2026年3月28日ByArtfarmer
春の土と、言葉にならない対話
春の作業が溜まっている。レイズドベッドの製作、土作り。そのぶん、自分自身との対話は少なくなっている気がする。今年は、これまでとは違ったハーブガーデンにしようと思っている。
春の土は、まだ冬の名残の冷たさを持ちつつも、掘り起こせば生命の準備が整った瑞々しい匂いがする。鍬を振るい、枠板を組む。そのリズムの中では、嘘つきな自分も、それを見張る自分も、ただ「今、ここ」の作業に溶け込んでいる。言葉を介さない分、指先の感覚や腰に伝わる重みが、今の真実を饒舌に語る。
地面から少し高い位置に「土の物語」を立ち上げるレイズドベッド。屈んで地面に這いつくばるのとは違う、その少し高い視点は、人生を俯瞰して眺める心境とどこか重なる。
「新しいガーデンに、最初に植えるのは何ですか?」
フレンチタラゴンです。
諦めていた冬越しも無事に乗り越え、株分けしてレイズドベッドに植え付ける準備が楽しみです。市販の苗も少ない貴重なハーブですが、フィーヌゼルブの中心的な存在です。
仙台の冬を越えた株が再び芽吹く。それは「死ぬまで生きる」という生命の力強さを、植物が代弁しているかのようだ。
フレンチタラゴンは種ができない。株分けでしか命を繋げない。この執拗な反復によって数千年も命を繋いできたこのハーブは、アニスやリコリスのような甘く、どこか人を惑わす複雑な香りを放つ。繊細でありながら、嘘つきな香り。
パセリ、チャイブ、セルフィーユ、そしてフレンチタラゴン。四つが揃って初めて完成する「フィーヌゼルブ」は、フランス料理の真髄だ。
タラゴンの相棒として、同じ庭に並ぶのはこんな顔ぶれだ。
ボリジ、コーンフラワー、フレンチマリーゴールド、カレンデュラ。そしてチャイブ、イタリアンパセリ、セルフィーユ。
ボリジやコーンフラワーの吸い込まれるような青と、マリーゴールドやカレンデュラの陽光のような黄色・オレンジ。この鮮やかな対比は、土の色に美しく映える。ボリジやカレンデュラはエディブル・フラワーとして食卓の彩りにもなり、フレンチマリーゴールドは庭全体を助けるコンパニオンプランツとして根を張る。育てる喜びが、そのまま食卓の視覚的な楽しみへと繋がっていく。
さらに、こんな種も準備している。
ロロロッサ、ロログリーン、セルバチカ、ルッコラ、スイートマジョラム、スイートバジル、ダークオパールバジル、シナモンバジル、ジャーマンカモミール、ディル。
ざっと、こんなもんだ。
2、3日中に種をまく。
バジルを三種類。スイート、ダークオパール、シナモン。それぞれが異なる香りのパレットを持ち、庭に風が吹くたびに違う物語が立ち上がる。ロロロッサの赤とロログリーンの緑、ダークオパールバジルの紫。セルバチカやルッコラの野生味。
種をまくという行為は、未来に向けて「未完成の問い」を投げかけることに似ている。芽が出るか、どう育つか。自然という相手との予測不能なやり取りの中に、決して「完了」することのない、瑞々しいプロセスが詰まっている。
新しく耕された土の上には、どんな物語でも植えることができる。
おやすみなさい。
春の冷たい土に触れ、レイズドベッドを組み上げた一日の終わりに、心地よい疲れが体を包む。今夜は自分との対話もしばしお休みして、あの瑞々しい土のような、静かで深い眠りにつく。
2、3日後の種まきで、フレンチタラゴンの若芽と多様な種たちが、新しい物語を紡ぎ出し始める。