくして成長なし、分配と成長の好循環を目指す、2.中間層の育成、3.公的価格の設定(看護婦、保育士等の賃金)、新しい資本主義を目指すと宣言した。一番の問題点は分配政策である。
これは、9月23日にNHK放送された欲望の資本主義特別編の要約である。資本主義が生き残る為には何が問題で、何が必要かを問う。
『「生き残るための倫理」が問われる時』
1.遠い世界の収束
二極化、K字型格差は、一国の中での貧富、更に国家間、先進国・開発途上国、コロナ禍ではさらに拡大している。添付の記事はバイデン政権で財務長官になったイエレンは、中間層を重視、K字型回復にはさせないという談話である。
2.宴なき祭りの後
100年に一回という不運なパンデミック、コロナ救済が背後に倒産予備軍を作り出し、
・神田慶司(2004年一橋大学経済学部卒業後、大和総研入社。内閣府出向、政策調査部など経て、2019年より経済調査部日本経済調査課長)は、今宿泊サービスは、これまでインバウンドの好景気に支えられ、生産性を殆ど改善してこなかった。感染でさらに苦境にさらされている
・早川英男(1954年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行理事を経て、富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー)は製造業の利益が上がりは、売り上げが増えているだけだは説明できない。2020年の税収も過去最高である、経費減、出張旅費、交際費が激減しているからで。このため人を介する産業は、第三次産業は100%から70%へ、特に宿泊は50%の活動水準である。ここにも製造業・サービス業の二極化が進行している。
・ネマト・シャフィク(前出)は云う;日本はどの国よりも景気刺激策に力を注いできた。日本銀行も尽力し、金融政策の限界に挑みました。財政政策でもありとあらゆる手段を尽くしたのは、その膨大な財政赤字でも読み取れる。日本政府か経済回復のために政策を講じていないとは言い難い。ではこれからどうすればいいのか?
3.パンデミックが加速させるパーパス
・コリン・メイヤー(英オックスフォード大学サイード経営大学院教授)は、企業がその存在の意義、社会性、ガバナンスのっ研究で知られる。著作「株式会社規範のコペルニクス的転回―脱株主ファーストの生存戦略」は、大きな話題になったと云われる。人類の共有の敵、パンデミック、コロナ下で企業が存在する理由を問う、企業の「パーパス、purpose」の重要性が浮き彫りになった。60年前のマネタリスト、ミルトン・フリードマンのカネ儲け一辺倒だけから脱皮する必要がある、「利益+問題点」の抽出が必要と説く。資本主義は倫理なしに機能しないと説く。
4.デジタル頼みの中 進む監視(surveillance)
・ショシャナ・ズホフ(1951年生まれ。ハーバード・ビジネススクールの名誉教授)暮らしのすべてが監視されデータ化され収益化される社会の危険性を鋭く分析著書「監視資本主義」(The Age of Surveillance Capitalism,The Fight for a Human Future at the New Frotier of Power)は、世界に注目されているという。世界の6大企業のうち、5社が監視資本主義の深く浸透したテック企業である。監視資本主義の最大の問題は、行動を監視し、予測、誘導することにある。 人間の意思やアイデンティティには無関心だ。 未来の行動を確実に予測、誘導、商品化し、利益を最大化しようとする。 民主主義とは相容れない。(丁度、第二次大戦中の神国日本に似てくる、思考の停止、抑圧になる。)
5.資本主義だけが残った?
・ミランコ・ミラノビッチ(Branko Milanovic、ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授)は、中国の経済は資本主義と社会主義の中間にある、中国人は「社会主義資本主義」と呼び、それとリベラル能力資本主義にはリベラル資本主義と能力資本主義があり、リベラルは平等、相続税、公教育などがうけられ、能力資本主義は格差が大きくなる。邦訳書『資本主義だけ残った』(2021)資本主義という点では同じ、かって、鄧小平が「白猫黒猫論」と言った。違いは政治的な組織の違いだけだ。「社会主義資本主義」は「政治的資本主義」―マックウエーバーが云うー「政治的資本主義」である。中国では、政治的資本主義は国家が経済成長を促進し、民間企業に92%が雇用されているが、しかし法の支配は無視している、最近アリババの創立者ジャック・マーの資産が没収されている。(イチハタ注一説にはあるフォーラムで『時代錯誤な政府規制が中国のイノベーションを窒息死させる。中国の金融当局は“老人クラブ”』と痛烈に批判したことが、習近平国家主席を刺激したという説もある)
一方米国のテクノロジー産業、デジタル産業のロビイストは、GAFAだけの合計で年50億円をかけている。これはエリートによる金権政治である。バイデンは反トラスト法でと対抗しようとしている。中国も米国も経済のデカップリング(他国からの切り離し)を指向している。これは反グローバリズムだ。消費者にとってプラスにならない。
・コリン・メイヤー(前出)は、競争とは倫理的にふるまう市場参加者にかかっているものと理解すべきでしょう、聖人の競争は天国を生み、泥棒の巣窟での競争で生き残るのは、より優れた泥棒だけだという。
6.起業家かファシストか?
ランデイ・ザッカーバーグ(ザッカーバーグの姉)はイノベーション競争では、イノベーションをやめることはできないーイノベーションを起こした企業がイノベーションに成功すると、イノベーションを止めてしまう、その結果その企業は衰退し、後続のイノベーターにとって代わられてしまう。
・トーマス・セドラチェック(善と悪の経済学)は、どんな競争でも独占を止められない。競争で溺れて死ぬもの、負け犬を救う、何度でも何度でも挑戦できる体制が必要だ。今、ゲームのルールはひそかに書き換えられている。かって「独占」と云えば価格であった。いまはデジタル時代、奪われるのは人間の尊厳だ。
・ショシャナ・ズホフ(前出)は、「知(knowledgemet)の革命だ」「知のクーデター」という。抗議されないようにひそかに奪う、この経済構造自体違法な基盤の上に築かれている。
・ブランコミラノヴィッチ ( セルビア系アメリカ人 の経済学者。 彼は 所得分配 と 不平等 に関する研究で最もよく知られている。 2014年1月以来、ニューヨーク市立大学 の 大学院センター の客員大統領教授)は、資本と労働の両方から高収入を得るエリート富裕層は、エリートがエリートを生みだし、自らの優位のすべてを子供に与え、政治過程を支配してしまう。
・コリン・メイヤー(前出)は、競争とは倫理的にふるまう市場参加者にかかっているものと理解すべきでしょう、聖人の競争は天国を生み、泥棒の巣窟での競争で生き残るのは、より優れた泥棒だけだという。政治を動かしてしまう現代の勝者たち、Appleのスチーブ・ジョブス、Googleのラリー・ペイジー、セルゲイ・ブリン(Google創設者で検索アルゴリズム発明者) Microsoftのサチアナ・ネデラ(マイクロソフトの新CEO、インド出身)、Facebookのマーク・ザッカーバーグは、目的意識が高く消費者へのアクセスを重視している。しかし環境問題を、や競争問題を引き起こした混乱から逃げている。後始末にかかるコストをきちんと計上すべきである。社会における不利な部分を排除した結果、あらゆる分野で変化が起きており、物理的な資産を超えるものが、ますます重視されてくるようになってきている。人々は知能プログラムや、アルゴリズムを通じて競争することになる。それ故、企業を評価する従来の方法は今後通用しなくなるでしょう。
7.監督官はどこに。
経済学の巨人、シュンペーターは、イノベーションという言葉の生みの親だ、指名された銀行家に新結合を可能とし、社会の名において企業家(nhkのtvでは企業家と言っているが銀行家の誤りか)にその権限を与える。また、銀行家は交換経済の監督官なのである。シュンペーターは銀行家を監督官として呼ぶのみならず、商品の生産者でもありその役割を重視している「(経済発展の論理)ヤーゼフ・アロイズ・シュンペーター」
・トーマス・セドラチェック(前出)私が顧問を務める銀行グループでは、環境に配慮しない起業に融資をしないことを決めました。取引先は減りました。企業は政府からの圧力、さらには、客からの圧力でも動いている。これは、倫理的なスタンスに基づくものなのか、それとも倫理の商品化なのだろうか?
・早川英男(前出)はいう、純粋な倫理的判断ではあり得ないと指摘する。一番恐れているのは、30年後、50年後 現在の資産価値が維持できるのであろうか? 例えば年金資産を運用する巨大金融機関GPIFは、30年後、50年後に資産価値を維持できなければ年金を支払えなくなるという観点で見つめているのである。したがって外部性はない(市場の競争の結果ではない)。
8.信用が失われた社会
・早川英男(前出)はいう、日本では調査会社が一軒一軒歩いて、その存否を確かめ信用調査をしている。欧米にはないという。シュンペーターはイノベーションには銀行の信用創造が必要であるという。ところで信用というのは、銀行が預金者に返済されることが確実だから信用される。しかし、日本の場合、貯蓄が足りない時代が続き、銀行が企業を評価して資金を配分して、融資後もチェックをしてきた。スクリーニングとモニタリングだ。銀行の信用も高かった。それは半沢直樹の世界だ。ドイツや日本ではこの二つを実施、しかし欧米にはスクリーニングだけだ。貯蓄が大きくなり、資金の必要がなくなるとともに信用力は低下してくる。特にバブル崩壊後、1996年以後、金日本版金融ビッグバンが叫ばれ、金融機関の規制と保護(護送船団方式)がfree,fair,global がキャッチフレーズになり、結果、もたらされた混乱、廃業、合併、統合が行われ、競争によって信用が揺らぐことになった。本来は、バブルによる不良債権処理が終わってから自由化に進むべきであった。順序を間違えた。世界マネーの防波堤だった金融組織は壊れてしまった。マイナスの影響を大きくしてしまった。
9.最終章 善と悪のParadox
資本主義が抱える抜本的な不均衡、それは血液(通貨)が一極に集中することである。
・早川英男(前出)はいう、資本主義を飼いならすことが大事だ。行き過ぎても問題だ、緩めても問題だ。
・ミランコ・ミラノビッチ(前出)は、「民衆資本主義(People’s Capitalism)」への進化を期待する。それは資本所得と労働所得を同じ割合で得られるようにする。通常の資本主義では上層階級が資産所得、中下階級が労働所得に分かれている。中間層に対する税制改革や株の分配などが考えられる。バイデン大統領は反独占、労働組合の役割を加える。現在のstake holderからstock holderへと云うことである。
今日、「禁欲の精神」は「この折から抜け出してしまった。勝利を遂げた資本主義は、機械の礎の上に立って以来、この支柱を必要としていない(プロテスタンテイズムの倫理と資本)。将来この鉄の檻の中に住むものは誰か?全く新しい預言者たちが現れるのか?或いは、かっての思想や理想の力強い復活が起きるのか?そのどちらでものなく、仰々しく美化された、機械的化石と化すことになるのか?まだ誰にも分からない(マックスウエーバー)
イチハタ