読売3/26「視点ウクライナ危機」ロビン・ニブレット氏
P河井春穂:2022.3.26 Home

世界の3極化 より鮮明に…英王立国際問題研究所所長 ロビン・ニブレット氏[視点 ウクライナ危機]

2022/03/26 05:00

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 ロシアのプーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に不満を抱き、22年前に実権を握って以来、かつてのソ連の勢力圏を取り戻そうとしてきた。そしてついにウクライナ侵攻に踏み切った。

 これについて、米国や欧州諸国による冷戦後の対ロシア政策が誤っていたという見方があるが、それは違う。たしかにNATOは拡大したが、これは旧東側の国々が自発的に加盟を望んだ結果であり、西側が積極的に拡大を進めたわけではない。加盟を望む国々を受け入れたこと自体は間違っていなかった。

 欧米側にミスがあったとすれば、それは2008年のNATO首脳会議でウクライナとジョージアに将来の加盟を約束したことだ。当時の米ブッシュ(子)政権の意向に基づく決定だったが、欧州では両国の安全保障に責任を持つことに慎重論が強く、実態として加盟受け入れの合意はできていなかった。

 実際に両国を受け入れる用意がなかったのだから、将来の加盟を約束するべきではなかった。ロシアに介入の口実を与えてしまった。ロシアはその年のうちにジョージアに侵攻し、ウクライナに対しても関与を強めた。その延長線上に今回の軍事侵攻がある。

 これが国際秩序にもたらす影響は大きい。世界はこの先、ますます3極化が進むことになるだろう。既にある三つのグループの線引きが一層鮮明になるということだ。

 第一のグループは米英仏独と日本など先進7か国(G7)を中心とする自由民主主義の国々だ。オーストラリアやインドを加えて「G7プラス」と呼んでもいい。これらの国々はロシアの侵攻後、明らかに結束が強まっている。特に興味深いのは日本、豪州、韓国が、対ロシア制裁に関して明確な形で欧米と歩調を合わせたことだ。当然ながら、中国に対処する必要が生じた場合に欧米に味方になってほしいという思惑がある。

第二のグループは中国とロシアを中心に、シリア、イラン、北朝鮮、ベネズエラなどを加えた独裁政治体制の国々だ。彼らの共通項は、指導者が不安に苛まれていることだ。国民が蜂起して政権を転覆するのではないかと常に怯えており、その点で利害が一致する。民主主義陣営に対抗し、彼らも互いに結びつきを強めるだろう。

Robin Niblett 1961年生まれ。英国を代表する国際政治学者の一人。米欧関係や英国の外交政策に詳しい。米戦略国際問題研究所(CSIS)副所長などを経て2007年から現職。

P河井春穂さんからFaxとメールを頂いたので、読売オンライン(有料記事)の不足分をFaxから補充転載しました。3/26森




G7は、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7か国