甘味料の正しい知識
「人工」「合成」という表示が消えた理由
「人工」「合成」という表示が消えた理由
2026年3月25日ByArtfarmer
甘味料の正しい知識
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スーパーで食品の裏側を見ても、今や「人工甘味料」「合成甘味料」という文字はどこにもありません。
※「2020年に施行された食品表示基準の改正により、法定表示・任意の強調表示の両面で、原材料名欄にこれらの言葉は事実上使用できなくなりました。」
現在はすべて「甘味料(スクラロース)」「甘味料(キシリトール)」のように、物質名のみで記載されます。
理由は、「人工=体に悪い」「天然=安全」という科学的根拠のない先入観を消費者に与えないためです。
この改正は、私が長年望んでいたことでもありました。私の考えでは、「人工」とはこの世に存在しない物質のことであり、天然に存在するものを工業的に作り出したものとは区別されるべきです。かつてエリスリトールが「工場で作られる」という理由だけで人工甘味料と呼ばれていたことは、明らかに不当でした。
私がエリスリトールは「人工甘味料」ではないと考える主な理由は、「エリスリトールが自然界に存在する物質だから」です。
詳細な理由は以下の3つの視点から説明できます。
物質の正体(自然界に存在するか否か) 科学的な基準において、「人工(合成)」とは、自然界に存在しない物質を化学反応でゼロから作り出したもの(アスパルテームやスクラロースなど)を指します。一方、エリスリトールは自然界に存在する糖アルコールであり、発酵や精製によって取り出された「天然由来甘味料」に分類されます。
製造プロセスは伝統的な発酵食品と同じ 市販のエリスリトールは、トウモロコシ等から作ったブドウ糖を酵母によって大規模に発酵させて抽出するという「工業的な製造プロセス」を経て作られます。しかし、この「発酵」というプロセスは、味噌や醤油、日本酒などと同様の自然の営みです。工業的に大量生産されることを理由に「人工」と呼ぶならば、トウモロコシから作られるビタミンCや、海水から作られる精製塩も「人工」と呼ばなければならないという論理的矛盾が生じます。
※法的な位置づけ(2020年の法改正) そもそも日本の法律において「人工甘味料」という厳密な定義はありません。
さらに、2020年4月1日の食品表示基準の改正により、「何をもって人工とするかの科学的根拠がなく、消費者に誤解を与える」として、「人工」および「合成」という用語は正式に削除されました。
結論として、エリスリトールは科学的に「天然に存在する糖質(糖アルコール)」であり、それを人工と呼ぶのは、過去の曖昧な慣習や「ダイエット向けの甘味料には不自然な仕掛けがある」という偏見によるものに過ぎません。
甘味料は、生化学的には大きく「糖質系」と「非糖質系」に分けられます。なお、ここでいう「糖質」は生化学上の定義(炭水化物と同義)であり、食品表示基準や食品成分表における「糖質」とは定義が異なります(詳細は次節参照)。
糖質系甘味料(糖アルコール):エリスリトール、キシリトールなどはブドウ糖などに酵母を加えて発酵させることで作られ、自然界の果実やキノコにも存在します。そのプロセスは「醸造」に近く、化学合成とは本質的に異なります。
非糖質系甘味料(天然甘味料):ステビアやラカンカは植物の葉や果実から甘み成分(配糖体など)を抽出したものです。
非糖質系甘味料(合成甘味料):スクラロース、アスパルテームなどは自然界には存在しない化学物質を化学反応によって合成したものです。砂糖の数百倍の甘みを持ち、使用量は極めて少量です。
注意が必要なのは、日本の食品表示基準における「糖質」という言葉の定義です。
食品表示基準では、糖質を次の計算式で算出します。
糖質 = 炭水化物 - 食物繊維
タンパク質でも脂質でも食物繊維でもないものはすべて「糖質」に分類されます。スクラロースやステビアも微量ながらこの計算上「糖質」に含まれます。
一方、岩波生物学辞典(第5版)が定義する生化学上の「糖質(carbohydrate)」は炭水化物と同義であり、化学構造に基づく分類です。食品表示基準の「糖質」は、文部科学省の食品成分表で使われていた差引法の流れを引き継いだ行政上の造語であり、生化学の定義とは出発点が異なります。
三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)のうち、消化・吸収されて直接血糖に変わるのは糖質だけです。脂質とタンパク質が直接血糖を上げることはありません。
しかし、糖質の中にも血糖値を上げないものがあります。ここでの「糖質」は食品表示基準上の定義(差引法による分類)を指します。
エリスリトールは糖アルコールに分類される糖質(食品表示上も生化学上も糖質)ですが、体内でほぼ代謝されず尿中に排出されるため、ゼロカロリーで血糖値も上昇させません。ラカントS(サラヤ)、パルスイートカロリーゼロ(味の素)、シュガーカットゼロ(浅田飴)の主成分であり、EUでもFDAでも安全性が認められています。
以下の高甘味度甘味料は、生化学的には非糖質系甘味料ですが、食品表示基準の差引法による計算上は「糖質」に分類されます。ただし「人工甘味料」「合成甘味料」という表示は2020年の改正により使用できなくなっており、現在は物質名のみで記載されます。
FDAと厚生労働省が認可している高甘味度甘味料——アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ネオテーム、アドバンテームの6種類も、ゼロカロリーで血糖値を上昇させません。
キシリトールやマルチトールなどエリスリトール以外の糖アルコールは、砂糖の約半分程度血糖値を上げます。でんぷん・砂糖・ブドウ糖・果糖などのそれ以外の糖質は、食材を問わず同様に血糖値を上昇させます。
ステビアの甘味成分(ステビオール配糖体)もラカンカの甘味成分(モグロシド)も、生化学上は糖質の一種(配糖体)です。しかし小腸で吸収されることなく大腸まで達するため、生理的には食物繊維と同じ挙動を示します。
炭水化物は「糖質+食物繊維」と定義されており、食物繊維は人体に消化吸収されないため血糖値を上昇させません。ただし腸内細菌の餌となり短鎖脂肪酸を産生するため、エネルギーをまったく含まないわけではありません。市販の食物繊維素材のエネルギー換算係数は0〜2 kcal/gの範囲に分布しています。
プシコース(アルロース)は「希少糖」として広く知られ、ポジティブなイメージで受け入れられました。一方、エリスリトールは長らく「人工甘味料」と呼ばれてきました。しかし両者はともに自然界に存在し、工業的に製造される点では変わりません。
プシコースがズイナの葉から発見されたことで「天然に存在する希少糖」というブランドを得たのに対し、エリスリトールは「大量生産できる=人工」という誤解を受け続けました。本来であれば、エリスリトールも「希少糖」として正当に評価されるべき存在です。
2020年の改正は、こうした「作り方による偏見」を排除し、物質名で正確に表示する時代への転換点と言えます。
まとめ
食品ラベルの「糖質」という数値と、「血糖値への影響」は必ずしも一致しません。エリスリトールや高甘味度甘味料は、食品表示上は「糖質」に分類されますが、実際には血糖値を上昇させません。
食品を選ぶ際は、「人工か天然か」という言葉のイメージではなく、物質名とその生化学的な性質に基づいて判断することが重要です。その土台をつくったのが、2020年の食品表示基準改正です。
※消費者庁 上田委員提出資料
第12回 食品表示基準に基づく「無添加」表示等に関する検討会(2019年9月18日)
資料名:参考資料3 上田委員提出資料(人工や合成を冠した用語の削除について)
※食品表示基準の改正
2020年4月に施行(猶予期間を経て2022年4月に完全実施)
●原材料名欄での削除: 食品表示基準(内閣府令第10号)の改正。
法定表示・任意の強調表示の両面で、原材料名欄に「人工甘味料」「合成甘味料」これらの言葉は事実上使用できなくなりました。
●不使用表示の制限: 「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(消費者庁策定)の「類型3(表示禁止事項に関連する表示)」および「類型4(消費者が添加物に対して抱く過度な不安や誤解を招く表示)」に該当。
現在は「人工甘味料不使用」の代わりに、単に「甘味料不使用」とするか、あるいは特定の甘味料名(例:アスパルテーム不使用など)を具体的に挙げるなどの対応が求められています。