Ⅱ類動詞と方向辞・再帰辞

Ⅱ類動詞

Ⅱ類動詞は、物や人の位置の変化を表す動詞群である。

移動や所作など、物理的な動きを表す動詞の多くがここに分類される。

以下のような語法で用いられる。

[主格][対格][未処格]から[已処格]に移す

代表的な動詞irus(行かせる)で例を示す。

例)irusyt de cumsonytt len sten cen fistam. 私は子どもたちを家から学校に行かせる。

この文の構成は以下の通り。

irusyt: irus(行かせる)・一人称単数

de cumsonytt: cums(子)・対格・複数・一人称単数所有

len sten: sten(家)・未処格

cen fistam: fistam(学校)・已処格

方向辞

方向辞は主にⅡ類動詞の直後に置かれて、位置変化の方向性を示す名詞の一種である。

先ほど例に挙げたirusという動詞は、「行かせる」の他、「来させる」「移動させる」等の意味がある。

つまり、向きを問わず、場所から場所への移動は全てirusで表されるのである。

このように、多くのⅡ類動詞は、位置変化の方向性を区別しない。

※したがって、上の例は便宜上「行かせる」と訳したに過ぎず、実際には多義的である。

方向辞は、これらの方向性を表し分けるために用いられる。

主な方向辞を以下に挙げる。

例)irusyt duss de cumson cen fistam. 私は子どもたちを学校に来させた。(「私」に近づく移動)

例)irusyt laff de cumsonytt cen fistam. 私は子どもたちを学校に行かせた。(「私」から遠ざかる移動)

例)irusyt enn de cumson cen fistam. 私は子どもたちを学校の中に入れた。

例)irusyt jurr de cumsonytt len sten. 私は子どもたちを家から出した。

ただし、方向性を明示する必要がないならば、方向辞は使わなくてもよい。

再帰辞

再帰辞 on は、自動詞的表現のために用いられる代名詞の一種である。

対格の位置で用いられ、主格で表されているものが対格で表すべきものでもあることを表現する。

例えば、irus(行かせる)に対して「行く」と言いたい場合は、以下のようにいう。

例)irusyt on cen fistam. 私は学校へ行く。(直訳:私は自分を学校に行かせる。)

なお、再帰辞は省略することができ、以下の例文も同じ意味になる。

例)irusyt cen fistam. 私は学校へ行く。

厳密には、この文は他の対格名詞が省略されている可能性もあり、「私は学校に行かせる」という意味にも解釈されうる。

しかし、その意味の場合は、対格に通常の代名詞を用いて以下のように言われることがほとんどである。

例)irusyt dyc cen fistam. 私は彼(女)らを学校に行かせる。

そのため、対格が省略されている場合には、一般に再帰辞が省略されていると考えてよい。