メディア批評誌「創」の編集長が1980年代から現在に至る皇室タブーを描いた貴重な記録だ。タブーに屈しない映画監督も登場するが、雑誌記事を中心に皇室タブーが徐々に強化されていく実態を活写する。
目立つのは右翼の実力行使を伴う抗議活動である。謝罪表明や回収を求め、時には直接暴力を振るう。広告スポンサーにも周到に圧力をかける。著者の体験も描写されるが、街宣車の攻撃で、家主から立ち退きを求められる様はリアルである。警察の在り方も問われている。その際、結果として「週刊新潮」が右翼の暴力を煽ってきたことを著者は見逃さない。
天皇制の問題は、社会の言論の自由を照らし出し、日本の戦争責任にもつながる。しかし右翼の攻勢による実害と、今の皇室に対する国民の支持を考えると、マスメディアが及び腰になる理由もうかがえる。逆説的であるが、右翼の抗議活動でわかるのは、声を上げる効果である。主権者がむしろエールを送ればマスメディアの支えとなる。
天皇制批判のタブー化に影響を与えた、中央公論社を襲う「風流夢譚」事件(嶋中事件)が起きたのは1961年である。当事者の編集者である京谷秀夫氏の事件の回想録に、著者は影響を受けている。京谷氏の子息が2011年に「風流夢譚」を電子書籍化し、そのタブーに風穴をあけた。
折しもあいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」では、権力をもつ政治家が、それは表現の自由に入らない、という論法で展示を中止に追いやる空気を作り上げ、作品がもつ意味や批評ハローワーク共有されなかった。
トランプ米大統領が「フェイクニュースだ」とレッテルを貼るように、世界では単純化の暴力が猛威を振るう。
私たちは異論への拒否反応で狭い世界に生きていないか。単純化の思考停止を食い止めるのは、本書で描かれた現代史に学び、多様な世界に触れることである。その問題に向き合うジャーナリズム自体も問われているのだ。
(根津朝彦・立命館大准教授)
(創出版・1620円)
幻の小説「風流夢譚」を電子書籍化した理由 2011年12月14日 京谷六二
皇室タブー amazon 創出版・1620円
【Amazon】内容紹介
「皇室タブー」を正面から取り上げた衝撃の書!主な内容は、「菊のタブー」とは何か「/風流夢譚」封印と復刻「/パルチザン伝説」出版中止事件/ 『新雑誌X』襲撃事件/講談社『ペントハウス』回収事件/天皇コラージュ事件/天皇Xデー記事で『創』へ街宣『/週刊実話』回収と『SPA! 』差し替え/美智子皇后バッシング騒動/美智子皇后「失声」から銃撃事件へ『/経営塾』への猛抗議と社長退陣『/噂の眞相』流血事件/封印された「皇室寸劇」/渡辺文樹監督と「天皇伝説」/『プリンセス・マサコ』出版中止事件『/WiLL』侵入事件と右派の対立/封印されたピンク映画/秋篠宮家長女結婚騒動と象徴天皇制
出版社からのコメント 改元と天皇の代替わりがお祭り騒ぎだけで終わろうとしている状況下で、象徴天皇制について改めて考える。1961年、右翼少年による刺殺事件が出版界を恐怖に陥れ、深沢七郎さんの小説「風流夢譚」は封印された。その後50年を経て、封印は解かれつつあるのだが、果たして出版界は皇室タブーの呪縛から逃れられているのだろうか。皇室を扱った表現がその後も回収や差し替えにあっている現実をたどることで何が見えてくるのか。
内容(「BOOK」データベースより)昭和~平成~令和と皇室タブーの変容を探る!象徴天皇制とは何なのか! 1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立。現在、代表も兼務。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。専門はメディア批評(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
著者について
1951年生まれ。月刊『創』編集長。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。著書『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、連続幼女殺害事件・宮崎勤死刑囚や和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。2018年には『開けられたパンドラの箱 やまゆり園障害者殺傷事件』を編集出版。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
篠田/博之