以前の記事(No.45、クリックで飛びます)で、高等学校授業料無償化が議論されていることを取り上げました。その後、自民・公明・維新の3党が合意しました。一方、この施策に対しての疑問・批判が結構出ております。
県労連の会議で「実際どうなるの?という保護者からの相談が自治体に来ている」との話もありまして、もう少し詳しく記事にします。平成22年から4年間実施された「公立無償化(授業料不徴収)と就学支援金」、「現行の就学支援金」との違いなども分かるようにしたいと思います。
注意!このページでは授業料を中心にした内容になっています。入学金やその他学校納入金については詳しく触れていませんのでご了承ください。
〇国の基準による就学支援金
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342674.htm(文部科学省 高校生等への修学支援)
・支給対象かどうかを算定するための計算式は「市町村民税の課税標準額×6%ー市町村民税の調整控除額」とされています。
※下記に「支給」とありますが、実際は「生徒・保護者に代わり、学校の設置者に国が相当分をおさめる」かたちになります。
〇公立高等学校の場合、世帯年収約910万円未満を目安として授業料相当(年11万8800円)が支給。
〇私立高等学校の場合、世帯年収約910万円未満を目安として年11万8800円~39万6000円を上限(上限は590万円未満を目安)に支給。世帯年収によって支給額が異なります。
※合意した改正案との比較はこちらの記事のグラフが見やすいと思います。
(テレビ朝日 https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900019564.html)
公立と私立で取り扱いが異なることが注意点です。
〇公立の場合
国、県等の制度解説によれば、「本来保護者が各学校に納める授業料を、都道府県や設置者に対して国が相当分を交付するシステム」です。ですから公立高校について言えば、保護者に直接支給される性質のものではありません。つまり、生徒(保護者)と学校間での直接的な授業料のやり取りは原則発生しません。
文科省の資料には「※学校により、就学支援金の支給決定までの間、授業料を徴収し、就学支援金相当額を後日還付する場合があります。経済的に困難な家庭への猶予措置等を利用できる場合もあります。詳細は学校へお問い合わせください」との記載がありますが、おそらく基本的には私立学校に関わるところなのでは、と思います。
〇私立の場合
私立学校の場合授業料は一定ではないため、学校によって対応が異なるようです。ただし、「授業料と相殺される」性質のものであることは同様です。以下、例をあげます。
・前期の授業料はそのまま払い、後期支払い分で相殺される
・支給額が決定してから、相殺されたあとの金額で案内される⇒総務省的にはこれが望ましいようです。
・いったん授業料を支払ってから、就学支援金分に相当する金額が返還される
具体例)聖霊学園高等学校の授業料と就学支援金に関する記載・・・
※所得に応じて国から就学支援金が給付されるので、実際はその差額を納入していただくことになります。
※高等学校等就学支援金の支給が決定するまでは、正規の授業料額を負担していただきます。
⇒おそらくその後、保護者に還付?
(注!その他秋田県の私立学校(明桜、国学館、令和、修英)の入学試験要項にも、授業料と就学支援金に関する記載はありますが、聖霊のように授業料の実際の手続き等については記載がありませんでした)
(注!総務省の調査によれば上記3例のように、私立学校における取り扱いは学校によって異なるようです。ですから、「入学時に授業料等すべての納付金をひとまず入金するシステム」の学校もあるので間違えないよう、入学予定の高校に確認しましょう)
〇支給期間
全日制:36か月
定時制、通信制:48か月
※オンライン、マイナンバーでの手続きができるようになっています。
〇公立、私立ともに変わらない・・・
・概ね3月から4月、入学オリエンテーションや学校からの入学手続きの通知等に申請のための要項がお手元に届きます。ここでは入学年度の4~6月における対象確認と支給額確定のために申請。必要書類は県または国、学校法人の要項で確認できます。
・毎年度(入学年度含む)7月頃に収入状況(課税状況)の届け出を行います(7月以降の対象確認と支給額確定。2年次以降4月の申請はせず、7月のみ)。
※学校等から入学手続き時に連絡、お知らせなどがあります。毎年の届けが必要になるとお考えください。
〇公立高校の授業料の納付日
・納付日は各県で異なっていますが、秋田県の公立高校の場合(前から変わっていなければ)1回目の納付日は6月中旬になります。5月下旬には就学支援金の申請結果が出るそうなので、
基本的に「先に授業料を納付してあとで保護者に還付・給付」というかたちにはならないと思われます。
〇私立高校の授業料の納付日
・各学校によって異なります。前述の2の後半にあるとおり、学校によって対応が違っていますので、注意が必要です。
・公立と違い、「先に納付⇒支給額決定後その分を還付」は十分にあり得ます。
平成22年4月から平成26年3月までは、民主党政権下における「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律 」という法律が制定されていました。このときは文字通り公立高校授業料は「不徴収」でした。
その後、所得制限がかけられ「高等学校等就学支援金の支給に関する法律 」に改正されています。また、令和2年4月から私立学校の就学支援金の上限が引上げられるなど、改正が行われています。これが現行制度であるわけです。ですから、「あくまで支援金の支給」であり「厳密にいえば不徴収の制度ではないので、『実質無償化』」などと言われます。
〇現行制度の申請の流れ:「生徒・保護者の申請」⇒(学校)⇒「都道府県」⇒「国」⇒支給対象か確認
〇現行制度の支援の流れ:「国から授業料分を交付」⇒「都道府県でその分を受け取る」⇒(学校に配分)⇒「生徒・保護者は国に払ってもらったかたち」
※現在の制度は上記のような流れになりますが、今後「不徴収」になるのであれば上の「〇申請の流れ」は不要になるでしょう。ただ、立憲民主党が出している法案では、この件に関する言及は特にありません。
公立高校の場合、平成26年度から所得制限がかけられたことにより事務手続きが増えたといえます。「授業料不徴収(無償化)」における手続き等について、鳥取県のHPに平成26年3月以前に入学した生徒に関して次のような記載があります。
≪無償化とは(抜粋)≫
・県立高校の、全日制、定時制及び通信制に平成26年3月以前から在学する生徒は授業料を支払う必要がありません。(不徴収)
・授業料の不徴収となる対象として、所得制限はありません。
・生徒本人や保護者の皆様に行っていただく手続きは、特にありません。
これが平成26年4月から所得制限がかかったことにより、収入、課税に関する確認が必要になったため、申請が必要になりました。後述しますが、この申請方式が継続するかどうかは今のところ不明です。
5 今回の無償化で、事務手続き等はどうなるのか
現在、国会で審議されているわけですが、実際の事務手続きがどのようになるのかは、はっきりいってわかりません。公立に関して言えば、以前の「不徴収」のときのように生徒や保護者の手続き不要になるのか、それとも現行制度のように申請を継続するのか、私立高校のやり方はどうなるのか、といった実務的なところは不明なままです。これを4月からとなると、バタバタバタバタの状態になりそうな気がします。
政争の具にされてしまったが故に、十分な設計ができているのか、どのように実務が行われるのかがわからないという状態です。県庁も、「どうすんの?」というように思っているのでは。学校側も通知しなければなりませんから、申請用紙を用意したりなんなり。一番は生徒、保護者だと思います。もう3月ですので、変わるなら事務作業のことを通知すべきなのですが。
大学の修学支援に関する制度も年々拡充されていますが、それについてはまた別の記事で。