宮町の囃子
宮町には現在、全12曲の囃子が伝わっている。
恵比須軕のお囃子が7曲と、本軕(猩々軕)のお囃子が5曲である。
以下に一曲ずつ説明する。
曲名の横には読み方とアクセントを付した。
アクセントは、「[」が上がり目、「]」が下がり目、「=」は平板型を示す。
恵比須軕
1. 道行(みちゆき /ミ[チユキ=/)
道を進む時の囃子。曳行中は何度も繰り返して演奏される。
最後の「ソラソラ」の部分に「よいやま」という歌詞がある。
これには「良い軕」「宵軕」など幾つかの解釈がある。
他町の類似曲を参考にすると、元の歌詞は以下のようなものだったと推測される。
スッテリオコメ スッテリオコメ よいやま ソーライ
よい宮町に 菜種を熱さらかいて
蝶々 目 眩わんせ
スッテリオコメ スッテリオコメ よいやま ソーライ
2. 起き上がりこぼし(おきあがりこぼし /オ[キアカ゚リコ]ボシ/)
帰り軕(曳き別れ後、町内に帰るときの囃子)として用いられる。略して「起き上がり」と言うこともある。
本歌部分と「返し(かえし)」と呼ばれる部分とから成り、
本歌部分を一度~数度繰り返して演奏した後、返しを演奏する。返しに入った後は、返しだけを繰り返して演奏する。
なお、本歌部分を「起き上がりこぼし」、返しを「帰り軕」と呼んで、別の曲として扱うこともある。
返しにある「ラーラーシーソ、ラーラーシーソ」のリズムは「シャンシャンリーコ、シャンシャンリーコ」と覚える。
本歌部分には、歌詞が残っている。
おきゃがりこぼしが 飯(まま)溢(こぼ)いた
ゆんべも溢いてまた溢いた
おきゃがりこぼしが 飯溢いた
どこのどこまで溢いた
おきゃがりこぼしが 飯溢いた
朝から晩まで溢いた
3. 雨(あめ /ア]メ/)
雨天時、道行の代わりに用いる囃子。「雨の恵比須」と書かれることもあった。
曳行中に雨が降ってきて軕が急いで町内に帰る様子を表すため、道行を速くアレンジして作られたと伝わる。
繰り返して演奏する場合は、繰り返すごとにテンポを上げていく。
4. 江差(えさし /エ[サシ=/or/エ[サシ]/or/エ[サ]シ/)
神前四曲(奉芸や掛芸の際に演奏する曲)の一曲目。
また、ご祝儀を多く頂いた場合(「アタリ」と言う)に、感謝の意味を込めてその方のお宅の前で演奏する曲。
「神前四曲(しんぜんよんきょく)」は、「神前曲(しんぜんきょく)」や「役物(やくもん /ヤクモ]ン/)」とも呼ばれる。
神前四曲はどの曲も、笛のみによる前奏があり、途中から太鼓が入り、「ドシラーソーラ」で終わる。
江差では太鼓が入るとき、「ヨー」または「ソーライ」と掛け声が入る。
5. 金屏風(きんりょうふ /キ[ンリョ]ーフ/)
神前四曲の二曲目。
特別なご恩がある方のお宅に伺った場合や、非常に多くのご祝儀を頂いた場合、江差に続いて演奏されることもある。
「きんびょうぶ」とは読まない。
最後の音も「ぶ(濁音)」ではなく「ふ(清音)」が普通である。
太鼓が入るところでは何も言わない。
テンポが少し速くなるところで「ソーライ」と言うことがある。それ以降、切れ目切れ目で「ソーライ」と言っても良い箇所がある。
6. 紫車(しぐるま /シ[ク゚ルマ=/)
神前四曲の三曲目。五穀豊穣を祈る曲と言われる。
太鼓が入るところで「ソーライ」と言ってもよい。
後半はテンポが非常に速くなるが、速いテンポに変わるところで「ソーライ」と言ってもよい。
その後も、切れ目切れ目で「ソーライ」と言って良い箇所がある。
7. 岡崎(おかざき /オ[カザキ=/)
神前四曲の四曲目。
太鼓が入るところで「ソーライ」と言ってもよい。
後半は速度が二度速くなるが、二度目に速くなるとき、「ソーライ」と言ってもよい。
奉芸や掛芸で演奏する場合、曲末の「ドシラーソーラ」の最後の「ラ」を、道行の「ラーミーミーソラシ」の最初の音として扱い、
そのまま道行を演奏し始めて、軕を退出させる。
猩々軕
8. 長町渡し(ながちょうわたし /ナ[カ゚チョーワ]タシ/)
猩々軕の道行囃子。「本軕(ほんやま)の道行」「猩々軕の道行」「長町」と呼ばれることもある。「長丁渡し」と表記した例も見られる。
六宝が復活するまでは、帰り軕としても演奏されていた。
「長町渡し」の「長町」は、町名の長町(現在の大垣市東長町)に由来するとも言われるが、詳細は不明。
曲末の「レードレードラーシソーラー」の「レードレード」部分は、元々全て短く「レドレド」だったが、
軕が復元された2001年前後から徐々に長くなり、現在の「レードレード」になった。
2000年に「レドレード」、2001年に「レドレド」、2002年に「レードレード」(一度目のドが短い)と演奏された例も聞かれ、
この時期はこの部分の音の長さが不安定だったようである。
9. 猩々(しょうじょう /ショ[ージョー=/)
奉芸または掛芸時、猩々人形が屋形からトイに出て、酒を飲んで紅顔に変わり、屋形に戻るまでの囃子。
曲頭で「ミーソー」が二回繰り返されるが、その一回目は太鼓を叩かない。
後半は非常に速いテンポに変わる。
この曲が終わると謡曲「猩々」が「よもつきじ」から最後まで謡われ、その後、獅子が始まる。
10. 獅子(しし /シ]シ/)
猩々が獅子に変じて踊り狂うときの囃子。
笛と太鼓に、鉦が加わる。三味線も加わることがある。戦前には大皮(大鼓)が加わることもあった。
ほぼ同じ旋律を二度繰り返すが、その後半を「返し」と呼ぶ。
11. 六宝(ろっぽう /ロ[ッポ]ー/)
帰り軕。また、奉芸・掛芸後に退出するときにも演奏される。
鉦や三味線が入ることもある。
「ろっぽう」「六方」とも表記される。
今上天皇ご降誕の折(1933年)、それをお祝いして囃子に取り入れられた。
元は明治期に流行した、日露戦争での勝利を祝う俗曲か。
終戦後は伝承が途絶えていたが、2006年に古老が思い出して練習が始まり、2009年に復活した。
歌詞は以下のように推定されるが、現在は伝わっていない。
日本(にっぽん)勝った 日本勝った ロシア負けた ソーライ
ロシアの軍艦 底抜けた 底抜けた 抜けた
底抜けた 抜けた ソーライ
ロシアの軍艦 底抜けた ソーライ
12. おばば(おばば /オ[バ]バ/)
帰り軕。戦後は伝承が途絶えており、現在では演奏されていない。
戦前は、六宝とおばばの両方が帰り軕として演奏されていた。
特に使い分けはなく、その場で適当にどちらかを選んでいたとのこと。
六宝が取り入れられるまでは、これが猩々軕の唯一の帰り軕だったか。
元は揖斐川町発祥の民謡。
歌詞は以下の通り。
おばば どこ行きゃるな
おばば どこ行きゃるな
三升樽(さんじょうだる)提げて ソーラバエー
ヒュルヒュルヒュー ヒュルヒュルヒュー
嫁の在所へな
嫁の在所へな
ササ 孫抱きに ソーラバエー
ヒュルヒュルヒュー ヒュルヒュルヒュー