高等学校授業料無償化が「2025年度予算案」を成立させるための道具にされてしまうような議論が進められている一方で、国による高等教育(大学等)修学支援についても議論されています。もちろんこれ以外にも各自治体、各大学による支援がある現状です。
何故こうした無償化が進められているのかも合わせて、現在の大学等進学に対する公的支援についてまとめてみます。
この無償化に関する動きの根底には、国連人権規約のうち「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」が関係しています。この大元の規約については1979年に日本も批准しました。しかしその際、いくつかの留保をしていました。それが下記です。
・公の休日についての報酬の支払(第7条(d))
・中等・高等教育についての無償化の漸進的導入(第13条(b)、(c))
このうち第13条については、2012年9月に留保を撤廃することを国連に通告しています。高校無償化がはじまったのは2010年ですので、高校授業料不徴収が実施されている時期に留保撤廃があったということになります。
こうした国際的な動きやいわゆる「少子化対策」という観点も含めて、このような施策が進められているものと考えられます。
令和2年4月からの「高等教育の修学支援新制度」について文部科学省の特設ページがあります(https://www.mext.go.jp/kyufu/)。また、その他奨学金事業についても別途ページがあります(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shougakukin/main.htm)。
〇高等教育の修学支援新制度
この制度は令和2年度から開始された、給付型奨学金支給と授業料・入学料の減免(または減額)の事業です。
・対象者:住民税非課税世帯の学生またはそれに準ずる世帯の学生または多子世帯、理工農系
※対象になる学校リストが公表されています。文科省のリストからご覧ください。
※住民税非課税世帯の学生は給付型奨学金満額と授業料等上限額満額減、それに準ずる世帯の学生は区分に応じて2/3、1/3または1/4。また、国公立と私立では給付、減免(減額)の額が異なります。
(注意点!)授業料、入学料は国公立であればある程度一定ですが、場合によっては大学によって違いがあります。また、私立となると大きく変わってきます。文科省等の資料にある金額は、あくまでも減免額の上限です。
授業料、入学料等が上限額未満の場合は、「実際の授業料、入学料に対する2/3、1/3、1/4」になります。
なお、秋田大学では実際にこの制度を申請し、対象となった場合の金額をHPに掲載しています。丁寧ですね。
※世帯の収入、課税状況によっては在学中、区分の変更がありえます。
◎多子世帯の授業料等無償化(2025年4月~)
2025年4月から多子世帯への大学等授業料等無償化が拡充されます。
子どもが3人以上の世帯の学生で、国公立の場合は授業料年70万円+入学金26万円が減額されます。私立の場合は4年間で最大70万円×4年+入学金26万円が支援されます。所得制限はありません。
ただし、「子ども3人以上全員が扶養されていること」が必要です。つまり、
例1)「3人兄弟のうち一番上の子どもが大学を卒業するなどして、その後扶養から外れた時点で(扶養されているのは2人であると認定され)多子世帯とはみなされません」ので、第2子はこの制度の条件からは外れます。ですから、3人以上の兄弟・姉妹であれば、その兄弟・姉妹が全員この制度の条件に当てはまるわけではありません。
例2)「3人兄弟のうち、(第1子と第2子の二人など)複数が大学に入学、在籍する場合」、どちらも対象になります。
例3)「3人兄弟のうち一番上の子どもが大学を卒業をしたが継続して扶養される場合」は、第2子がこの制度の対象になるようです。ただし、この例についてはケーススタディが少ないこともあり、確認が必須でしょう。
例4)「扶養する子が3人以上で第1子が大学院に進学し、第2子が大学に進学した場合、第2子が支援の対象」になります。この辺も文科省のページで図解されています。大学院に進学した第1子は無償化の対象にはなりません。
※ここまでの修学支援には学業、出席に関する要件もあります。状況によっては支援打ち切りの場合もありますので、注意が必要です。
ここで触れている制度のほとんどは、「日本学生支援機構(JASSO)」への申請が必要です。また、高等学校在学中に予約申し込みをおこなうことができ、一般的には高校を通して予約します。オンラインでの申し込みが必要になりますが、必要事項を入力するために事前の資料は必要ですし、別途提出を求められる書類もありますので、事前に確認しておきましょう。
大学在学中に制度変更があった場合は、在籍する大学で申請をすることになるでしょう。もちろん、高校で予約していなかった場合も大学入学後に申請することは出来ますが、支援の開始が遅れることになります。貸与型の奨学金も同様だったと思います。
※上記のように記載しましたが、そもそも、高等学校の教員が「日本学生支援機構の業務」を請け負っていることに問題があります。オンラインでの申請になり負担は減ったとお思いでしょうが、実はそうでもありません。生徒がそれぞれ自分の時間で入力するのではなく、最初は「奨学金申請を行う生徒全員で一緒に」「教員が見守りながら」やっていると思います。不備があった場合も、学校で対応することがあります。
教育上その方がいい場合もありますので最初の最初はやってもいいと思いますが、入力不備や書類不備については、生徒・保護者と支援機構でのやりとりを基本としてもらいたいものです。
日本学生支援機構の奨学金は、ここまで述べてきた給付型だけでなく、よく耳にする貸与型奨学金もあります。
また、都道府県や各学校、教育団体も奨学金や支援を行っています。高校などにはこうした修学支援の文書が届きますので、進路指導の先生や担任の先生などに確認するとよいでしょう。
ただし、特に支援機構以外の修学支援については、申請したからと言って必ず採用されるわけではありません。要件や人数制限などによりますので、注意してください。
さらに、教育ローンなどもあります。大まかに言って、入学に関わる費用は教育ローンを使い、奨学金は入学後のものと考えた方がいいと思います。教育ローンは生徒が契約するわけではなく、保護者が契約者になります。奨学金の場合は申請が生徒本人になりますので、それが違いの一つになります。
おおよその学校は、入学案内等にこうしたものについて記載している場合が多いですので、自分が目指している学校、お子様が目指している学校をきちんと知る意味でも、要項やパンフレットはよく見ておきましょう。
5 学業要件をお忘れなく
日本学生支援機構、その他の支援も、学業に関する要件があります。大学等に入学後だけでなく、支援を受けるために高校段階での学業なども考慮されます。なんでもかんでもではない、ということです。
6 おわりに・・・貸与型奨学金は借金
給付型や授業料・入学金減免は、あとあとまで尾を引くことはありませんが、貸与型は「借金」になります。前述した通り、教育ローンは保護者が、奨学金は本人が契約の主体になります。就職後の返済が苦しいという記事、報道はたくさん見られます。おそらく猶予制度もきちんと周知されていないものと思われます。
私が進路指導をする際、生徒が国公立大学、私立大学、専門学校等に進学したいという生徒がいた場合、必ずこの話をしました。入学に当たっての費用もかかるわけですし、1人暮らしをするとなれば生活費もかかります。奨学金があればなんとかなるわけではありませんから、保護者にもお話させていただきました。
こうした金銭的な話を保護者や生徒にすることはけっこうしんどいのですが、「合格した後にそれがわかった」「入学直前に費用が足りない」といったケースも耳にします。それによって最も不利益を被るのは、生徒です。そういったことがないよう、入学金、授業料、設備投資費、○○会費、入学時に必要な機器の購入費などなど、生徒と一緒に見て、「いついつこれをいくら払う」「入学前にこれを買う」といったことを確認したと思います。
これ以外にも学生を支援するものはありますが、ここでは代表的なものについて触れました。自分自身もそうですが、高校生段階で金銭的なことを詳しく考えることはあまり多くないと思います。だからこそ、高校を卒業したら自分は何をするのか、それによって収入は?支出は?といったことが大事なのだと思います。