33年ネット諸兄姉どの(2025.07.09)
先週、この町に一社しかないパナソニック(昔風ならナショナル)専門店に扇風機を買いに行った。あれ、これは1万5千円で、東芝製ではないかと云ったら、パナソニック製は3万3千円もするのです。扇風機は東芝製に変えたのですという。
パナソニック専門店が東芝製を売る時代になったか。時代は変わったな。朝日新聞7月5日の朝日の記事で
「いま聞く 総合電機メーカーは消えるのか」
中村吉明(なかむら・よしあき) 1962年生まれ。専門は産業政策綸。早大大学院 理工学研究科修了微、通商産業省(現経済京衆省)に入る。2017年から現職。「近著日本の電機産業の創造的破壊」。専修大学救授が語る。
「総合電機メ ―カー」という言葉を聞かなくなった。家電から電子部品、産業震器まで幅広く手がけるメ ―カーは減り、大半が強みのある分野に特化している。今で家電を中心に総花的に事業展開するパナソニックホールディングスは 5月、人員を削減して企業構造を見直すと発表した。総合電機の時代は完全に幕を閉じるのか。業界の変遷に詳しい専修大学の中村吉明教授に聞いた。
N E C、シャ—プ、ソニ—、東芝、パナソニック、日立製作所、富士通、三菱電機 ・・・。昭和から平成にかけて、国内では 10社近い総合電機メーカーが競い合っていた。
業績を下支えしていたのは、電電公社 (現 N T T )や電力大手による定期的な設備投資の発注だった。もたれあいの構図は 2 0 0 0年代に入り、通信や電力の自由化の進展で崩れた。さらに中国をはじめ ,新興国の製造業が台頭。とどめとなったのが 08年のリーマン・ショツクだ。経営不振が極まり、業態の変更を余儀なくされた。ソニーはエンターティンメン卜分野にかじを切り、日立は社会システムを手がける I T企業に変貌を遂げ、 N E Cや富士通は I Tコンサルタント業に軸足を置くようになった。
パナソニックは、家電事業の割合が比需的高く、業態の変化の度合いは他社より緩やかだ。足元の業績は悪くないが、それでも、 5月に 1万人の人員削減と不採算事業の整理を柱とする「構造改革」を打ち出し」した。
中村さんは「主力の家電業で競争力を失いつつある。高品質、を売り物にして差別化を図ろうとしてきたが、中国勢の隆盛で、それでは早晩通用しなくなるとの危機感があるのだろう」とみる。
日本の電機産業の競争力低下を示す象徴的なデータは、貿易黒字の縮小だ。財務省の貿易統計によると、電気機器の貿易収支は 1 9 9 1年の 1兆円の黒字から、 2 0 2 3年には 1兆円の赤字に転落した。
電機は自動車と並んで戦後の日本経済をリードする基幹産業だった。なぜ、衰退したのか。中村さんは参入障壁の低さを指摘する。「自動車と比べて部品点数少ない上、 (共通の部品を使う )モジュール化が進んで組み立てやすくなった。自動車ほどの安全基準も求められない」
「ソニーはエンタメ特化/パナソニックの改革 鍵は「フレネミー」
過当競争に陥った総合電機の群れからいち早く離れたのは、ソニーだ。エンタメ分野を強化すると決め、 M & A (合併・買収 )や人材獲得を続ける。ゲ ―ム、音楽、映画のエンタメ 3事業で売上高の 6割を占めるまでになった。一方、祖業のエレクトロ二ク事業ではコスト削減を徹底し、 25年 3月期までの 7年間で人員を 3割減らした。株式市場はこうした施策を評価 ,時価総額は 23兆円と、国内 1位のトヨタ自動車 ( 40兆円 )に次ぐ位置にまで回復した。
パナソニックはかって、ソ二—やシャープなどが革新的な製品を生み出すと、その技術を取り込んだ製品を大量生産して成長。「二番手商法」(マネシタデンキと迄)とも揶揄された。しかし、業態の 切り替えは、自社の強みを見定めて磨いていく作業であり、簡単にはまねできない。 21年には約8600億円を投じ、米ソフトウェア大手を買収したものの、見込んだほどの成果は出ていない。では、どうすればいいのか。中村さんは、企業変革のキ—ワ—ドとしてよく使われる「選択と集中」には否定的だ , 「事業領域を絞りすぎると、リスク分配できず、急な外部環境の変化に対応できなくなる」
各事業が「タコつぼ」にならないように気を配りながら一定の多角化を進めたうえでライバル関係の企業とも部分的にパ—トナーになる「フレネミー戰略」を提案する。フレンド (友 )とエネミー (敵 )をあわせた造語だ。米アッブルと韓国サムスン電子も、スマートフォンで競争するが、 半導体や有機 E Lパネルでは取引関係にある。「総合電機は自前主義にこだわり、衰退した。不確実性の高まる今、企業トップに不可欠なのは、組織の内外の経営資源を使いこなす力だ」と話す。
パナソニックは近年、返品された家電を修理して 再生品」として売るビジネスを始めた。環境意識の高さをアピールするが、家電事業の根本的な立て直しにはつながっていない=同社宇都宮工場(画像略)
企業のアイデンティティーはギリシャ神話の「テセウスの船|は哲学的な物語だ。
朽ちた部品を交換し続け、すべて新品に置き換わった船は、元の船と同じと使えるのかを問う。
社名は変えずに事業を大きく入れ替えた「総合電機メーカー」にも、共通するテーマだろう。
ウオークマンで一世を風靡した昔のソニーとエンタメで成長する今のソニーは、同じ会社と言えるのか。電機業界の「構造改革」は企樂のアイデンティティーとは何かも問いかけている。(土屋 亮)
イチハタ