YouTubeとJASRACの契約とは

多くの方がYouTubeとJASRACについて次のような認識でいるようですが、これは間違っています。

間違い「YouTubeとJASRACは包括契約しているから、JASRAC管理曲を勝手に利用してよい」

正確にはこちらになります。

正しいYouTubeとJASRACは契約しているので、動画投稿者はJASRAC管理曲をYouTubeにアップロードする際に、JASRACへ利用申請をする必要が無い

以下で、詳細を説明します。

一般社団法人日本音楽著作権者協会(JASRAC)という団体があります。日本での多くの著作物の管理委託を受けている団体です。日本では他にも同様の団体はいくつかあり、各国に同じような団体があります。

JASRACはYouTubeにアップロードされた動画の内容についても著作権の管理をしています。YouTubeではこのような団体を共同著作権管理という分類にしています。

https://support.google.com/youtube/answer/2620262

音楽の著作権

音楽の著作権は、作詞、作曲の権利、演奏家の権利、レコードの権利など様々な権利があります。JARACに管理を委託している方は、著作権料の徴収などの一部の業務をJASRACに委託しています。

JASRACは著作物利用の徴収業務を行っているだけで、音楽の著作権自体を持っているわけではないです。

YouTubeとJASRACによる2023年2月10日の契約

2008年10月にパートナーシップによる包括契約を結んでいたが、2023年2月から新しい契約をした。

要旨

具体的にユーザーにどのような影響が出るか

カバー曲などをアップロードしている場合、JASRACからContent IDの一致(著作権の申し立て)が来ることがある。これはJASRACがYouTubeのシステムを使って著作物の利用を検出しましたという連絡で、これがあっても特に何もかわりません。
違う楽曲の申し立てなどでないなら、異議申し立てする必要も、動画を削除する必要もありません。

関連リンク

https://youtube-jp.googleblog.com/2023/02/youtube-content-id-jasrac.html

https://www.jasrac.or.jp/release/23/02_2.html
https://www.jasrac.or.jp/news/23/230210.html

https://youtube-jp.googleblog.com/2008/10/jasrac-youtube.html

JASRACによるYouTubeにおける楽曲特定の強化

JASRACは2023年2月にYouTubeでYouTubeが提供する著作物検出システムのContent IDを使用する契約を終結したことを公表した。
しかし、YouTubeのContent IDで検出できない著作物も多いからか、外部のフィンガープリント業者と契約し、YouTubeの楽曲特定を強化することを2023年12月4日に発表した。

今回契約したはバルセロナのBMATと、ロサンゼルスのORFIUMの2社で、今後も著作権管理を強化するとしている。

この契約により、Content ID以外でJASRACより著作権の申し立てが増える可能性がある。

関連リンク

https://www.jasrac.or.jp/release/23/12_1.html

JASRACに本来行わなければならない利用許諾手続き

通常、JASRAC管理曲を何らかの形で利用する場合、JASRACに利用許諾手続きをし、利用料を支払う必要があります。

YouTubeなどの各種ネットサービスは、JASRACと各サービスが利用許諾契約を締結しています。この契約によってユーザーは個別にJASRACに利用許諾手続きをする必要がありません。利用料はYouTubeなどがユーザーに代わって支払っているようです。

JASRACと契約しているネットサービス

https://www.jasrac.or.jp/info/network/ugc.html
https://www.jasrac.or.jp/news/20/ugc.html

JASRACはアップロード可能としているが

JASRACはフローチャートなどを用いて、JASRAC管理曲の場合、自分で演奏・歌唱等をした楽曲ならアップロード可能としています。

https://www.jasrac.or.jp/info/network/pickup/movie.html

これはあくまでもJASRACとしての判断であって、本来の著作者である作詞作曲者の意向ではありません。

本来の著作者がカバーであってもYouTubeに掲載することは不可能と判断すれば、アップロードしたカバー曲は著作権侵害になって削除される可能性があります。

最近の一般的な権利者は、カバー曲などがネット上にアップロードされてもUGCによる盛り上がりを期待し、そのこと自体は許容している人が多いです。
問題になるのは、一部にカバーであっても認めないとしている人の存在です。これは権利者の当然の権利ですが、そのような権利者が誰なのかはわからないので、著作物を使用する場合は事前の確認が必ず必要です。

YouTubeでの著作物の権利侵害の判断はJASRACは行っていない

YouTubeに投稿された動画が、権利上問題あるかないかを判断するのは著作権者です。JASRACは著作権管理の委託を受けてYouTubeから一定の利用料を得ているだけです。

JASRACは全ての管理曲をYouTubeに投稿することに対して拒否していませんが、それが作詞、作曲者等の考え方と同じかはわかりません。作者によってはYouTubeへのアップロードは、カバーであっても拒否している場合もあります。

YouTubeに投稿される動画等での著作物の利用可否に関する判断はしていません。その判断をしているのは本来の著作者です。

YouTubeとJASRACの包括契約とは何か

2008年10月23日にYouTubeとJASRACが包括契約し、JASRAC管理曲がYouTubeで使えるようになったという報道がありました。上記の各種ネットサービスとの利用許諾契約の事を包括契約していると報道されたようです。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/23/news094.html など

この契約の内容は明かされていませんが、JASRAC管理曲そのものやカバー曲などがYouTubeに投稿された場合、その動画の再生時間などに応じて、サービスのプラットフォーム側が一定の著作権使用料を支払う物と予想されます。

つまり、

ということになります。

くり返しになりますが、JASRAC自体は投稿された動画の可否の判断をしていません。YouTubeに管理曲が含まれた動画を投稿して良いかどうか、権利侵害かどうか等をJASRACは判断していません

包括契約の具体的な料率

https://japan.cnet.com/article/20382484/

などには、JASRACが動画共有サービスにおける使用利率を音楽は2.8%、一般娯楽が2.0%としています。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/20081023/jastube.htm

では売上げの1.875%を支払う事で合意した。とあります。

同時期にJASRACとニワンゴが運営するニコニコ動画での料率は、2008年当時のストリーム配信に適用される料率が1.5%だが、投稿者が音楽を複製することを加味し25%増しの1.875%で包括許諾契約としたとあります。

https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20080401/297727/

実際にはYouTubeとJASRAC契約内容の詳細は公開されていないのでわかりませんが、上記サイトの利率は取材時に確認した物と思われます。
少なくとも、2008年のYouTubeとJASRACの包括契約ではこの利率で契約されたのだと推定されます。

仮にこの利率でJASRACに支払っている場合、YouTubeの売上げは2020年前後に年間2、3兆円ほどあり、日本の売上げが10%だった場合はその1.875%で年間50億円前後になります。この50億円が実際の権利者に分配されます。

YouTubeとJASRACの包括契約と動画投稿者

JASRACの包括契約はYouTubeとの契約であり、動画投稿者には直接何の関係もありません。前述したように、投稿者がJASRACに個別に報告して使用料を支払う手間が無くなっているだけです。

JASRACはYouTubeへのアップロードの可否の判断をしていないので、音楽等をYouTubeに投稿する際は、その著作者に直接確認してください。著作者とは作詞作曲者、そのマネージメントをしている会社、レコード会社等です。

Muserkという著作権管理事業者

JASRACがアメリカでのYouTubeでの使用料徴収で契約している正規の管理事業者です。

https://www.jasrac.or.jp/smt/release/20/2004_2.html

https://www.jasrac.or.jp/news/pdf/200703_muserk.pdf

Muserkのように日本以外で管理されている管理事業者の一覧は

https://www.jasrac.or.jp/link/overseas/pdf/territory.pdf

にあります。

JASRAC管理曲で「この動画の音楽」に謎の会社の名前がある

通常、JASRACは日本国内での契約で、国によっては他の管理団体が管理している場合があります。

YouTubeでのこの動画の音楽を確認してください。

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