フリーライター 横川良明さん
自分が心ときめく人や物を応援する「推し活」が注目されています。推し活の魅力や、楽しむポイントについて、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』の著者・横川良明さんに聞きました。
明るく生きるための特効薬
僕は俳優オタクなので、推しが出ているドラマを見てSNSで感想をつぶやいたり、現場に行ったり、写真集やグッズを購入したり、一言で言うと、推しの芸能活動がプラスになることをしています。
僕が推しと出あったのは、30代前半の人生の岐路に悩んでいた頃。仕事で見に行った舞台で、ある俳優さんがあまりにも輝いて見えたんです。後光が差していました。実際には照明だったと思うんですけど(笑い)。そこから若手俳優沼に落ちました。
推し活を始めてから、僕の人生が広がったというか、解像度が上がりました。推し活をして良かったと思うこともたくさんあります(別掲)。中には、僕と違ってオープンにせず、内向的に楽しみたい人もいると思います。人それぞれの楽しみ方があっていいと思います。
もし「推し活をしている人を理解できない」と思っている方がいたら、無理に理解する必要はありません。ただ、決してばかにしたりせず、人それぞれの方法で気持ちを保っているからこそ社会は回っている、ということを知ってほしいと思います。
最近、推しは「自分を映し出す鏡」のように感じています。僕は基本的に、真面目で一生懸命頑張っている人や、優しくてホワッと和ませてくれる人を推しがちですが、本当は「そういう人になりたい」と憧れているのだと思います。
多様で迷いやすい世の中にあって、悩んだときに立ち返ったり、自分を支えてくれたりする存在を求めている人が多いから、推し活が注目されているように感じます。推しは、人生を明るく生きていくための特効薬。これからも、現実をより輝かせてくれる推し活を楽しみたいと思います。
用語紹介
【推し】 自分が応援している対象のこと。人だけでなく物の場合もある。
【単推し】 推しが一人のこと。
【複数推し】 推しが複数いること。
【箱推し】 特定の一人ではなく、グループ全体を応援すること。
【自担】 一番好きな人。推しと同義で使われることが多い。
【他担】 他人の推し。
【沼に落ちる】 人や物などにハマること。ジャンルそのものを沼と呼ぶことも。
【現場】 舞台やコンサートなどのイベント。
推しができて良かったこと
友達が増えた
好きな人のことを誰かと共感できるのはすごく楽しいです。好きなものを抱えている自分を誰かとシェアしていいと思えたことも良かったです。
興味が広がった
少しでも推しに見合う自分になりたいと肌のケアを始めたり、推しの出ている作品の予習をしようとした結果、やたら新選組に詳しくなったりと、興味や関心が広がりました。
カレンダーが楽しみな予定で埋まる
「舞台を見に行く」というものから「チケットの発売日」「家でDVDを見る」ということまで、推しが作ってくれる予定は「この日まで頑張ろう」というモチベーションになっています。
日頃の行いが良くなった
「推しが見てる」と思うと、イライラを表に出すことも減りました。また、基本的にチケットを当てたいので、運が良くなるように徳の高い生き方をしておこうと思うようになりました。
自分のことがちょっぴり好きになれた
昔は時間があるとSNSを見ては人と比べて落ち込んでいました。今は推しとの時間を捻出するために仕事や家事を頑張っていて、気付けば「自分が嫌い」と言わなくなりました。
推しの前ではただの人間でいられる
特に女性は、妻、嫁、母、娘、仕事など、いろいろな役割や肩書を背負っている人も多いと思うので、それを下ろす瞬間があるのは心の休養になるんじゃないかなと思います。
楽しむためのポイント
推しは「他人」であることを忘れない
あくまでも「推しは他人」「推しは自分のものではない」と認識することは絶対です。執着し過ぎないことが大切。推しとの距離感をわきまえておきましょう。
他担を下げて自担を上げない
SNSなどで発信する際に、同じ文章の中で他の人の推しを下げて自分の推しを上げる言い方はNGです。沼の治安が悪くなると、ファンが減り、推しに迷惑がかかってしまいます。
見返りを求めない
推しにどれだけ投資したとしても、見返りは一切ありません。見返りが欲しい人は、コツコツ、NISA(少額投資非課税制度)でもすることをオススメします。
複数推しは最高のリスクヘッジ
推しを一人に絞ると、引退や結婚したときのショックが大きかったり、推しの出番が少ないときに手持ち無沙汰になったりしがち。推しが複数だと、供給が絶えることなく楽しめます。
義務感で推す必要はない
推し活は、こちらの都合でしていることなので、飽きたらやめてもOK。後ろめたさを感じたり、変な義務感で時間とお金を使ったりする必要はないと思います。
炎上したときはSNSから距離を置く
発言や行動が批判にさらされるなど、推しが炎上することもあります。特に被害者がいる場合は擁護しても火に油。どうしても何かしたい場合は、個人的に手紙を送るか、推しがセカンドチャンスを迎えた時に力強く応援してあげましょう。
特定の好きな人や物がない人は
友達が誘ってくれたら、無理のない範囲で足を運んでみてください。また、小さい頃に好きだった物を思い出し、なぜ好きだったのか考えてみるのもよいと思います。
よこがわ・よしあき 1983年生まれ。大阪府出身。2018年、テレビドラマ「おっさんずラブ」に夢中になり、あり余る熱情と愛を言葉に変えて書いた「note」が話題に。以来、テレビドラマから映画や演劇まで、エンタメに関するインタビュー、コラムで引っ張りだこのライターとなる。著書に『役者たちの現在地』(KADOKAWA)など。
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【編集】仲嶋香代子 【横川さんの写真】本人提供 【イラスト】前田安規子 【レイアウト】山下孝明