2025年5月28日、共同通信その他報道機関から「教諭の残業で香川県に賠償命令、校長が労基法の義務果たさず 「初判断」専門家評価」というような記事が出されました。
色々な面で画期的と考えられる判決ですが、詳細がいまいちわかりません。今、報道されている範囲内でまとめます。
※あくまでも個人の見解です。不明確な点もあることはご了承ください。
著作権を害さない範囲(たぶん)で箇条書きにします。
(訴訟内容)
・香川県高松市の元教員が訴訟を提起
・合宿や会議で時間外勤務を命じたのに、割り振り変更しなかったこと、合宿で休憩時間を与えなかったことが、労働基準法に反する権利侵害であるとして損害賠償請求
(判決)
・労働基準法に基づく義務を果たさなかったとして、権利侵害を認定、県に元教員への賠償を命令(5万円)。
・勤務時間の割り振り変更を怠ったこと、合宿中に休憩時間を与えなかったことを認定
(県の主張と今後)
・教員の業務は指揮命令の業務と自主的な業務が混然一体となっており、校長が労働時間を的確に把握するのは不可能。
・控訴する方針(県議会に専決事項議案提出)
(有識者の反応)
・大阪大学 高橋哲准教授「公立校教員の残業について労基法違反での賠償責任を認めた判決は初めて」
判決文を読んでみないことにはわからないことも多いのですが、個人的にポイントになりそうなところを挙げます。労働基準法も加味した問題点はリンクの記事が詳細です。前述した高橋先生が寄稿しています。
①勤務時間の割り振り変更
報道によると「校長が、勤務時間を大幅に超えることを認識しながら、別日への割り振り変更を怠った」とされています。おそらく多くの学校では修学旅行がその代表例になりますが、「勤務時間の割り振り変更」が行われています。勤務が所定の勤務時間を超える場合、別の勤務日に早く帰ることができるように割り振ったりします。自治体によると思いますが、修学旅行に限らず、各種学校行事、交通安全週間の立ち番や学校祭の準備期間も、校長判断で「この日の分、後日早めに帰ってOK」とする場合があったりなかったり。
②会議等の時間外勤務が発生した場合
どこまでどのように行われているかは不明ですが、いわゆる超勤4項目には職員会議という項目があることから、校長が教職員に対して職員会議のために時間外勤務を命ずることはできることになります。これは給特法及び政令で定められています。しかし留意が必要なのは、各種法令で見ることのできる「正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務は命じないものとする」の文言です。これによれば、超勤4項目に当たる業務が正規の勤務時間を超えた場合、別日で勤務時間の割振変更を行い、1日8時間、週40時間を超えないようにする必要があると考えられます。ただし、労働基準法では「残業手当を支払う代わりに、労働時間の回復措置を講じる」規程があります。
③休憩の有無、平日か週休日か、合宿の性格は
報道では「合宿で休憩時間を与えなかった」とあります。その合宿がどのようなものだったのかがはっきりしないため、憶測の域になってしまいますので、この点はなかなか判断しがたいところです。休憩を与えなかったのは何故か、そもそも何が賠償命令を出す主要素だったのか。まだわかりかねます。
香川県の主張は、従来文部科学省が述べてきたこととほぼ同義と思われます。「労働時間を的確に把握することは不可能」とありますから、もしこの通りだったとすれば「不可能」というのはかなり強い言葉です。ただし、これまでの裁判の判決でも同様の文言を見ることができますので、ありえる話です。
すでに控訴する方針のようですから、給特法や関連する法令を根拠にして、同様の主張がされるものと思われます。
これも正しくは判決の本文を読まなければなりませんので、あくまでも「こうではないか」というものとお考え下さい。
まず、長時間に及ぶ会議とわかっていながら勤務時間の割振りを適切に行わなかったことを認定していますが、これはそうしなければ「1日8時間、週40時間」という労働基準法第32条に抵触するから、ということなのでしょうか。報道では休憩時間を与えなかったことも合わせて、同法同条が教員にも適用され、労基法に基づく義務を果たしていないと判断したとのこと。その権利侵害が肉体的、精神的苦痛を与えたとして賠償を命じています。
休憩時間を与えなかったことについては、その合宿の勤務形態がわからないためなんとも言いがたいですが、もともと、休憩時間を与える義務を定めているのは労働基準法第34条になります。
香川県はすでに控訴する方針です。まずは今回の判決を詳しく見てみる必要があります。
2023年に最高裁判決が出たいわゆる「埼玉県教員超勤訴訟」は、「時間外割増賃金等事件」として判例報告されており、一方で2022年大阪の裁判は「国家賠償法1条1項または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求」となっています。
今回の裁判は「適切な勤務時間の割振り及び休憩時間の確保がいずれも行われなかったことで、労働基準法に反する時間外労働を強制されたことに対する賠償」を求めたものです。
それぞれ次のような結果だと推察します。
〇(埼玉)長時間におよぶ時間外勤務に対する時間外勤務手当を請求(予備請求として校長の注意義務違反に対する請求あり)⇒給特法の趣旨を尊重し、教員のあらゆる時間外は労基法第37条から適用除外されるため、時間外勤務手当は支給されない(国家賠償法上の責任についても、自由意思を極めて強く拘束するような時間外勤務命令はなかったと指摘 )(最高裁まで)
〇(大阪)長時間におよぶ時間外勤務が改善されず、心身の健康を損なったことに対する安全配慮義務違反に対する賠償請求⇒安全配慮義務違反を認め、賠償命令(地裁のみ、控訴なし)
〇(香川)勤務時間の割振り変更不備と休憩時間を与えられなかったことによる労働基準法違反に対する賠償請求⇒労基法違反で賠償命令(今のところ地裁、いずれ高裁へ)
3つの裁判はこのような違いがありますが、すべての裁判に共通しているのが、「教員の勤務時間、時間外勤務の定義をどう捉えるか」。
今回の高松高裁の判決は、「労働基準法に定められた勤務時間は、給特法で定めた時間外勤務させることができる業務に当たらせたとしても守る必要があるということ」「休憩時間があたらえれていなければ労基法違反」と、いうことが述べられたものと考えることができますが、はっきりとは言い切れません。
このあとも引き続き情報の収集にあたります。