By Artfarmer2026年5月9日
低炭水化物食とがん罹患リスク
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出典: Cancer Sci. 2021年11月 Web先行公開
論文URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15215
PMC閲覧ページ: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8819285/
調査開始: 1990年・1993年(ベースライン)、食事調査は1995年〜1998年
対象者数: 最終的に90,171名(約9万人)
対象年齢: 45〜74歳
対象地域: 全国10保健所管内(岩手県二戸・秋田県横手・長野県佐久・茨城県水戸・新潟県長岡・高知県中央東・長崎県上五島・沖縄県中部・沖縄県宮古・大阪府吹田)
東京地域の除外: 当初11保健所で開始されたが、東京地域(7,097名)はがん発生率データが入手できなかったため除外
調査手法: 自己記入式アンケート(食物摂取頻度調査票:FFQ)による長期追跡研究
論文 Table 1 より。LCDスコアが高いほど炭水化物摂取量が少ないことを示す。
1995〜1998年当時、日本の地方都市では「糖質制限」という概念はほぼ存在していなかった(アトキンスダイエットが一部で知られ始めた程度)。したがって第5分位の人々は、健康を意識して意図的に炭水化物を制限していたわけではない。
データが示す実態は以下の通りである。
総エネルギー摂取量が第1分位より約586 kcal多い(カロリー過多)
赤肉・加工肉の摂取量が第1分位の約3倍(約75 g/日 対 約27 g/日)
糖尿病の既往歴を持つ割合が最も高い(5.9%)
炭水化物も44%程度は摂取している(現代の厳格な糖質制限とは程遠い水準)
つまりこのグループの正体は、「健康のために炭水化物を控えた人々」ではなく、**「肉や脂っこいものを好んで大量に食べた結果、相対的に炭水化物の割合が低くなり、総カロリーも多くなり、糖尿病にもなりやすかった集団」**である可能性が極めて高い。
1995〜1998年当時の地方都市において、炭水化物摂取比率が約44%だった人々は、意識して糖質制限をしていたのではなく、カロリー過多な偏食(肉・加工食品・脂質過多、ついでに炭水化物も食べていた)の結果として相対的に炭水化物割合が低くなった集団であった。
PubMed Central (PMC) 閲覧用ページから引用
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8819285/
【あらゆる種類の LCD スコアの最高五分位に属する参加者は、糖尿病の既往歴があり、総エネルギー摂取量が多く、コーヒーと緑茶の摂取量が多い傾向がありました。全体的な LCD スコアまたは動物性 LCD スコアが高い参加者は、動物性タンパク質、動物性脂肪、植物性脂肪の摂取量が多く、植物性タンパク質の摂取量が少なくなっていました。植物性 LCD スコアが高い参加者は、タンパク質と脂肪の摂取量が多かったものの、その量と勾配は全体的な LCD スコアおよび動物性 LCD スコアの場合よりも低くなっていました (表 1 )。】
がん発症リスクの主因は食材の質と偏食にある。
直腸がん等のリスク上昇は加工肉・赤肉の多用が主因と考えられ、良質な脂質・タンパク質(植物性食品を含む)を選択していた場合は異なる結果になったと推測される。
本研究の統計解析(モデル2)では、BMI(肥満度)・糖尿病の既往歴・総エネルギー摂取量(カロリー)を統計的に調整(影響を排除)した上でもリスク上昇が確認された。
しかし以下の点は直接測定・検証されていない。
血中インスリン値
IGF-1(インスリン様成長因子)値
インスリン抵抗性の実態
約9万人全員の血液データを長期追跡することは行われておらず、「カロリー過多→肥満→インスリン抵抗性→高インスリン血症→がん発症」という現実のメカニズムを直接証明できていない。著者自身も「潜在的な残存交絡因子を完全に排除できなかった可能性がある」と認めており、「さらなる研究が必要である」と結論づけている。
動物性LCDスコアが高いグループ(第5分位)で確認された主な傾向。
タイトルから「糖質制限をするとがんになる」と受け取られやすい構造になっているが、論文の本文を精読すると結論は異なる。
論文末尾には以下のように明記されている。
「動物性食品を豊富に含む低炭水化物食はがんの発生率増加と関連しているが、これらの悪影響は植物性脂肪の摂取によって軽減される可能性がある」
「動物性食品と植物性食品のバランスに注意を払わずに低炭水化物食を長期間続けると、全がん発生率に悪影響を及ぼす可能性がある」
すなわち論文の真のメッセージは、**「糖質を減らすこと自体が悪い」のではなく、「糖質を減らした分を動物性食品(肉・加工肉)ばかりで補うような偏食を長期間続けるとリスクが上がる。植物性食品とのバランスが重要である」**ということである。
論文の序文では現代(2020年代)の糖質制限ブームを明確に意識した記述がある。しかし実際のデータは1990年代の地方都市で収集されたものであり、対象者が意図的な糖質制限を行っていた可能性はほぼない。
1990年代の食事データを2021年に「低炭水化物食とがんのリスク」というタイトルで発表したことにより、一般消費者に「健康的な糖質制限=がんになる」という誤解を与えかねない構造になっている。これはデータの実態と現代のダイエット文脈を後付けで結びつけた結果と言わざるを得ない。
不遡及の原則という刑法の概念をここに持ち込むとより理解ができると思もう。
1995〜1998年のデータ収集時点では「低炭水化物食」という概念も、糖質制限という食事法も、社会的に存在していなかった
にもかかわらず、2021年に「低炭水化物食とがんのリスク」というフレームを後付けで適用した
当時の対象者は「低炭水化物食を実践していた人々」ではなく、結果的にそのスコアに分類された人々に過ぎない
これは法律で言えば、ある行為が行われた時点では存在しなかった法律を遡って適用するのと同じ構造的問題です。
データ自体は誠実に収集されたものであり、論文の価値を否定するものではない。しかしタイトルと序文が現代の糖質制限ブームを意識した文脈で書かれたことで、データが持っていない意味を帯びてしまった。
これが「構造的な問題」の正体であり、論文を批判しているのではなく、読まれ方の問題を指摘しているわけです
植物性LCDスコアの第1分位(炭水化物最多グループ)で一部のがんリスクが見られるのは、「植物性食品を多く食べている=健康的」とは限らないためである。
本研究における「植物性食品」の分類には、納豆・豆腐などの健康的な食品だけでなく、白米・パン・麺類・砂糖・植物油(サラダ油等)もすべて含まれる。
したがって植物性LCDスコアの第1分位の正体は、「ひたすら白米やパンなどの精製炭水化物を過食しているグループ」である可能性が高く、「植物性=健康的」と短絡的に結論することはできない。
この研究の統計データは興味深いものだが、時代背景・地域性・食生活の実態を照らし合わせると、以下のことが言える。
調査対象者は現代の「健康的な糖質制限」実践者ではない。 1995〜1998年当時の地方都市において、炭水化物摂取比率が約44%だった人々は、意識して糖質制限をしていたのではなく、カロリー過多な偏食の結果として相対的に炭水化物割合が低くなった集団であった。
がん発症リスクの主因は食材の質と偏食にある。 直腸がん等のリスク上昇は加工肉・赤肉の多用が主因と考えられ、良質な脂質・タンパク質(植物性食品を含む)を選択していた場合は異なる結果になったと推測される。
国立がん研究センターの発表は「糖質制限の否定」ではない。 そもそも調査対象者は現代的な意味での「糖質制限」を実践していない。この論文は「炭水化物を減らすなら、その代わりとして何を選ぶかを意識しなさい」という栄養学的メッセージとして読み解くのが、最も建設的かつ正確な解釈である。
「低炭水化物スコアが高い=危険」とは読み取れない。 グラフ上では第2分位が最もリスクを抑える傾向があり、重要なのはスコアの高低ではなく食材の質と全体のバランスである。
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筆者は農家であり、医師・薬剤師・管理栄養士等の資格を持つ医療専門家ではありません。本記事は、文献・論文・公的データをもとに筆者個人が行った考察の記録です。医療上の判断は必ず担当医にご相談ください。「考えるための素材」として活用いただければ幸いです。