By Artfarmer2026年3月16日
rewrite 2026年6月8日 (更新)
多目的コホート研究(JPHC Study)
出展:低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8897.html
論文
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8819285/
国立がん研究センターの研究では、食事内容を「低炭水化物スコア」という指標で数値化しています。仕組みはシンプルです。
1日の総エネルギーに占める炭水化物の比率が高いほどスコアは低く、脂質・たんぱく質の比率が高いほどスコアは高くなります。つまり、高スコア=糖質が少なく、脂質・たんぱく質が多い食事を意味します。
ただし、ここで必ず押さえておきたい重要な点があります。このスコアは「エネルギー比率」だけを計算したものであり、何を食べたか(食材の質)は一切考慮されません。
良質な魚・卵・ナッツで糖質を減らした人も、加工肉(ハム・ソーセージ)で減らした人も、スコア上はまったく同じ「高スコア」として扱われます。これが後述する「矛盾」の正体です。
センターの公式発表では「高スコアほど全がん・直腸がんのリスクが高く、胃がんのリスクは低かった」とまとめられています。しかし、グラフを丁寧に見ると、別の事実が浮かびあがります。
調査対象者は糖質摂取量の多い順に第1〜5分位に分けられており、最も糖質を多く摂る第1分位が比較の基準となっています。
グラフ上では、糖質を最も摂取する「第1分位」(基準)よりも、糖質をやや控えた「第2分位」のほうが発がんリスクが低いという傾向が確認できます。つまり、糖質を適切に減らすこと自体はリスクを下げる可能性を示しているのです。
センターの要約は「高スコア全体」を俯瞰した表現であり、グラフの細部を読むとやや語弊があると感じる部分もあります。
国立がん研究センターが「第1分位(糖質を一番たくさん摂っている人)」を基準にしているのは、「現代の一般的な食生活(炭水化物メイン)」を平均的なベースラインとして置きたいからです。
第1分位(基準): 糖質過多で、インスリンスパイクのリスクが最も高い。
第2分位(糖質が少し減った層): ここが最もリスクが低いのは、「過剰な糖質を減らしつつ、まだ加工肉等に依存する段階まで極端な食事になっていない(バランスが良い)」層だからではないかと推測されます。
第5分位(糖質比率が一番低い層): ここには、糖質を大幅にカットした結果、「安易に加工肉や動物性脂肪に頼りすぎた層」が含まれてしまい、その有害性がインスリン低下のメリットを上回ってしまった可能性があるのです。
がんの発症部位によって、高スコアとの関係がまったく異なります。
リスクが上がった部位(高スコア時)
全がん・直腸がん・肺がんは、動物性食品ベースのスコアが高い場合にリスク上昇の傾向が見られました。これは糖質制限そのものが原因というより、「糖質を減らした分を加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン等)で補った」ことによる影響と考えられます。加工肉には高温調理で生じるヘテロ環アミンやニトロソ化合物といった発がん性物質が含まれており、これが特に消化管の後半部分や肺に影響を与える可能性があります。
リスクが下がった部位(高スコア時)
胃がんは、動物性・植物性どちらのスコアが高い場合でもリスクが低下しました。炭水化物を減らすことでインスリン分泌が抑制され、胃粘膜への慢性的な刺激や過剰な細胞分裂のリスクが抑えられることが一因と考えられます。
このデータで見落としてはいけないのが、第1分位(糖質過多)のリスクの高さです。
糖質を大量摂取すると食後の血糖値が急上昇し(血糖値スパイク)、それを処理するために膵臓から大量のインスリンが分泌されます。インスリンは強力な同化ホルモンであり、過剰な状態が続くとミトコンドリア内での活性酸素の産生が加速し、細胞の酸化ストレスが増大します。これはがん細胞の増殖を助ける環境につながります。
また、「糖質カット」を謳った加工食品に頼るケースも同様です。糖質の代替として質の低い食材を摂取することになり、スコアだけが上がって食材の質は改善されないという落とし穴があります。
データ上でリスクが最も低い「第2分位」が存在することは、適切に実践された糖質制限は、発がんリスクの観点からも合理的であることを示唆しています。
※植物性食品を摂取した際に、「第1分位」では胃がん、大腸がん、直腸がん辺りの発症リスクが増えていることについて
植物性食品の第1分位でリスクが見える背景
「植物性食品に基づくスコア」であっても、糖質摂取量が多い(第1分位の)グループでがんのリスクが上がっているように見えるのは、「植物性食品を食べている=健康的」とは限らないからです。
「植物性」に含まれるもの: この調査で分類される「植物性食品」には、納豆や豆腐などの健康的なものだけでなく、「精製された穀物(米・パン・麺)」「砂糖」「植物油(サラダ油等)」もすべて含まれます。
第1分位の正体: つまり、第1分位の植物性スコアが高い層というのは、「ひたすら白米やパン、砂糖などの精製炭水化物を食べているグループ」を指している可能性が高いのです。
このデータが伝えるメッセージは「糖質制限をやめろ」ではありません。「糖質を減らした分、何を食べるか(食材の質)」が決定的に重要だということです。
避けるべきこと ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉を多用してスコアを高めること。スコア上は「糖質制限」に見えても、発がん性物質のリスクを高める可能性があります。
推奨される食材選択 魚・卵・加工していない良質な肉・ナッツ・オリーブオイルなど、食材そのものの質を優先することが重要です。これらを選んでいる限り、このデータは糖質制限を否定するものにはなりません。
胃がんリスクの低下という恩恵 インスリン負荷を減らす糖質制限は、胃粘膜への慢性的な刺激を抑える点でプラスに働きます。これは糖質制限そのものの恩恵と捉えられます。
中途半端を避ける 「なんとなく少し控える」よりも、徹底して実践することがインスリン管理において有効です。ただし、極端な動物性食品への偏りには注意が必要です。
このデータの問題点このデータの基準(第1分位)は「糖質を一番多く食べている層」です。
本来なら、このデータは「糖質の過剰摂取が、どれほど有害であるか」を証明するための強力な資料になり得るはずなのです。
しかし、発表の形式上、相対的なリスクとして提示されるため、まるで「糖質制限(スコアが高い側)に問題がある」かのような印象を与えてしまう、非常に逆説的な作りになっています。
「低炭水化物スコアが高い人ほど直腸がんリスクが高い」 → 「だから糖質制限はやめたほうがいい」
という誤った考えを持つ可能性があります。
正しくは、「低炭水化物スコアが高くなる際に、質の悪い食品を選択すると、かえってがんリスクを上げる可能性がある」 → 「だからこそ、糖質制限をするなら食材の質(加工肉を避ける等)に細心の注意を払うべきである」と正しく読み解くことが大事です。
「低炭水化物スコア」は食材の質を反映しないため、単純に「高スコア=危険」とは読み取れない
グラフ上では、適度な糖質制限(第2分位)が最もリスクを抑える傾向がある
胃がんリスクは糖質制限により低下。直腸がん等のリスク上昇は、加工肉の多用が主因と考えられる
良質な食材を選んだ糖質制限は、このデータと矛盾しない
国立がん研究センターの発表は「糖質制限の否定」ではなく、「炭水化物を減らすなら、その代わりとして何を選ぶかを意識しなさい」という栄養学的なメッセージとして読み解くのが、最も建設的な解釈ではないでしょうか。
出典:国立がん研究センター 多目的コホート研究「低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連について」 https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8897.html
参考資料
Wiley Online Library(Cancer Science 公式ページ)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15215
PubMed Central (PMC) 閲覧用ページ
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8819285/
糖質(炭水化物)摂取量が多い順(=LCDスコアが低い順)である「第1分位(Q1)」「第3分位(Q3)」「第5分位(Q5)」についての割合データは記載されていますが、「第2分位(Q2)」と「第4分位(Q4)」の具体的な数値データはソース内の表に記載されていません。
ソースの「表1」に記載されている、1日あたりのエネルギー摂取量に占める炭水化物の割合の平均値(±標準偏差)は以下の通りです。
■ 総合LCDスコアに基づくグループ分け
第1分位(Q1):66.0% ± 6.0
第2分位(Q2):(記載なし)
第3分位(Q3):54.5% ± 5.9
第4分位(Q4):(記載なし)
第5分位(Q5):44.1% ± 5.9
■ 動物由来のLCDスコアに基づくグループ分け
第1分位(Q1):65.6% ± 5.7
第2分位(Q2):(記載なし)
第3分位(Q3):54.3% ± 5.9
第4分位(Q4):(記載なし)
第5分位(Q5):43.9% ± 6.2
■ 植物由来のLCDスコアに基づくグループ分け
第1分位(Q1):59.8% ± 9.6
第2分位(Q2):(記載なし)
第3分位(Q3):54.2% ± 9.0
第4分位(Q4):(記載なし)
第5分位(Q5):50.2% ± 6.9
※LCDスコア(低炭水化物食スコア)は、スコアが高いほど炭水化物の摂取量が少ないことを示します。そのため、ご認識の通り、第1分位(Q1)が最も糖質摂取量が多く、第5分位(Q5)が最も少ないグループとなります。
出典:国立がん研究センター 多目的コホート研究「低炭水化物食とがん罹患のリスクとの関連について」 https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8897.html
お読みください
筆者は農家であり、医師・薬剤師・管理栄養士等の資格を持つ医療専門家ではありません。本記事は、文献・論文・公的データをもとに筆者個人が行った考察の記録です。医療上の判断は必ず担当医にご相談ください。「考えるための素材」として活用いただければ幸いです。