同年4月から審議が始まった給特法等関連法改正法案。もう一度ここで「何が」「どう」改正されようとしているのかを確認してみたいと思います。
文部科学省が提案した法案の概要は次のとおりです。
①教育委員会に対し、教員の業務量の適切な管理と健康・福祉を確保するための措置を実施するための計画の策定・公表、実施状況の公表を義務付け。あわせて、総合教育会議への報告義務付け(給特法第8条関係)
②学校評価に基づき講ずる学校運営の改善を図るための措置が、上記計画に適合するものとなるように義務付け(学校教育法第42条関係)
③学校運営協議会(設置している学校)が承認する「基本的な方針」に、業務量管理・健康確保措置の実施に関する内容を含める(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第47条の5関係)
④児童生徒の教育をつかさどるとともに、学校の教育活動に関し教職員間の総合的な調整を行う「主務教諭」を置くことができることとする(学校教育法第27条、第37条関係)
⑤教職調整額の段階的引上げ(給特法第3条関係)
⑥義務教育等教員特別手当の支給割合の変更と学級担任加算(教育公務員特例法第13条関係)
⑦指導改善研修を受けている教員には、教職調整額不支給(給特法第3条、第5条関係)
1で述べた点について、それぞれに問題点があります。①~⑥は1と対応します。
①~③はいわゆる勤怠管理の徹底が挙げられています。こうした義務付けにより管理側の意識向上が考えられますが、一方で、教育委員会、管理職双方の評価にもつながることになりますので、「早く帰れコールの増加」「通常の勤務時間では終わらない」などといったことが起こり得ます。というか、すでにそうなっています。
④「主務教諭」の新設は、「置くことができる」規程なので、各都道府県の判断に委ねられています。その時点でお察しなのは明らかですが、そもそもこの職の役割は一体何なのか疑問でしかありません。また、新しい職階を導入することにより教諭(現行2級)の賃金が下がるのでは?という声に文科省は「国庫負担の単価は変えない」と述べています。しかし、先行して同様の制度が東京、大阪で実施されていますが、全体の予算が変わらない中で新しい級を作った結果、2級の賃金は下がっていますので、そうなった場合「自治体の判断です」と言われる可能性があります。
⑤教職調整額の引上げ自体はそれが当然という意見もあります。それは時間外勤務の実態がそれ以上になっているからです。一方で、超長時間に及ぶ時間外勤務を削減する手段にはなり得ないとも言えます。また、幼稚園教諭は4%据え置かれる方針です。
⑥義務教育等教員特別手当は全体の支給率が1.5%です。これを1.0%に下げた上で、担任に対するこの手当を3,000円分上乗せするんですって。同時に多学年学級担任手当を廃止、特別支援教育の「給料の調整額の縮減」、「特別支援学校学級の担任上乗せなし」など、予算の総額が決まっている中で、差し引きしていることが伺えます。
つまり、全体の予算総額はやはり変わらないわけですから、そのなかでやりくりしていこうとすると、「こっちが増えればあっちが減る」ということが容易に想定出来てしまいます。
この改正法案に対して、野党から修正案が提案されました。
●附則に次のことを盛り込む
・2029年度までに時間外在校等時間を月平均30時間に削減する
・教員一人あたりの担当授業時数の削減
・教職員定数の標準の見直し
・保護者対応支援など
※5月12日時点では上記修正案を踏まえて、5月14日に採決が行われる予定です。
この間の報道と審議内容を見ますと、改正法案賛成>反対の状況です。参考人からは賛否の意見が出ていました。
首相は「時間外在校等時間について、将来的には先生方の平均時間外在校等時間を月20時間程度に縮減することを目指している。まずは今後5年間で、月30時間程度に縮減することを目標としている。今回審議中の法案を認めていただければ、全ての教育委員会において教師の業務の管理などにかかる実施計画を策定することになるので、国としての工程の取り組みを示していけるように必要な取り組みを行っていく」 と述べています。
「超過勤務手当が支給されないこと、超過勤務を命じないこと」は、給特法成立以前の1948年から行われていました。しかし実態は、時間外に仕事を行うことになっていたことや給料の優位性が低下していたことから、1968年前後に訴訟が多数行われました。
それから60年弱、同じことの繰り返しになっていると見ることもできます。
給特法成立に関する文部科学省の資料によれば、「教員の勤務態様の特殊性」の例として挙げられているのは「修学旅行や遠足などの学校外の教育活動」「家庭訪問や学校外の自己研修など教員個人での活動」「夏休み等の長期の学校休業期間」であり、これをもって「教員固有の勤務態様により勤務時間の管理が困難」と判断されたということです。果たしてこれらの事例は、そう言えるだけの根拠となり得るでしょうか。
おそらく今後もこの仕組みが続いていく可能性が高いですが、フリージャーナリストの前屋毅さんが記事で述べていたように、「いわゆる時短圧力(過度な)」が起こるでしょう。校長の人事評価に関わってくるとなると尚更です。