主格・対格と原形

名詞の原形

名詞には原形がある。(この用法については下で説明する。)

原形は原則として、辞書形から-ehあるいは-urを取ったもので、語幹と同じ形である。

しかし、以下に示すような例外的なパターンが多くある。

例えば、「心」を意味する「tupreh」という語の語幹は、-ehを取った「tupr-」である。

これに属格語尾の-oyを付ければ、「心の」を意味する「tuproy」が得られる。

しかし、原形は「tupr」ではいけない。なぜなら、頭子音/pr/が音節末に使われているからである。

この問題を解決するためには、「語尾を丸め込む」処理を行う必要がある。

これは、音節末に来てしまった頭子音を、対応する末子音に変換する操作を指す。

今回の場合、/pr/に対応する末子音は/p/であるので、「tupr」の語尾を丸め込んだ「tup」が「tupreh」の原形ということになる。

以下のように、9種類の頭子音が4種類の末子音に丸め込まれる。

なお、wやyで終わる語幹は丸め込む必要がない

これは、そのwやyが直前の母音と合わせて一つの母音と見做されるようになるからである。

例えば、「sayeh(家)」という語の原形は「say」である。(なお、語幹は当然「say-」。)

一見すると頭子音/y/が音節末に来てしまっているように見えるが、このyは重母音/ay/の一部として解釈されるため、実際にはそうでない。

このように、語幹末のwとyは、接尾辞(別項で説明する特徴母音を含む)が付いているか否かによってその解釈が変わるため、しばしば注意を要する。

※なお、上記と全く同様の方法で、後に解説する動詞・形容詞・助動詞・敬卑詞などの原形も得られる。

主格と対格

主格対格は、それぞれ文の主語と目的格を表す格である。

この2つの格語尾は他の格語尾とは異なる振る舞いをするため、取り立てて解説する。

まず、主格語尾-ehは、無生名詞にしか付くことができない

有生名詞の主格には原形を用いる。

次に、対格語尾-urは、有生名詞にしか付くことができない

無生名詞の対格には原形を用いる。

この性質を利用して、辞書では有生名詞が対格(-ur)、無生名詞が主格(-eh)の形で示されている。

ただし、自動詞の主語には、主格ではなく原形や分格が用いられることもある。

特に、自他同形の自動詞の主語には分格が用いられ、主格は用いられない。