敬卑詞と命令文

敬卑詞

敬卑詞(けいひし)は助動詞の一種である。

動詞の接続形の後ろに置かれる。

動詞に助動詞が付いている場合には、助動詞の接続形の後ろに置く。

(nepleを含むあらゆる助動詞よりも後ろに置かれる。)

なお、敬卑詞同士を重ねて使うことはできない。

敬卑詞を使うことのできる条件は、

  • 主語と目的語が両方とも存在する文で(※省略されていてもよい)、

  • かつ、その二つが共に有生名詞である

ことである。

ただし、ここでいう目的語とは、対格か与格の有生名詞を指す。(両方とも存在する場合は対格の方を目的語とする。)

※「もらう」動作では、与格に代わって奪格の有生名詞が目的語となりうる。

※上記の条件が揃えば、対格や与格を要求する形容詞にも付く。

※両方あるいは片方が無生名詞であっても、擬人法が使われたときには敬卑詞が使えることもある。

※両方あるいは片方が無生名詞であっても、有生名詞との関連が強いもの(体の部位や所有物など)の場合は敬卑詞が使えることもある。

敬卑詞は4語あり、主語と目的語の関係によって以下のように選択される。

なお、下表における目上・同等・目下といった関係は、一人称(発話者)から見て目上・同等・目下という意味である。

基本的には以下のようである。

同等同士の動作 → yete

目上に対する動作 → hepre

目下に対する動作 → sukle

※目上同士の動作にだけはyeteではなく、hepreとsukleの合成語heprasukleが用いられる。

例外的に、二人称は実際の関係に関わらず、目上として扱われる点に注意。

ただし、親友や恋人など、特に親しい間柄では二人称であっても同等として扱うことが好まれることもある。

また、喧嘩などで相手を見下す場合や、明確な主従関係・上下関係(主君→家臣、飼い主→ペットなど)がある場合には、二人称を目下として扱うこともある。

敬卑詞を使った例文を以下に数例挙げる。

kaya ruyxur hapre yeti.

私は友人と会った。(一人称→同等)

qīzay kūnoy wēnur wayle neple sukli.

先生は私の犬をお褒めにならなかった。(目上→目下)

ただし、相手との関係を明示的に表したい場合を除き、実際には敬卑詞を使わないことも多い。

なお、命令文においては敬卑詞の使い分けが上記のものと異なるため、以下に解説する。

命令文

動詞の項で述べたように、命令文は、動詞の接続形を文末に置くことで作られる。

動詞が助動詞を伴っている場合には、文末の助動詞が接続形を取ることで表される。

ところが、こうした命令文は堅苦しく威圧的な言い方とされ、日常的には用いられない。

動詞や助動詞の後ろに敬卑詞を置き、その敬卑詞を接続形にした命令文がよく行われる。

しかし、命令文における敬卑詞の使用条件、使い分けは上で説明したものと異なる。

まず、命令文では常に敬卑詞を使うことができる。

(主語と目的語の有生性や有無とは関係なく使える。)

また、主語と目的語の関係ではなく、命令者と被命令者の関係によって敬卑詞が使い分けられる。

すなわち、命令者から見て同等への命令にはyete目上への命令にはhepre目下への命令にはsukleが常に用いられる。

この場合は二人称に対しても実際の関係によって敬卑詞が選択され、常に目上として扱うことはしない。

なお、敬卑詞を用いない命令文は、命令者と被命令者の関係が定まっていない場合に用いられることがある。

例えば数学の問題において「解を求めよ」と言うときには、敬卑詞を用いない命令文を使うのが普通である。

命令文を従属節とする場合などは、後続する要素に合わせて述語の形が決められるため、命令を表す接続形が使えない。

このようなときには、副詞「mew」をその動詞に付することで、その節が命令文であることを示す。

なお、従属節内の命令文では敬卑詞を用いなくてもよい。

以下に命令文の例を示す。

yibun zīme yete.

これを見て。

yibun zīme hepre.

これを見てください。

yibun zīme sukle.

これを見ろ。

yibun mew zīme qīzayi kūnatu būti.

先生は私に、これを見るように言った。

禁止命令は副詞「nuh」を述語(接続形)の前に置くことで示す。

なお、従属節内の禁止命令でも、「nuh」が用いられる。

yibun nuh zīme yete.

これは見ないで。

yibun nuh zīme hepre.

これは見ないでください。

yibun nuh zīme sukle.

これは見るな。

yibun nuh zīme qīzayi kūnatu būti.

先生は私に、これを見ないよう言った。

一人称複数を主語とする命令文は、勧誘・提案を表す。

この場合には、敬卑詞を付けないのが普通である。

(kūyay) hūte.

行こう。/行きましょうか。

(kūyay) nuh hūte.

行かないでおこう。/行かないでおきましょう。

また、「mew」を文末に置くと、動詞なしの短くて丁寧な命令文を作ることができる。

この短縮命令文は、そのまま副文にすることができる。

būl mew.

水を下さい。

nāqew mew.

明日にしてください。

būl mew kārayatu būti.

水を(持ってくるように)と店員に言った。