浜辺のくさぐさ

P大島昌二:2020.10.11

森下一義さんへのお見舞いを兼ねて海辺の花の写真を並べてみました。

0111 アメリカネナシカズラ。覆われている紫の花をつけた植物はハマゴウ

0160 同上。黒ずんで枯れているのはハマゴウ。

0174 浜には巨大な流木が打ち上げられていた。

0142 オオマツヨイグサ

ハマユウ 2019年撮影のもの

0169 ヒガンバナの群生。

コロナウイルスが文明を慴伏させている間に何とか勇気を奮い起こして安房鴨川の海辺を散策してきました。そこには汐入公園という小さな海浜公園があって毎年夏、そこのハマユウ(ハマオモト)を見るのが楽しみになっていました。しかし今年は夏も過ぎてしまい、ハマユウは見えず、昨年の水害の名残で海沿いの遊歩道も雑草に道を狭められていた。雑草とは言ったものの実際はハマゴウという砂地をはって紫色の花をつける落葉低木である。

ハマユウが見えないので砂地にあがってみると黄色い網のようなものが草むらに広がっているのが見えた。波が運んだ細い漁網ででもあるかと思って通り過ぎるところであったが後ろを歩いていた長女が「これ植物よ」という。見ると確かにつる性の植物で見分けがつかないほどの小さな花をつけている。

「これ何だろう?」こういう時はスマホに撮った写真を送って”Green Snap”という無料アプリに問い合わせる。時を置かずに人工知能から返信が来るがたいていはあてにならない。数多く打たれた鉄砲玉である。少し待つとこれを見た親切な植物愛好家からいろいろな花の名前が送られてくるが写真を見て花の名前を特定することはやさしくはない。それでもいつもは役に立つのであるがこの植物は難題と見えてなかなか当りがない。

このアプリの存在を教えてくれたのは黒潮丸の森下一義船長である。多芸多才の森下船長にはいろいろのことを教えてもらったので今回の発病の知らせを受けた時は取り急ぎお見舞いのメールだけは出しておいた。頭がしっかりしているので一か月後という退院を待って朗報が聞かれるものと思っている。ただご夫人の健康状態を心配しておられたようなのでその心労が病状に影響を及ぼさないことを祈っている。

それまで一度も面識はなかったのだがやはり庭仕事の好きな私の従弟妹夫妻が伊豆高原の彼の家近くに引っ越した時に、彼らを紹介がてら、森下さん宅を訪ねてご自慢の庭園を見せてもらったことがあった。つい最近のように覚えているが15年ぐらいは経っているかもしれない。

いろいろ教えてもらった中では今回も森下さんの「マドンナ候補」に挙げられている歌人の山中智恵子が気になりっぱなしでいる。深い情感のこもった幾つかの歌は何とか分かった気になっているが、ほとんどは私の理解のかなたにある。詩人の西脇順三郎は、一読すぐわかるようではろくな詩ではないと言っているそうだからこれからもたのしみが残っている。

さて冒頭の謎の植物に戻ります。便利な時代なのでインターネットなども活用して調べたところ、アメリカネナシカズラというところに落ち着いた。添付の写真をご覧ください。よく似たものにハマネナシカズラがありますが、この国産種は絶滅の危機に瀕しているとのことですからそんなにたくさんあるわけはないというのが判定の根拠です。この植物は、最初は根があるのですがその根はすぐ消えて根無しになり、寄生した他の植物から栄養を摂ってそれを滅ぼし、次いでは己も枯れてしまうという罪深い植物です。

『房総の生物』という1985年発行の分厚い図鑑を見ましたがこれはまったく出ていません。いかにうかつとはいえ、自分も30年ほども訪れていながらそれに気がつかなかったところをみれば、姿を現したのは近年のことではないだろうか。自然を脅かしているのはコロナばかりではない証拠としてよいだろう。

浜辺を離れて国道128号線に出ると道の反対側の山林にヒガンバナの群落があたり一面を明るくしていた。植物の種類は無数と言ってよく、カズラという名を持った植物は数多い。ヒガンバナ(彼岸花)は雨の降るオランダ屋敷に咲いていたという曼殊沙華を含めてその名の数の多いことで知られる。不思議な花で、いつの間にか高く伸びている。花が散ってから葉が出ると教えられていたがその葉がどこに出るのか分からない。しばらくして地面から水仙の葉のような線状の葉が叢生するのに気づいて初めて納得するという具合だった。

ついでに浜近くに咲いていたオオマツヨイグサの写真も入れておきました。宵待ち草、月見草という正体不明のロマンチックな草花はこれを指すものとされています。