■メッセージ
NHKスペシャル「知られざる文明への道 アイアンロード」を僕はテレビで観ていないので、本文に対し的確なコメントは出来ないが、補足的意味で「日本の鉄の歴史(最近の50年)」に関して、鉄鋼業界に片足を突っ込んでいた自分の体験から下記書いてみました。
1.「鉄は国家なり」と八幡製鉄の稲山嘉寛天皇が豪語していた頃、大手銀行で筆者は設備投資資金を無審査・青天井で融資していたというから、半世紀前の日本では鉄鋼業は国家そのものであったのだ。
2.特に大手高炉メーカー5社(八幡/富士/住金/川鉄/NKK)は産業界では絶大な信用力のある企業だった。しかるにこの半世紀間の財界再編成により今やこの5社の名前は経済界から完全に消え去り、日鉄/JFEの2つの新しい社名に集約されており、学生の就活でもこの業界はあまり人気はないようである。
3.敗戦後日本は繊維産業を中心とする軽工業から、重工業に乗り換え、前記のように鉄鋼業に重点を置き、高品質の鋼材を合理的な価格で世界各地に輸出するとともに、自動車産業や家電産業が世界で羽ばたくに必要な材料供給を品質・価格面で応援し、経済大国の基礎を築くのに著しく貢献した。
4.当時僕は日本鉄鋼輸出の尖兵として世界各地で鉄鋼製品を売り込み、日本の外貨稼ぎに精力を注いでいたが、これを支えていたのが「鉄は国家なり」の言葉で、自分の仕事に誇りを持って滅茶苦茶に働くことが出来た。日本の経済大国入りに尽くしたとの自負もあり。
5.当時、世界の鉄鋼業界では、US Steelに代表される米国が断トツで、あとは欧州や日本といった所謂先進国にしか高炉メーカーは存在しなかった。鉄の需要も10億トン程度だったのが、昨年は世界の粗鋼総生産量が19億トンだったという。
6.日本は1億トンを目指して頑張り十数年前に漸く目標を達成したが、その後は日本経済そのものが力尽き、今や1億トンを割ってしまっているらしい。それでも粗鋼生産量は、世界第3位に留まっている。問題は中国で、僕の記憶では高炉は存在しなかった筈なのに今や10億トンもの粗鋼を生産しているという。品質的にはたいしたものは出来ていないだろうが、何ごとも数量でこなす中国の恐ろしさが表れている。インドも同様、今や中国に次ぐ世界第2位。韓国が日本にせまっているというから、これも驚き。
7.以上自分が深い関わりがあった鉄鋼業について記憶を辿ってみたわけだが、こういう激しい変化を自分の眼でみる時代に生き、仕事が出来たことはラッキーだったというべきか。激しい変化の半世紀、社会の他の分野でも同じような変遷があっただろうし、今後も大きく変化するだろう。それに付いてゆきたいが、ボケが相当進行しているから難しい。