老親がLINE連投、「娘大好き度」は高まるばかり
…子どもへの依存に専門家が指摘する「努力」とは

親と子のディスタンス

ウィズコロナ2022/02/25 08:00 筆者:福井しほ,羽根田真智

コロナ禍に、親から子への連絡が増えすぎて困るケースも(gettyimages)

 人と人との“距離”を意識するようになって、はや丸2年。新型コロナの影響で、「会わない」がすっかり定着してしまった。それは他人だけではなく、家族もしかり。AERA 2022年2月28日号「親子の距離感」特集から。

【漫画】老親と子ども…コロナ禍の悩ましいカンケイ

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「カンパーイ!」

 4分割されたパソコンの画面から、言葉が飛び出す。栃木県の森正之さん(85)ら家族のオンライン飲み会の一コマだ。20年7月から、日曜夕方の2時間、4世帯で集まってオンラインで「飲も飲も」と称した飲み会を開いている。

 森さんは言う。

「孫はあまり参加しませんが、長女と次女、そして次女の友人の4家族で楽しんでいます。コロナが終息しても、続けたいというのが親の気持ちです」

 長続きの秘訣は、みんなが食べることと飲むこと、そしてしゃべることが好きだから、と話し、こう続ける。

「コロナの前は、一緒に中国や台湾、北海道なんかを旅行した仲です。終息後は香港や韓国にも行きたいです」

 オンラインで再認識した親子の関係を話す森さんから、熱さがみなぎっている。

1年半以上続く森正之さんら家族のオンライン飲み会「飲も飲も」。「私は年寄りなので、途中で脇で少し仮眠することもあります」と森さん。ゆるく参加できるのも長続きの秘訣か(写真/森さん提供)

 かつてはメールや電話が主流だったが、今や文字や声色だけにとどまらない。離れていても顔を見て話せる画期的な時代になった。直接触れ合うことはできずとも、相手の温度感をつぶさに感じ取れる。

「顔が見える安心感」は、一見、当たり前のように思えるが、これらがスタンダードになったコロナ禍の進歩は大きい。テクノロジーが独り歩きすることなく、高齢の親世代が使える、または使ってみたいと思わせるものへと変わったからだ。

 しかし、だ。

 老親世代にとって、デジタルツールを巧みに使いこなすのは難しい。自分が頑張りすぎるだけでなく、必要以上に子どもに求めすぎることに発展しかねないからだ。

 それまでは適度な距離感だったのが、ツールを覚えたことで頻繁にLINEでメッセージが届くようになり、スタンプと絵文字ラッシュが連日続く。子ども側ももちろん相手になってあげたいが、さすがにこれだけ多いとうんざり──そんなこともある。

■「娘大好き度」高まる

 その結果、親の過干渉が進み、やや面倒な状態にまでなってしまったと話すのは、都内に住む50代の女性。

「ビデオ通話で私の顔が見えなくなると、すぐ大騒ぎするんです」

 女性は3人きょうだいの末っ子で、唯一の女の子。両親から、一番かわいがられてきたと自負している。コロナ前は年数回帰省していたが、この2年は一度も帰っていない。そこで、Zoomを使ったオンライン帰省をするようになった。

イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)

 きょうだい2人と両親、そして女性がそれぞれつなぎ、おしゃべりする。だが、女性の画面が小さくなるや否や、両親は、

「いなくなった!」

 と慌てだし、その度に会話は中断する。女性は言う。

「話している人の画面が大きく表示される『発言者ビュー』を設定しているようです。ギャラリービューを提案しましたが、私の顔がよく見えなくなるから嫌だと断られました」

 両親の「娘大好き度」は日に日に高まり、その様子に戸惑いを隠せないでいる。「お父さん、お母さん、どうしちゃったの……」と両親の老いを感じるようになった。親の心子知らずならぬ、子の心親知らずだ。

 苦手だった父親をコロナ禍で意図せず好きになったという人もいる。

イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)

■独特の会話口調がツボ

 神奈川県に住む桃子さん(44)は無口で頑固な父親(75)とは気が合わないと思っていたが、凝り固まった父親像が一変した。

「家族のグループLINEでは母親としか会話していませんでしたが、帰省もできないし父親宛てのメッセージも送るようになりました。父親からもぽつぽつLINEがくるようになったのですが、それがなんだかかわいくて」

 変換が面倒なのか、最初の頃はすべてひらがな。少しずつ文章量が増え、漢字も交じるようになったが、独特の会話口調がツボに入った。桃子さんが羊羹を贈ったときには、

<モー、オトーの大好物ありがとう。毎日甘い>

 のメッセージが届いた。

「実家では桃と呼ばれていましたが、LINEでは『モー』です。父を可愛いなと思うようになって、だんだん話したくもなってきて。最近は電話をしたときに父親が出ても、以前のように『お母さんいる?』とすぐ言わずに、父とも会話するようになりました」

AERA 2月28日号から

 親の変化に戸惑う子どもがいる一方で、子の過干渉に気疲れする親もいる。

「子どもの優しさをむげにしたくないという親心から、断れないという声もよく聞きます」

 そう説明するのは、オヤノコトネット代表の大澤尚宏さんだ。コロナ前からそう感じていたが、この2年で親を心配する子からの相談がさらに増えたと感じている。

■急いで距離を縮めない

「会えない間に親の身体機能や認知機能が悪い方向に振れるのではという不安が増大しているようです。頻繁に会えなくなったことはもちろん、いつまで続くかわからないコロナ禍も、その背景にあるのではないでしょうか」(大澤さん)

 老人ホームへの入居から、同居の相談まで。親の性格や状況を仔細に記したメールが届くこともある。

 大澤さんが続ける。

「ですが、家を離れて数十年も経てば、親も子も別人格になっています。些細なことでハリネズミ状態になって、ぶつかりやすいのも親子だからです」

 うまく付き合うには、急いで距離を縮めすぎないこと。互いに生活があり、それぞれの時間が流れてきたことを理解することが肝要だ。

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コロナ禍2年忘れ

 

イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)

 千葉県で暮らしている女性(42)も、親への愛が高まった。コロナで実家に帰りづらくなってから、神奈川県に住む母親(84)と毎日電話するようになった。天気の話から始まり、その日の予定や食べたものなど、他愛もないことを10分ほど話すという。

「数年前に脳梗塞で倒れて、リハビリ中にコロナが始まったんです。前から忘れっぽくなっていましたが、この2年で少し進んでしまって」

 外出制限で近所付き合いもめっぽう減った。放っておくと母親は一日中テレビを観ている。それならば外から刺激しなければと、女性は朝と夜の2回、電話をかけている。

「母が起きているときに電話しないといけないので、忙しいときは大変だと思うこともあります。でも、電話を切るときに合言葉のように『声聞けてうれしかったわ』『夢で会いましょ』と毎回言っているので、喜んでくれているんだなって」

 意識的に子が親を思う関係性へと変わった。

■面倒でも罪悪感は不要

 わずらわしくもあれば、愛くるしくもなったコロナ禍の親子の形はさまざまだ。アエラでは、インターネットを通してコロナ禍の親子関係についてのアンケートを実施。すると、

「親は老人ホームに入所していて、感染防止のため面会制限を設けてくれた。それに乗じて面会に行かずにすむので楽ができてうれしいが、親は不満げ」(49歳・女性)
「LINEの頻度も減り、会えないので意思疎通ができなくなった」(59歳・男性)
「緊急事態宣言下に理由もなく帰省を強いられた」(54歳・女性)

 など、物理的な距離に比例して、心の距離も遠ざかったというケースも寄せられた。

「もし、親からの連絡が面倒だと感じたとしても、罪悪感を持たなくていいんです」

 そう指摘するのは、『家族難民』などの著書もある中央大学文学部の山田昌弘教授だ。もともとの関係性が顕在化しただけと指摘し、こう続ける。

「家族と向き合わざるを得なくなった結果、価値観や性格の不一致がはっきりしてしまっただけです。そもそも親子は対等な関係ではないし、親を悲しませたくないと思って子どもが我慢していることも多い」

 親をいかに自立させ、子に依存しないよう気づかせるかも、子どもの課題になってくるという。山田教授が続ける。

「日本の中高年の親は子どものために生きてきた人が多い。子どもが生きがいだった。ただ、親が思う幸せが子どもの幸せとは限らない。共依存になると、動きが取れなくなる。親が子どもに依存している状況は良くないので、子どもは親に気づかせる努力も必要です」

 親子関係に歪みを感じたとき、何ができるのか。大切なのは、「家族だから」という神話にとらわれすぎないことだ。

「親の幸せが子どもの幸せ」とは言ったものだが、それはあくまでたとえ話。「親対子」の関係性にはまりこむと、そこで不和が生じたときに抜け出せなくなることもある。

 親も子どもも「応えられる期待」と「応えられない期待」を割り切ることも必要だ。(編集部・福井しほ、ライター・羽根田真智)

※AERA 2022年2月28日号より抜粋


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